神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第二章

行く年来る年

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 ブロッサム商会を一時的にと言えども閉めればロビティーだけでは無くこの国中が混乱する事は目に見えていた。
 今はまだ一部とは言え国民達による国への抵抗、暴動は続いているのだ。続けるには最低限、食糧などの纏まった蓄えが必要で低価格のブロッサム商会を利用していたのは言うまでもない。
 それだけではない。未だに魔物被害が続いていて仕事を投げ出して逃げたり、身を隠していたりしているが、流通が滞っている今、確実に商品を購入出来る唯一の店が休業となると生活に直接的な被害が起こるのは目に見えている。
 それでも今は商会を閉める他ない。
 貴族院、王宮、ダーナロ国民、謎のモナミ伯爵家。それに今はなりを潜めているディアブロ。相も変わらず、リーンの周りには常に敵が多すぎる。

 しかし屋敷の中はそんな事はお構いなし。
 今日は年末。休業以降、帰路に着いたものはたった数人程で皆んな屋敷と商会本店の寮にて過ごしている。
 勿論比べるまでもなく快適な生活だ。支店では当番制で食事を用意していたが、食事は勝ってに出てくるし、言うまでもなく美味しい。職人達の試作品魔道具は自由に使いたい放題。お風呂に入ってはプレゼントのタオルに癒されて、ふかふかの天日干しの香りのする布団と固くないベッドで眠る。
 そして何より、パーティーだ。
 彼らがこちらに来てからの仕事と言えば専らパーティーの準備とその他雑用くらい。メインのパーティーでは屋敷の飾り付け、職人達のお手伝い、などなど。むしろ楽しくて仕方がないのだった。

 今日はパーティー当日。リーンからしてみれば遊びと言ったはずなのだが、早朝から準備に取り掛かるのを見て、返って忙しくしてしまった、と後悔していた。勿論リーンが仕事を任される事は無いので更に申し訳なさが勝り、皆んなが喜んでいるなど言う事はつゆ知らず。
 そしてこんな事までされて仕舞えば、リーンの罪悪感は増す一方なのだが、皆んな至って真剣にたのしんでいるのだ。

「“ニレイニハクシュイチレイ”これは年越しのお作法です。“ニレイ”は姿勢を正し、手は腿に。そのままの姿勢で2回オジキという頭を下げる行為の事。“ニハクシュ”は姿勢はそのまま手を前へ、そのまま2度叩きます。そして“イチレイ”同じくそのままの姿勢で1回オジキをします。お手本を見せますので、真似てみて下さい」
 
 全員ホールに集まり“ニレイニハクシュイチレイ”の講習会を受ける。
 苦笑いのリーン。正直ここまで本格的にするつもりは無かった。
 “年越し”とはその年1年間家の汚れを落とす“大掃除”から始まり、美味しいものを食べながら語らい、年を跨ぐ前には“蕎麦”を食べて厄を断ち切り、翌年に向けて神に祈る行事で“お正月”はお重に入った豪華な“おせち”とお餅の入った“お雑煮”を食べて兎に角3日間のんびりする。
 正直に言うと、凛はそう言った宗教的なものは全く詳しくないので、適当に思いついた“お正月”像をレスターに説明してしまったのだ。そしてそれがこの結果だ。止めるのは直ぐに諦める。
 此処は神様を信じる世界。そして実際にいるとリーンも知っている。
 まぁいいか、と呑気に紅茶を啜りながら行く末を見届ける。

 講習会が終わり、再び“年越し”とお正月”の準備に取り掛かる。ミモザの“大掃除”への気合は本物だ。
 普段から丁寧に掃除しているのにやる必要は無いのではないか、と少々怠惰な事を思ってしまったが口には出さなかった。
 リーンの部屋の掃除だけはレスターがやると言って聞かなかった。手伝おうとすると頑なに拒まれてしまい、仕方がないのでその様子を大人しく眺めていた。
 ウトウトと寝かけていたリーンの元にミモザがやって来たのは夕刻前の事だった。
 何を隠そう、着物を作ってしまったのだ。しかも、かなり本格的だ。足袋、肌着、タオルを巻いで身体を補正し、長襦袢、着物、帯、帯留め。作り始めたら止まらないアリアはどんどん作ってしまったのだ。勿論質問攻めだったのは言うまでもなく。
 着物が好きだった母との思い出。
 ここで役に立つとは…。とリーンは少ししんみりとしてしまったのだった。
 着物に袖を通し、着物特有の狭くなる歩幅に慣れない皆んなを眺めるのはとても楽しかった。
 

 クリスマスに引き続き、勿論料理にも抜かりはない。
 これまた正直に言うと、思い出の“年越し”“お正月”は現代的で兎に角好物が出てくる日だった。お寿司やすき焼き、アイスに、ケーキ。なので正直“おせち”の内容は知っているが、作り方が分からない。ならば、好きな物にしよう!とお寿司をメインにピザやパスタ、ついでに正月らしくない大人気のカレーなんかも今は有りだろう。それから、唐揚げや海老チリ、ポテトフライ、肉団子などのつまみやすいオードブルも用意した。
 そして九節10日。小麦粉の割合、水の量から混ぜ方こね方、寝かせる時間、切り方と切る細さ、茹で時間…リーンとアースの血と汗が染み込んだ蕎麦もどきのうどんだ。
 正直、蕎麦を作れなかったのは悔やまれるが、蕎麦粉が如何にもこうにも調達出来なかったのだ。更に突発的なパーティーだったのでハロルドに頼んだのもかなり遅かった。
 なのでここは臨機応変に、と言う事で相対しながらも近しい存在。うどんの登場だ。
 蕎麦よりもうどんは簡単だと思っていたのだが、それでも10日ほどかかったので、やはり蕎麦は無理だったように思う。
 結果オーライとしておくことにする。

 10日ほど前にクリスマスを堪能した矢先のパーティー。だから、多少の苦労もあったが今回は慣れもあり準備は思いの外捗った。
 ベッドには沢山の試作品。3日間だらだらする準備も万端。

 だから、少し意外だった。
 少ししんみりとした落ち着いたパーティーになったのは。年越しは何処の世界でもこの雰囲気なのか、とリーンは心中穏やかだった。

 夕刻から始まった“年越し”は着物のお披露目会でかなりの盛り上がりを見せた。何より、子供達の着物姿は七五三のように大人達の涙腺を崩壊させた。
 そして、初めて子供達と出会った経緯や、職人達の採用時の武勇伝、使用人達の面接時の話、商会立ち上げと従業員雇用の過程からその後の売り上げと従業員達の功績…。こちらに来てからの出来事を語らった。
 それを彩るのは美味しい料理とお菓子。どれも料理長アースとパティシエレーネ、それから料理人見習い達の自信作だ。
 夜も更けり、子供達が寝る前に講習会通りの“ニレイニハクシュイチレイ”が完璧に行われたが、全員が何故かリーンに手を合わせていたので合わせ返しておいたのだった。
 別腹の年越し蕎麦もどきうどんを食べて、新年の挨拶をした。
 ウトウトしている子供達を部屋へと送って、大人はしんみりとお酒やお菓子を摘みながら揃って初日の出を拝んだ。軽い片付けの後、飲み足りない者はお酒を煽り、話し足りない者はお菓子を摘み、リーンはレスターとイアンと共に自室へと戻った。

「明日からダラダラ過ごします」

「ダラダラ?の意味は理解したのですが、何もしないというのが私には少し難しく思います」

「ダラダラは大まかな括りで言うと“自由”って事ですね。寝ても良いし、食べても良いし、ゴロゴロしながら本を読んでもいい。何もしない=何をしても良いっと言う事です」

「“ダラダラ”か~。いいな、それ」

 盛大な大きな欠伸をしながらイアンは大きく伸びる。何せ今日は皆んな朝が早かった。多分この中だとイアンが1番早起きだっただろう。昨夜イアンは交代制の門番仕事で夜勤だった。

「ここで寝ても良いですよ」

「そ~するわ…おやすみ」

「イアン。ここで寝るのは…仕方がないですね」

 アリアとベンの力作ふっかふかの大きなソファでそのまま寝てしまったイアンにまた盛大なため息をついたレスター。

「では、レスターはこちらにどうぞ」

「いえ、流石に主人と同じベッドは…」

「大きいですし、もう寝るところはないです」

 リーンの寝室にはイアンが寝ているソファの他には1人掛けのソファと机のみ。イアンと2人にはさせられないので部屋に戻る選択肢はレスターには無かった。

「床で寝ます」

「…トイレに行く時に色々、踏んだらすみません」

「……ご一緒させてください」

「どうぞ」

 少し困ったように言うレスターにニッコリ笑顔で全てを返すリーン。全てを委ねるレスターならではの特権と言えるのだろう。

 そしてリーンの宣言通りに怠惰な3日間があっという間に過ぎていった。





 
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