69 / 188
第二章
コネクション
しおりを挟む王宮主催のパーティー。いつもは肩身の狭い思いと陰口に苦しみながらも王家主催のパーティーを断る事は出来ず、必死に耐えながらも貴族としての務めを果たしてきた彼女達。
しかし、今日は違う。
彼女達が清々しい気持ちで此処に立つのはいつぶりなのだろうか。
リーンの肌には遠く及ばないながらも、今此処にいる全ての男女を集めても、彼女達の肌に勝る人はいない。
「私達は今日、此処にいる誰よりも美しいわ」
「はい。お母様」
会場内にアナウンスが流れる。
ーーランドマーク家 夫人ニフカ様 御令嬢ナターシャ様入場です
いつものように集まる視線も今日は寧ろ有難い。
どうぞ見てください。
「な、何んだ?ランドマーク家って…離反の…」
「お、お母様!あの方達…き、綺麗…ね…」
今、貴方が手を握っている絵画のような厚化粧の女にときめいているのはまやかしよ?
「…よく見ると、お前…」
「なッ!なによ!」
誰がどう言おうと今日1番美しいのは私達だ。
「あ、のお父様…あのお嬢様の…お名前は…」
「あぁ、あの方はランドマーク侯爵家のナターシャ様だ…いや、しかし…」
頬を染められようとも、跪かれようとも、全く興味はありません。
「…お美しい。此方を見てくれないだろうか…」
「本日のダンスの相手はお決まりですか?お嬢様」
美の秘訣?貴方達に誰が教えるものか。
「何をお使いになられてるのですか?」
「卵のように美しいお肌ですわね?」
ランドマーク侯爵はいつも言っていた。
この国民を大事にしない馬鹿馬鹿しい王国が生まれ変わる時が必ずくる、と。そんな強く、誰に屈しず、ブレることのない旦那を彼女は心から尊敬している。
そして、本当にその通りになった。
九節9年。誰がこの下剋上を想像しただろうか。
どんなに金を積もうとも手に出来るのは1部の選ばれし者だけ。リーンハルト様のお眼鏡に叶ったものだけ。こんなにも清々しい気分で此処に立てるとは思ってもいなかったのだ。
「国王陛下、並びに王妃殿下にニフカ・ランドマークナターシャ・ランドマークがご挨拶申し上げます」
「ご苦労」
「ニフカ、久しぶりね。なんだか雰囲気が変わったわ…。特にお肌とか」
此処は女の戦場。
誰にも話さなかったのはこの為。
この一瞬の大舞台で私達が勝つ為。
「王妃殿下にお褒め頂き、誠に光栄で御座います。とある商会から購入した“美容液”と“乳液”を使ったところこのように」
「ほう、聞き慣れない商品だな。近頃新しい商会が出来たとか。ブロッサムとか言うところかの?」
「流石、国王陛下で御座います」
見事に踊りなさい。リーンハルト様の手の上で…。
「お母様、お疲れ様でした」
「ナターシャも良くやったわ。ハルト様の御指示通り、王妃殿下に商会について流せました。楽しんでくださるかしら」
王宮のパーティー以降、その影響力はかなりのものだった。商会やレスター、シュミットとコンタクトを取りたがる貴族の群れが出来上がっていた。
彼らを更に奮い立たせる為、彼らの目の前で商会へ入って行く姿を見せたりもした。
案の定貢物は増えたが、本当に大金になる物は少なく、明らかに此方を馬鹿にした金を塗りつけただけのメッキ加工ですら無いブレスレットや気泡が入ったままの雑なガラスを嵌め込んだ指輪。王室からは寄越せ、と言わんばかりの催促状。これには流石に笑わずにはいられなかった。勿論心の中で。
そんな中でも此方を馬鹿せず、人としてもまともだった2家とコンタクトを取る事にした。この2家はシェアマス家側に着いていなかったので前回の選考には堕ちたが、所謂新興貴族で今の貴族社会に飽き飽きしているまともな家だ。どちらも男爵家ではあるが、領地は何とか維持している。
次の段階に行く時がきた。
「ニフカ様もお人が悪い。何も王妃に喧嘩を売らなくても…」
「しかし、効果は絶大です」
「そうですね。レスター、ハボックを呼んできてくれますか」
「畏まりました」
ハボックはブロッサム商会の従業員の1人。優秀なのは勿論、持ち前の美しさで奥様方をメロメロにしてきた、キールの師匠らしい。
ーーコンコンッ
「お呼びでしょうか、リーンハルト様」
「はい。《鑑定》になりましたよ」
「本当ですか!?」
商会の従業員として雇った彼らには重要な役割を課していた。それが《鑑定》スキルを習得する事。その為に仕事の他に無理のない範囲で勉学にも励んで貰っていた。
飢えに苦しんでいるのは何もこの街だけではない。王国中の国民が苦しんでいるのだ。全員を救う事が出来なくても、手の届く範囲は助けられるなら助けたい。
その為に彼らこれから出来る新たな支店の店長になってもらうのだ。流石に初めから《鑑識眼》を持っていたハボックは早かったようだ。
支店についてはハロルドの知り合い商人に口利きをしてもらい、商人ギルドに準備を一任した。ギルド側は仲介料を取れるので中々の仕事をしてくれた。
守りのイアンを何ヶ月も送り込む事は難しかったので従業員についても店長になった者に一任する事にした。
貴族の購入対応は本店でのみ行うので支店では安価な食料品と日用品のみの販売になる。店長の仕事は客の出入りをチェックと商品の管理、収支報告をするだけだ。
「次の街は此処から馬車で10日かかるミーナの街です。お願い出来ますか」
「お任せください、リーンハルト様」
「初めの1週間はアンティも付けますので安心して下さいください」
そして次、また次、と《鑑定》を習得する者が出れば立ち上げた支店に送った。こうして目標の支店10軒を達成したのはたった2ヶ月程の出来事だった。
急激に勢力を伸ばしたブロッサム商会。しかしその恩恵は貴族達には全く入って来なかった。
商品は買えないし、コネクションも繋がらない、支店は庶民向けの小売商店で商品は激安なので利益は少なく、税金として入ってくるのは微々たるものだった。
反感を買う事も予想には入っていたが、どうやらコネクションが欲しい王室側から商会に手を出す事を禁じているようだった。
こうした嬉しい誤算も有りつつ、ついにこの時が来た。
「本日はこちら側からの無理なお願いを聞いて頂き誠にありがとうございます」
「いえ、王太子殿下。此方の事情を汲んで出向いて頂きありがとうございます。それで、ご用件は?」
疲れた顔で優しく笑う。
彼の苦労が滲み出ている。
「お手紙は呼んで頂けましたでしょうか?私は今のこの国の惨状をどうにかしたい。しかし、私の味方はとても少ない。この状態でも貴族達の豊かな生活は変わらず、ただ国民だけが無理を強いられている」
「そうですね。それは同意見です」
「そして、如何やら貴方はこの国を乗っ取ろうとしている」
リーンはレスターに視線を送る。レスターは眉間に皺を寄せて怪訝そうに言う。
「如何言う意味でしょう」
「言葉のままですよ。国民にボランティアの如く利益のない商売をして裏では秘密裏に高価な物を売りつけて貴族達から巻き上げる。表では当然利益がないのだから税金は少ない。本当に頭がいい。この後は、そうですね…王室側に1人味方を作る、ですかね」
「それは楽しそうですね。参考にします」
お互い笑顔だが和やかな雰囲気ではない。見えない火花が散っている。どちらも譲る気はない。
「そう警戒しないで下さい。私は是非とも貴方にこの国を乗っ取って貰いたい。乗っ取って貰うために此処に来ました」
「お言葉ですが、王太子殿下。私達は貴方の立場も良く分かっています。貴方と手を組むと言うことは私共の作戦は実行出来ないと言う事になります。それで手を組むとでも?」
レスターの地響きのように低い声は萎縮させるには持ってこいだ。案の定、王太子の護衛達は背にゾクゾクと怖いものを感じているようだ。
王太子には全く効果はないが。
笑顔が崩れる気配は微塵もない。
「ルルティアは使わないで欲しいという事です」
如何やら此方の事を色々調べたようだ。
ルルティア姫がリーンにメロメロだと言う噂は誰でも知っている程に有名な話。
ルルティア姫がロビティーに居座り、商会に足繁く通っていて屋敷の周辺でも良く見かけられている。軽くストーカー状態だ。
元々は王室側に裏切らない味方が欲しかった時にこちら側としては適任者だと思っていた。しかし、如何言う訳かレスターを始め、子供達、職人達、従業員、あのイアンですら反対したので見送ったのだ。
王太子が代わりになりたいという申し出はルルティアの時よりはかなり扱い易いと思う。姫の為に裏切る事はないし、権力も申し分ない。しかし、ひとつだけ難点がある。
「彼女の言葉なら王も動く。貴方は如何ですか?」
流石にそこまで知られているとは思っていなかったようだ。悔しそうな表情がそれを物語っている。
「2つに1つ。どちらか選んで下さい。貴方共々王族の総崩れか。貴方だけが生き残るのか」
「私は…」
その答えを出す事を…優しい彼に出来るのだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~
枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。
同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。
仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。
─────────────
※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。
※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。
※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。
魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです
忠行
ファンタジー
魔法使いが無双するファンタジー世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか忍術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです。むしろ前の世界よりもイケてる感じ?
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!
yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。
しかしそれは神のミスによるものだった。
神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。
そして橘 涼太に提案をする。
『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。
橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。
しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。
さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。
これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる