神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第二章

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 此処はネアにある小さな教会の一室。この薄暗い部屋には重々しい雰囲気が漂っている。その空気感と同じように扉が一つに窓のないのこの部屋は閉鎖感があり淀んだ空気が更に彼らの気を重くさせた。

「カーディナル様…ご指示通りに患者は直ぐに隔離しましたが、患者は80名程にまで増えております。…すみません…家族はいつどうなるか、という事で…誰も離れようとしません」

「そうか…」

 明らかに貴族であろう男達に嫌悪と怒りの感情を隠す事なく向けているのは患者達の親類だ。
 皆んなこの病が何なのか知っている。
 10年前に彼らを散々苦しめられたこの病が再び猛威を奮っているのだ。この反応は当然であると貴族達もそれに対して何も言う事が出来ない。
 彼らも悔やんでいるのだ。
 何も出来なかった自分達を。

「ただ…皆軽症で回復傾向にあります」

「…軽症?」

「はい。嘔吐や微熱などの風邪の諸症状だけで、血を吐いたり、皮膚から出る事もなく…」

 確かに、重々しい空気感ではあるがあの10年前の悲劇に比べればかなりマシだ。あれは本当の地獄絵図だった。

「では何故死病だと…」

「それが…隣の部屋へ」

 案内されるがままに隣の部屋へと歩を進める。教会の司祭によって開けられた部屋はまさに地獄絵図だった。
 壁や床、寝具や服に至るまで撒き散らされた血、血、血。苦しさで息が上がっている男は痛みを耐えながら呻き声をのような酷い声を上げる。男の全身に浮き上がっている赤いイボは今にも破裂しそうな程に膨れ上がりみるのも痛々しく、既に破裂したものが部屋中にシミを作っているのだ。強い痛みで身体を捩らせその度にイボは破裂し、また痛みで身体を捩る。
 とても見てられない状況だった。

「彼らが初めに発見された患者の3人なのですが、死病の症状が進行しているのは彼らだけでして…」

「彼らは助からないのか…」

「はい、ただ…」

「ただ、なんだ」

「彼らはネアの住人ではありません。誰も彼らの事を知らないのです。もしかしたらダーナロの者でもないかも知れません。一体何処から来たのやら…」

「…!?」

 彼らが誰か誰も分からない。
 ただこの王国の者ではない、と言う言葉ではっきりした事がある。

「私はカーディナル・コンラッド。この国の宰相である。お前達は何処から来た!何故ここに来た!」

「…こっ、お…ウッ…がはッ」

 嗚咽や掠れた息遣い以外彼らは声を発さない。

「宰相閣下!離れて下さい!貴方まで死病になってしまったらそれこそ終わりです!」

「…すまない」

「それに彼らは話す事が出来ません。喉を潰されていて呼吸も苦しいようです。見つかった時は3人とも瀕死状態でした。それも死病のせいでは無く…過剰な暴行と腹部や背中などにある刺し傷によって…です」

 驚きで言葉も出ない。
 打ち捨てられた彼らは話す事は愚か既に殺されかけていて、更には病に侵されている。苦以外のなにものでもない。寧ろ早く死にたい、殺してくれ、と言われているかのような視線を感じ、カーディナルは男と目を合わせた。
 跪き目線を合わせるカーディナルに男は少し安堵の表情を見せた。小さく頷いたその様子は肯定なのだろうか、と彼らの望むものをカーディナルは知った。

「もう少しすればポーションが届く。そうすれば助かる筈だ」

 しかし、その男は泣けなしの力を振り絞って首を横に振る。

「もう少し…もう少しなのだ…」

 そして男の目から涙が流れた。
 それがカーディナルの背中を押す。

「…良いのだな」

 苦しみを耐えて耐えて耐え続けた男は一瞬だけ笑顔を見せた。

「…閣下」

「…安らかに…眠ってくれ」

 カーディナルは腰に差していた良く磨き上げられた剣を静かに抜いた。そっと目を閉じた男達はやっとこの苦しみから解放されるのだと安堵しているように司祭には見えた。
 もう苦しまないように、と一思いに振り落とされた剣は見事に男達を一瞬で眠らせた。


 男達が永遠の眠りについた直ぐ後に大量のポーションが教会に届けられた。
 
 そのポーションを受け取った患者の男は瓶の中身を一気に飲み干す。
 自身の両腕に浮き上がっていた小さな赤い斑点が少しずつ引いていくのを見届けると部屋中が湧いた。

「…良かった。プリシエラ、これで君を1人にしなくて済むんだな…」

「…」

 女性は何も言うことが出来ず彼の胸に顔を埋めて、ただただ頷くだけだった。
 その光景を見ていた他の患者の家族達も我先にと群がった。国からポーションがなくなった今、貴重なポーションが目の前にあり、効果も実証されたのだから仕方がないのかも知れない。

ーーーおい!早く渡してくれ!妻が苦しんでいるんだ!
ーーー押さないで!私の夫が先です!
ーーーぶざけるな!こう言う時は子供達が先だろう!

 勿論80人もの患者だ。部屋一杯に押し込められている患者達。ポーションの価値を知っているからこそ全員分を賄える程数がある訳がない事を皆んな知っているのだ。

「皆さん落ち着いてください」

「「「「「…」」」」」

 決して大きい声ではなかった。
 でもそこにいる全員にその声は届き、動きが止まった。

「今現在ここにいる患者分は用意が出来ています。しかし、貴方達が感染し患者が増えた場合、誰かしら当たらない人が出てくるでしょう。直ちに部屋から出て応接室で待つように。分かりますね?」

「りょ、領主さ、ま」

「あ、ぁの、…で、では、私が応接室に案内します。外に病を出す訳には行きませんから勝手な外出は禁止です…。応接室で待機している者に診断を受けて指示された場所で待機して下さい。それから死病らしき症状が出たら直ぐに名乗り出てください」

 一瞬で落ち着いた人々は何も言わずにただ言われた通りに行動した。彼らは見ていたのだ。死病を発症した彼らを。だから勿論家族の元にいた事は後悔はしていない。ポーションがあるとは思っていたなかったからだ。最後の時だと思っていたのだ。
 だが、初めから対応してくれた者達が仕切りに他の部屋で待つように呼びかけていたのを無視していた彼らはその行動が幾ら家族の為とは言えども軽率だったと言う事に冷静になれた事で今漸く気が付いたのだった。

「お待たせしました」

 家族達が部屋を後にしてから男が部屋に入ってきた。この教会の司教だ。
 
「では、手の空いている方は患者に1人1本飲ませて下さい。必ず全て飲み切って貰ってください」

 薬を飲ませるとみるみるうちに赤い斑点が消えていく。熱や嘔吐の苦しみから顔を歪ませていた人も穏やかな表情に落ち着いた。
 先程まで管理を任されていた教会の職員達は驚きと安心感から息をついた。

「ランドマーク、来たのか」

「ポーションが手に入りましたので」

「では、あとは領主であるランドマークに任せる。我々には次の予定がある。ご家族には教会側から声がけをお願いする」

「閣下…ありがとうございました」

 そのままその部屋を後にする。
 教会を出た所で足を止める。
 静まり返った街。人がいないのではない。疲弊した人々は話す訳でもなく、動く訳でもなくその場で座り、寄り添いあっていた。

「閣下、如何なさいましたか」

「…いいや、少し疲れただけだ」

 街の光景を目に焼き付けるように、手にかけた彼らの安らかな顔を忘れないように、帰りの馬車へ乗り込んだカーディナルはずっと窓の外を見ていた。


ーーーーーー



 道なき道をかき分けて歩き続ける。着ていたドレスの裾は泥が跳ねたり、破れたり、動きづらい。
 膨らませていたパニエを脱ぎ捨ててドレスをたくし上げて縛れば少しはマシだ。
 しかし、それでも長らく使っていなかった足は悲鳴をあげている。

「ハァ、ハァ、ハァ」

 どこへ向かっているのだろうか。
 あれからどのくらい経ったのか。
 どこまで進んだのか。
 何も分からない。
 不安が押し寄せてはディアブロへの反骨精神だけで重くなった足をひたすら上げ続け前に進んで来た。

 持ってきた食料は底をついた。
 水は偶々聴こえてきた川の音で見つけたので何とかなったが、此処しばらくは水のみの生活。きのこやきのみは偶に見かけたが、毒かも知れないものを口にする事は怖くて出来なかった。

 偶に街道へ出る事もあった。
 歩き易く、人も疎らだが通る。
 ただ、同時にプライドが邪魔をして今の姿を見られる事への劣等感や恐怖感が強く、又焦燥感や猜疑心を煽られる。

ーーーガタゴト

 今後ろからくる馬車は追手だろうか。

ーーーパカパカ

 単騎で行動しているのは捜索隊だろうか。

ーーーお姉さん大丈夫かい?

 平民如きが話しかけるな。

 ぐちゃぐちゃになった彼女には何も残っていなかった。

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