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第二章
計画の全容
しおりを挟む快眠ポーション(その名の通り、兵士などが昼夜逆転などで不眠症になる者が多く開発された物)を毎日の食事や休憩に飲むお茶などの飲み物に混入させて、その量を少しずつ増やしていく。効果を増幅する為に通常販売されている希釈したものではなく原液を1滴から2滴、3滴、4滴…と徐々に増やしていく。急ぐ事はない、ゆっくりで良い。それぐらいの時間は待つ事はこれからの時を思えば容易い物だった。時には効果を高める促進ポーションも混ぜた。勿論これは王宮にあった物だ。上級メイドである彼女は王宮や皇太子宮内にあるありとあらゆる物品の管理を行なっていて、出入りも自由。手に入れるのはとても簡単な事だった。
初めは効果通り熟睡出来る、といった程度のものだったが、その量が増えるにつれて日中に突然寝入ってしまい、夜寝る事ができず政務に支障をきたし始め、夜にこっそり政務に励んでいたが、夜も眠気に襲われて次第に昼夜関係なく寝続けるようになっていった。
メルーサは医者だと偽り、自身が用意した暗殺者に治療と評して毒を飲ませるように指示し、こうして王は睡眠障害と言うだけで家族や家臣の目の前で直接毒殺されたのだった。
王の死に疑いを持つものはいなかった。症状が出たのは2ヶ月も前で王自身が症状についてよく理解していなかった事。家族に看取られて亡くなった事。そして、彼を慕う者は多いが殺したい程に恨むものなど居なかったからだ。それだけ優れた王だった。
国中が王の死を悲しみ、王を偲ぶ日々の中、国の存続のためすぐに王太子ファルビターラが国王に即位した。もう2ヶ月も前から政務に支障をきたしていた王周辺は王太子ファルビターラの即位を前々から準備していたのだ。
もちろんファルビターラが国王になったからと言って彼女の生活はさほど変わらず。変わらない現状に満足していないメルーサは悲しみが尾を引いたままのダーナロ王国に2度目の悲劇を引き起こす。
きっかけは簡単だった。
少しずつ丸め込んできた王が娘のルルティアの話だけはどんな事でも聞くからだ。幼いながらも流石マルティアの娘。メルーサが王を誘導する為の発言や行動の意図を理解はしていないが、鋭く目敏く質問してくるようになったのだ。
新たに出てきた厄介な存在のルルティアを殺す事も初めは頭をよぎったが、それが有益にならない事の方圧倒的にが多い。王族の続け様の死はマルティアに疑いも持たせる事に繋がりかねないし、ルルティアの死に悲しみ耽って王が使い物にならなくなれば政務の全てをマルティアが握ら事になる。それではメルーサの王妃の座は更に遠のく。
そこでマルティアの殺害を思い立つ。
再び偽の医師を入れるのは難しい。マルティアは同じ方法が通じる相手ではないのだ。繰り返せばそれこそ王の死の真相を疑われるだろう。それ程までに優れた優秀な王妃のマルティアの暗殺は慎重に行わなければならない。
そんな矢先にとある噂を耳にする。それが死病の話だった。
マルティアを病で殺す。壮大な計画だった。
これが10年前に血海病(死病)が大流行した発端になった。
病を流行らせる為に伝染病を患った患者を用意させた。いつぞやの老人が連れてきた男はメルーサも見知った顔だった。主人の屋敷で数回あった程度だが、マルティアはすぐに分かった。彼がミスを犯し主人の怒りを買ったのだと。気づけたのは彼女自身が幾度となくその光景を見てきたからなのだ。見せ様なのは分かっていた。
伝染病など患ってはない、と必死に訴える彼をメルーサは躊躇なく殺した。彼の死体が放置されたのは王国の闇、と言われる程に大規模なスラム街だった。
そしてそれは意図せずだが、ネズミや野良猫、鳥などの動物達が媒体となり国中に瞬く間に広がった。他国にまで影響が拡大しなかったのは不幸中の幸いと言えるが、反対にダーナロ王国の国民は半数以下にまで減少した。
マルティアの死後、後釜に収まるのはメルーサに取って何よりも簡単な事だった。これだけ苦労してきて自身が王妃にならないのならば何の意味もない。
自身が王妃になった時に困らないよう国王に全て怒りが向かないよう、分散させる為に新聞社や商人を使って噂をコントロールし、愚王と罵るよう国民を誘導し、怒りつつも耐える道に進んだ。
同時にこの頃から王妃マルティアへの小さな嫌がらせを始めた。
慎重なマルティアは上手くかわしている様では居るが、不安を感じない訳ではない。自身の手でマルティアをじわじわと追い込み、その相談に乗るのはとても愉快だった。
誰に対しても警戒心を解く姿を一度も見せた事のないマルティアの隙を突くのは中々難しい事だった。マルティアよく使うカップに傷をつけて怪我をさせるように仕向けたり、寝間着に縫い針を仕込んだり、食事にマルティアの苦手な食材を忍ばせたり…と醜い小さな嫌がらせ行為繰り返した。
そして自身はそれに気づいたフリをし、マルティアからの好感度を上げるよう仕向けた。
更に警戒心を増しているマルティアに次はどんな嫌がらせをしよう、彼女が絶対に気付くであろうラインギリギリを攻めてみよう、と計画を立てる時間もメルーサには楽しい時間だった。
しかし、そんな彼女でも一瞬だけ隙を見せる瞬間があった。それは、子供達といる時だ。
その隙を突き、メルーサはマルティアのお茶会で事を起こす事にした。そのお茶会のメンバーがもし巷で流行している病を罹っていたら?それが王妃に感染したら?これはもう不幸な事故だ。誰もメルーサを疑う訳がない。
そしてメルーサは王妃のお茶会に出すティーポットに伝染病患者から取り出した瘀血を混入させた。全ては完璧だった。
しかし、何故か回避されてそのお茶会はその場で中止となった。後からマルティア自身からお茶に毒が仕込まれていたと聞かされ、マルティアの死を望む者が他にも居る事を知ったメルーサはその人物を探し調べた。
それが当時そのお茶会に参加していたマンチェスター夫人の旦那、マンチェスター伯爵だと知った。かれは王妃を狙っていたのではなく、自身の妻・伯爵夫人を殺そうとしていたのだ。不安だったのだろう。優秀な妻の存在が。何かとファルビターラと被る彼を協力者に引き込む事を思い至る。夫人を殺そうとした証拠と共に夫人の殺害を請け負い、代わりに此方にも協力して貰おう、とメルーサは彼との接触を試みたが、それは叶わなかった。
調べついた時には彼は既に死病感染していて、亡くなるのは時間の問題だったのだ。
従順な協力者になる筈だったが、予定を変更せざる終えなくなった彼女に朗報が訪れる。マルティアが死んだ、と言うのだ。
正確には死を装って城から逃げた、と言う事はすぐに分かり、勿論追手は送ったがマルティアを見るからには至らなかった。ただこれはメルーサにとっては好都合だった。
そうしてすぐに王ファルビターラを誘惑し、王妃の座についた。目障りなルルティアは使用人達が嫌がらせ行為をするように誘導し、反撃させる事で自ら身を滅ぼさせた。全部思い通りだった。
少し厄介だった王太子キングストンは何故か大人しくなり、幼い頃からずっとルルティアに付いている従者は優秀で彼女にのみ従順でかなり厄介な存在だったが、ルルティアのする事には文句を言う事はなかった。
そうして昨日まで快適な王妃生活を堪能してきた。美しいドレス。綺麗な宝石。美味しいご飯。優しい王。見目麗しい若い男。従順な使用人。楽しくて、自由で、それでいて優雅で、快適で。理想通りの生活だった。
それが何処から変わった?
マルティアを見つけられなかったから?
それともルルティアの外出を許したから?
キングストンを放置していたから?
あの商人気取りの優男が来た辺りから?
しかし、主人様の依頼は全て達成したはず。
国を好きに操れる状況を手に入れて、全てのポーションを取り引きできる環境を整える。他国には供給量を国の情勢を理由に無くして主人様が儲かるようにする。
途中ポーションが作れなくなる事態が起きた。だがそれは私のミスではない。森が勝手に魔物に侵食されて素材が取れなくなったからだ。寧ろそれがポーションの価値を高めて尚更主人様の利益になった筈。
今現在ダーナロ産のポーションはそこを尽きた。そろそろ幕引きには丁度良い頃合い。何もミスはしていない。していたらもう殺されている。してない。していないが…。
彼女に生まれた小さな不安。
一向に届かない頼り。このままここに居ればメルーサも死病になりかねない。その為の迎えが来る筈なのだ。何故来ない。焦りは時に判断を鈍らせる。
「まだ来ないの!?」
静かな部屋に自身の声が響き渡る。
「…」
周りに誰もいない。
先程まで手足のように働いてくれた従者。身の回りの世話をしてくれるメイド達。情報伝達係。馬番。
誰もいない。
ましてや馬も馬車もない。
此処までは完璧だった。その筈だ。言われた通りに、指示通りに済ませた。後は迎えが来て帝国に帰るだけの筈。なのに一向に迎えが来ない。
その理由を考えたくなかった。
考えたらもうどう立ち直れると言うのだろう。
全てを捧げてきたのだ。たった12歳の少女が身も心も捧げて24年間だ。何もかもを捧げてきたのに、こんな仕打ちは如何なものか。
誰もいなくなった部屋に残っていたボロ切れの様な布袋に辺りの物を手当たり次第に詰め込む。解れたままの外套を羽織り小屋を出て、人目のない小屋の裏手側にある草叢を抜けて街を出て行った。
(逃げて、逃げて、逃げ抜いてやる。私は絶対に生き残る!!!)
彼女は彼女自身の働きとプライドを捨てきれなかったのだ。
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