神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第二章

試験

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 生い茂る草木。背丈の変わらないそれを右へ左へとかき分けて進む。
 今日はカールの剣術試験の為にここエンダの森へ来ている。余裕があるのか、それとも気を遣わせてしまったのか。一緒に歩くリーンをチラチラ確認しながら進む。これは完全に後者だろう。
 試験内容は以前にも行ったカミノハナがある森のオアシスまで行って戻ってくる事。
 勿論、カールの実力以上の相手以外はリーンやスイが相手をする事にしているのだが、今のところ問題はなさそうだ。
 森に入ってかれこれ5回目になるカールは慣れた様子で草木を倒して進み、リーンを気遣っているのだが、リーンとしては試験なので邪魔にならないようにしたい所だった。
 最近では少し景気が落ち着いている事もあり、エンダの森見学の客も多いが、全く別の道から入ったので人影はない。
 それにしても前回に比べて余り魔物が多くないように思う。

「あまり魔物が居ないように思うのですが」

「はい。2人で大分狩ましたから、数は減っているかも知れませんね」

 リーン達が“遊び”をしている間も他の子供達がリーンについてくる中、1人屋敷に残り修練を続けていたカールはイアンやスイ程ではなくともかなり実力をつけているようだ。その証拠に彼の腕は傷だらけで手の平はタコが潰れていてもう既に硬くなっている。

 屋敷に戻って来て以来、また引き篭もり生活が続き、身体が鈍るの事を懸念して(単純に暇だっただけ)休日なのをいい事にこうしてついて来た。子供達の成長を見れて心なしか表情は明るい。

「試験は余裕そうですね」

「今のところは。しかし、まだキングムーンベアーを1人では倒せていないので、今回はそれが試験の合否になるでしょう」

 キングムーンベアーとは前回リーンが倒した、3メートルを超える巨大クマだ。基本的にあのカミノハナの守護をしているようで、あの場所に行くと必ず出て来るそうだ。
 それを考えると、あの場所は全くオアシスでは無いのだと言える。魔物はあの花がある場所には現れないが、その周辺を守護している魔物に襲われればあの場所から出られない筈。魔物に殺されるか、餓死するかの2択しか残っていないのだ。

「カール君は中々筋が良い。ただやはりまだ実戦が足りません。かなり手こずるでしょう」

「危なくなったら直ぐに助けて下さい」

「…しかし、リーン様は…」

「大丈夫です。私は何の問題も無いですし、イアンも居ますので」

 言い終わるや否やリーンの後ろの物陰からカサカサと草が揺れる音がする。

「…バレてたか」

 リーンはニッコリ笑って、リーンの近くで跪くイアンの頬を撫でる。

「貴方は私の護衛ですし、居場所を常に知ってますから、来る事は分かってましたよ」

「…コホン。リーン様、今日はカールの試験ですので…」

 態とらしく咳払いをしたスイは2人のその様子に頬を赤らめる。一体何を想像したのだろうか。
 それから当たり前のように後ろを着いて来るイアンは何やらとても嬉しそうでいつの日か聞いた鼻歌を披露していた。

 オアシスはいつものように静かで陽光が差し込む。花畑の白い花が風に揺れる度にその光を浴びてキラキラと光る。
 ついでとばかりに花を摘む。暫しの休息だ。

「ハルト様」

「…?」

 夢中に花を摘んでいたリーンは声の方へ向き直る。

「やはりお美しいですね」

「お前も言い出すのか。さすが兄弟だな」

 少しムッとした表情でイアンを見るカール。
 確かに以前此処に来た時弟のキールは今と同じのように言ったが、あれは中々乙女心をくすぐった。

「キールが何かしたのですか」

「あいつはな、花を沢山摘んで持てないからってリーンに持たせたんだ」

「…イアン。その言い方だと全く伝わりませんよ」

 キールとリーンが沢山の花を摘んでいた。あの時はまだ自身の一流の剣使い手だと知る前だったので休憩をリーンは2人に申し入れた。
 リーンが花畑に横たわる姿を見て、疲れていると思ったのか、気遣って一輪だけ持てないからとリーンの髪にその一輪だけ刺して、美しいですね、と言ったのだ。

「リーン、アイツはダメだ。ハボックとも仲良いし、絶対に良くない」

「そうです。ハルト様!キールはタラシなので近づいては行けません」

「…そうですか。私もレスターに人タラシと言われた事があるので、お二人も私に近づかないでくださいね」

「「…それは違う」」

 首を傾げるリーンに2人は盛大なため息を吐くのだった。

「皆さん、そろそろ行きますよ」

 周りを警戒していたするスイが戻ってくる。その表情は少し険しい。
 先程まで和んでいたカールだが、スイの呼びかけと共にその表情を切り替える。此処からが彼の試験の本番だ。
 スイ曰く、キングムーンベアーの難易度は高いらしい。魔物は冒険者ギルドがその強さをS.A.B.C.D.E の6段階で評価していて、同じく冒険者にもその6段階のランクがつけられている。
 因みにSランクは規格外で今まででSランクに到達したのはたったの2人。そしてそのSランクは“悪魔”を倒した人に与えられる特別な称号だ。
 そして、キングムーンベアーはその中でもBらんくに相当する魔物で同じくBランクのクイーンムーンベアーと共に行動する事も多く、その場合はAランクとなるそうだ。

「カールはどのくらいなのですか?」

「今CからBに上がるくらい所でしょうか。ただ、今回は厳しいかもしれません。先程クイーンを見かけましたので」

 如何やら、やっとこBのカールには少し厳しい相手のようだ。カールもよく分かっているようで少し表情が険しい。

「…必ず合格します」

「頑張って下さい」

 カールは険しい顔を少し引き攣らせた笑顔で言う。リーンは少しでも緊張を柔らかくさせるために笑顔で答える。

「カッコよく見せたい年頃ですから」

「十分かっこいいのです」

 スイは父かのように手に汗を握りながらカールの後ろ姿を見守る。イアンは相変わらず欠伸をして呑気もいい所だ。

「…行きます!」

 カールはそのまま駆け出した。まだ敵の姿を目では捉えられていないが、どこにいるかは分かっている。
きっとイアンとスイも分かっている。分からないのはリーンだけ。
 《身体強化》のスキルで飛躍的に脚力と腕力そして防御力も上げる。同時にスキル《瞬足》で速度も上げる。剣は身長に合わせて少し短めに途切れたの長剣。

「足りないな」

 イアンの言う通り、今のままではスピードも力も剣の長さも足りない。キングムーンベアーはまだまだ早いのだ。

「指弾!」

 スキル《指弾》で足元を崩す。指弾の威力で地面に小さな穴が空き、足を取られたキングムーンベアーはそのまま前足を地面につく。その隙をついて上手く後ろに回り込んだカールは肩の上あたりで両手で剣を構えて地面を蹴り上げる。

「フィニッシュブロー!!」

 脳天に突き刺さる剣。

ーーーグオオオオォォォ

 如何やらこの叫びがクイーンを呼ぶ声になってしまったらしい。

「クソ。まだキングは倒れないのか!」

 脳天に突き刺さるまでは良かったが、やはり腕力が足りなく、致命傷になっても倒すまでには至らなかったようだ。
 このまま2体を相手にするのは分が悪すぎる。どうにかして1体だけでも先に倒したい所だが同じ手は使えない。
 キングを庇うように前にクイーンが出てくる。先にキングを倒したいカールにとっては少し面倒な状態になっている。

「双剣!…鎌鼬!」

「へぇ~、双剣使いだったんだ」

 イアンは少し感心したようにうんうんと頷く。

「まだ腕力が足りないのと、身長が足りない事による刀身の短さをカバーする為の応急処置程度ですが…」

 風が吹き荒れ、木が騒めき、草が舞う。少しの目眩しにはなるだろうが、大きな躯体の2体はあっさりと対抗して此方に向かってくる。

「来ーい!」

 カールの叫び声。突き進むクイーン。
 効果が切れて突進してくるのも時間の問題だ。

ーーグオオオオォォォ

 カールは双剣を前で合わせて構える。
 鳴き声と共に鎌鼬の効果が切れる。ドシンドシンと大きな躯体を軽やかに突き進んでくる。風を物ともせずに進んでいただけあってスピードに乗っているようだ。

「ディフェンス!!」

ーーーキーーーーン

 剣同士がぶつかり合う音が響き渡る。

「やるなぁ」

 突進してきたクイーンは鳴き声も発さずに倒れる。まだウロウロと歩き回るキング。

「クイーンを倒せたのですか?」

「はい。如何やら自身の体をディフェンスで強化して固めて、クイーンの突進の勢いを利用して脳天を突き刺せたようです。ただ…」

「もうダメだな」

「イアン」

「はいよ」

 まだ成長途中の体ではいくら鍛えても今の衝撃に耐えうるまでには至っていなかったようだ。
 ウロウロと歩き回るキングに近づいていくイアンを見送ってカールの元へ行く。

「すみません。腕が折れてしまったようです」

「良くやりましたね。合格です」

「…いえ、森を出るまでが試験でしたので、僕は…」

「スイが合格と言っておりましたよ」

「…そうですか…ありがとうございます」

 少し嬉しそうにでも悔しそうに言ったカールの目には薄っすらと涙が滲んでいる。この涙が痛いからではなく悔しくての涙である事に意味がある気がした。そしてそっと頭を撫でる。

「リーン!俺も俺も!」

 キングを倒したイアンがはいはい、と目の前に並ぶ。リーンはおっきい子供と小さな子供の2人の頭を優しく撫でるのだった。








 


 

 



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