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第二章
バレンタイン事件
しおりを挟む「…献上させて頂きます」
何故こんな事になったのか、それを説明するには割と長めの時間を貰うことになるだろう。
事の始まりはもう今から2ヶ月も前の事。
“遊び”を初めてからクリスマスパーティー、年越し、お正月を経て、お花見計画を立てていた時だ。
この世界には残念ながら桜が存在しない。桜田凛と言う前世の名前からしても彼女は桜と何かと縁をもって来た。祖父母の家の庭には立派な桜の木が聳え立っていたし、彼女が住んでいた家の裏手には立派は桜並木があった。割と生徒数の多いマンモス校にも桜が植っていたし、小学生の時に描いた桜の木の絵は絵画コンクールで特別賞を受賞した。
それくらいの事なのだが、何かと縁を感じていた桜が無いと言うのは何とも物悲しい気持ちになる。
何気ない話の中で寂しそうな気分を感じ取ったレスターはキールとシュミットにその話を彼も何気なく話したのだ。
それからと言うもの、遠回しに皆んなが(元々優しすぎるのだが)甘々のめっためたに甘やかすようになった。ただその理由を知らないリーンは甘やかされているとも知らずその甘やかしを享受し続けた。
それはお花見パーティーが終わり、バレンタインデーが来ても続いたのだ。
バレンタインは違う意味でかなり盛り上がった。元々チョコレートやお菓子関係は高級品である砂糖を大量に使用するため、それぞれのトップを務める(主に管轄内の報告係)レスター、イアン、ミモザ、イッシュ、シュミットからの報告から総合的に個人を評価し、頑張ったご褒美として引換券をもらい、レーネに交換してもらうシステムを採用していた。
その為中々ありつかない特別な物の筈だったのが、商会を閉めてからパーティーやイベント等で頻繁にケーキやチョコレートなどが食べ放題になっていた事もあり、皆んなの認識としてそれ程食べれない貴重な物では無い、と言う事態に陥っていた。
それの何が良くないのかと言うと、それ程困った事ではないのだが、バレンタインデーにチョコを配ると言う特別感を感じて貰えなかった、と言うだけの話。
ただその後のリーンの説明があまり良くなかった。
たった一言“愛の告白”と言ったのが不味かった。
正確には友チョコ、友人同士で交換する。義理チョコ、言葉の通り対人関係に置いて渡すべき人に渡す。などの話もしていた。が、ピックアップされたのは愛する人に告白する時にも“愛の告白”として渡す、ここの部分だけだった。
使用人、職人、店長達、彼らはやはり口も固くリーンに忠誠以上の何かを持っている為何も言わなかったのだが、今はそれ以外の人間が屋敷に沢山いたのだ。そう。閉めた商会の従業員達だ。これだけの人がこの話を外で話すと、当然だが街に瞬く間に広がる。勿論尾ひれが付いて。
そして未だに魔物の襲撃もなく、王都からも近く、2番目の都市と言われるだけの広さと豊かさを持ったこの街にはスタンピード後の3ヶ月で人も増えている。
なら何が起こったかと言うとそう大流行したのだ。この先何が起こるか分からない、こんな時だからこそ伝えたい、そんな気持ちで盛り上がるにはとても良いタイミングだったのかもしれない。
だからと言ってチョコレートは高級品だ。砂糖をふんだんに使用しているし、ましてやカカオは取り寄せているので普通なら手に入らない代物で、更にはそのレシピは勿論大枠をリーンが提供し、レーネが4ヶ月と言う長い時間をかけて試行錯誤の結果生まれた特別なお菓子。他で売っている訳がない。
ならどうなるか。彼らから貰うしかない。チケットを溜め込んでいた者は大量取り替える。一度手を渡ったのであればそれは所有者の自由だ。そして、チョコレートは市井に広がり…一瞬で枯渇した。
あの味を知ってしまった。そしてこんな時にも関わらず、噂は噂を呼び…チョコレートはこの国で認知されたのだ。
では、次に何が起こるのか。そう、それが今である。
昨日まで真っ白でサラサラの砂浜のある街トロンにて海水浴、キャンプ、バーベキュー、ビーチバレー、手持ち花火、打ち上げ花火、ボート遊び、と散々楽しんできたリーン一向。
勿論、アリアが作った水着やテント、サーベルが作ったバーベキューコンロ、ジェシカが作ったランタン、ベンが作った折り畳める机と椅子、エマが作った木の食器類、その他皆んなの共同作業で手持ち花火も作った。まぁ、取り上げたのは一部だが皆んなの頑張りもありとても快適な海辺キャンプを楽しめた。
そのたった10日間いない間にロビティーはチョコレートに飢えた人達の巣窟となっているとは知らずに。
そんな幸せを吹き飛ばすかのような今。
「明日には100個献上してくれ。今後、定期的に1週間毎に50個ずつ納品して頂く。出来なければ10日1回50個だ。これはお願いでは無く、命令だ」
後ろではこんな事態を想定していなかった使用人達がブルブルと震え上がっているのが見える。
話を聞くと、家族ならと渡してしまい、もっと欲しいと強請られ、それが他に出回り、拡散されていき…商人、貴族…そして、王妃の元へ運ばれて行ったのだ。
行き着いた先がそこならもうどうしようも無い。コネクション以外で購入する事が出来ないトイレやマットレスなどの商品と違い、使用人や従業員に渡していた物、と知れればこうなる事も十分にあり得る。
出来れば実りの秋、森の紅葉まで堪能したかったのだが。
「使者様。申し訳ありません。この“チョコレート”と言うお菓子はたった1人の職人が門外不出の製法で作られた特別なお菓子。素人がとても真似できるものではありません。現に作り方を知っている主人は全く作れませんでした。このお菓子の特性上この一箱のお菓子を作るのに必要な材料費が大金貨1枚分。それを週に50個、月で250個大金貨250枚。これは大都市の1ヶ月の予算に相当します。とても一貴族が賄える献上品ではありません。なのでその職人を連れて行かれても同じだけ予算が掛かりますので悪しからず」
「…では、貴様らの家紋はそんな大層なものを使用人に渡すのか?出回った量を考えるととてもその様には見えないが」
レスターの強気な主張に特に怒る事も乗ることもましてや臆する事もなく、ただただ正論で突き返しくる。嘘や言い訳はさせないし、逃げる事も許さない、とばかりに強めの反撃を繰り出してきた使者は中々やりてに見える。
「もう一つ申し上げますと、一度に作れるのは50個。その1度と言っても加工する過程が5日程ありますので1週間に50個となります。まぁ材料が有ればですが。出回った量とおっしゃりましたが、出回ったのは100~150個そこそこ。我家紋にはの使用人と商会で雇い入れてる者で100人程。評価を受けた者にボーナスとして渡しておりました。ただそれだけの事。他に何か」
「…分かった。考慮してやる。週に5個だ。それ以上は譲れん。月に大金貨25枚なら言い訳は出来んだろう」
しかし、そこはレスターの方が何枚も上手だった様だ。話を長引かせない、用は考える時間を与えないように敢えて突っ込みやすい穴を開けておき、突き返してきた質問に対して毅然とした態度で更に数倍強く突き返し、マウントを取る事も忘れない。
見事にハマった彼はただ引くことしか出来ない。他に突っ込むべき所も無ければ、不自然な事もない。負けを認めた発言にレスターはニッコリと笑顔で頷く。
「ご配慮痛み入ります」
使者を玄関エントランスまで送り、馬車に乗り込むまでしっかり見守り、門が閉じる最後の最後まで見送るとレスターは直ぐに踵を返してリーンが待つ執務室へ足速に戻る。
「さすが。お見事でした」
「…お褒め頂き、有難う御座います」
「しかし、中々に吹っかけましたね。まさか、一箱で大金貨1枚とは」
楽しそうに言うリーンにレスターも勿論笑顔だ。
それでも、まさかこんな事が楽しい海辺キャンプから返ってきて早々に起こっているなんて思ってもみなかった。確かにそろそろ…と思うところではあったのでこれもまたタイミングとしてはいい頃合いなのかもしれない。正直言うと断る方法はあった。あったのだが答える事にしたのだ。
「厄介な事には変わりありませんが…」
「ダーナロはかなり楽しめました。そろそろ、という事です」
「畏まりました。準備いたします」
レスターはリーンに新しい紅茶を入れながら楽しそうに言う。
入れ直されたばかりの紅茶にそっと口をつけて、その水面に写るレスターの顔を見てリーンもまた楽しそうに口角を上げたのだった。
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