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第三章
神の声
しおりを挟む沢山の人々が行き交う港町。大型船が開発されたばかりだと言う事もあり、漁業関係者や交易、貿易、船乗り人以外が海を渡る事はまだまだ珍しい。
勿論それだけ危険であると同時に唯の帆船では航海するには日数も労力もまちまちで貴族でさえも嫌がるからだ。
よって大陸同士の関わりは今のところはほぼヴェルスダルムからの一方的な監視行為だけだろう。
船乗り達がエルムダークで仕入れてきた物を船から運び出す作業で大忙しの中、少し足場の悪い板をゆっくりと降りる。
沢山の視線がチラチラと送られているが、決して近づこうとはして来ない。一瞬でも動きを止めると近くの者が引っ叩き、正気に戻らせる。
「いい雰囲気ですね」
「アポロレイドール様にそう言って頂けて大変光栄に御座います」
久方ぶりに地面に足をつけて早々に明らかに漁港関係者では無い、ビシッと極め込んだ人達がリーン達を出迎える。
リーンを要人警護かのように取り囲んでいたレスターやイアン、スイ達がスッとリーンを隠すように前に立ち並ぶ。リーンの手を引いていたミモザはリーンを自分の前に出して背後を固める。
少しでも人々が押し寄せないように、と深々と被らされた鍔の広い帽子はまるでハリウッドスターかのようでリーンは周りの様子をしっかりとは確認できなかった。ただとにかくこの帽子が恥ずかしく思っていた。
「主人から護衛兼案内役を仰せつかりましたポートガス伯爵家当主クロード・ポートガスで御座います。此方にいる、セントフォールは私の倅で御座います」
「お前本当に貴族だったんだな」
「信じて無かったんですか?!」
少し膨れっ面のセントフォールは勿論可愛らしい。クロードは強面なのでセントフォールは母似なのだろうと推測できる。
「主人は首都におりますので、また暫く移動となります。宿をご用意しておりますので、本日はゆっくりとお休み頂ければと思います」
「素早いご対応痛み入ります。しかし、リーン様の安全が確保出来ない様な場所でしたら困りますので、先に確認をさせて頂きます」
レスターは感謝を述べつつも少し挑発的な言い回しで、イアンと使用人、職人達は荷物を持って当たり前のように案内役を引き連れて宿屋まで先にスタスタと進んで行った。まるで予め決めていたかのようだ。先程まで寝込んでいたなどとはとても思えない。
「イアンが護衛しやすい建物の構造があるので、彼に見てもらうのが1番早いのです」
「任せます」
「ありがとうございます」
ミモザとレスターが見つめ合ってる。(睨み合っている)リーンはこの船旅の間何度も目撃し、2人はやっぱり仲良しだ、と思うのはやはり何処かズレているのだろう。決して2人は仲良しではなかったように思う。
「この街は何が有名なのでしょうか?」
「此処、バロッサは港が近い事もありまして、新鮮な海産物が自慢で御座います。他にも【錬金王】がお作りになった大型帆船を初めとした発明品が沢山見学できるのもあり、ヴェルスダルム有数の観光地です」
初めに挨拶をしたセントフォールの父、クロードはその強面の表情とは裏腹にとても優しい笑顔で話してくれる。なんだか心地よい安心感を与えてくれる人だった。
当たり前のように周りをうろちょろするセントフォールからリーンを護るように立ってくれているし、説明はひとつひとつがとても丁寧で分かりやすく、それでいて簡潔で如何にもリーンの好きな人種だ。
それを分かって彼を遣したのなら中々出来た主人だ。
今はレスター、ミモザ、スイ、カール、アンティメイティア、支店長達を連れているが、他国とは言え貴族であるクロードとの会話中なので皆一歩引いたところにいる。
単にこれが彼らが優秀な人材だからとは言い切れない程にクロードには背中に冷たい視線が突き刺さる。
「新鮮なお魚を食べられるのはとても興味深いですね。生魚も食べれるのでしょうか?」
「…生、で御座いますか?確かにヴェルスダルムは【錬金王】が作り出した浄水システムのお陰で下水の匂いもなく、常に綺麗な水を海や川へ流してはいますが、元々そのように食べる文化がない、と申しますか…生、ですか…」
「無いのなら、良いのです。あれば、と思っただけです」
「いえ、アルエルム大陸の方では生食文化もあると聞き及んではおります…。勿論、作らせます。今夜にでもお出しいたしましょう。お任せください」
話し方は動揺しているのにも関わらず、余り表情を崩さない所を見ると、リーンと近しいものを感じる。貴族の嗜みとしてそのような対応をするものは多い。ライセンやレスターも割と崩れないように思う。ただ、最近特にレスターはコロコロと表情を変えるようになったからか、やはり、俯瞰的に見るとかなり他人行儀に感じるのだと分かった。
ただ、リーンには今のスタンスを変える気は余り無い。大丈夫だろー、とそう言う所はやはり呑気だった。
「リーン様は、生食がお好きだったのですか?」
セントフォールは相変わらずニコニコしているがやはりとても距離が近い。彼自身の距離感がおかしいのかもしれない。
最もこの男性の姿でこの反応を見せる彼に疑問は尽きない。女性だったのならわかるが。
(何でこの世界に降り立った時は幼女だったんですかね?神様)
ーーーそれは神示を付けた際に少し凛の心の処理が追い付かなく
(…へぇ、って何で会話出来てるんですか??)
ーーーいつでも出来る
(…では、何故今まで話してくださらなかったのですか?)
リーンは冷静だ。無表情で淡々と聴き返す。
突然聞こえてきた声は聞き覚えのある中性的で性別の判別が出来ない様な不思議なトーン。
ーーー凛が呼ばなかったのでは無いか
(…確かに、でも、今も特に呼んではいないと思うのですが…)
ーーー神様 とハッキリ聞こえていた
(…確かに言いましたけど。まぁいいや、この体の事とか、体の事とか、体の事とか、教えてくれるんですよね?)
如何やらレスター達、周りにはこの声は聞こえて居ない様だ。頭に直接響く様な感覚は少し酔ったような気持ち悪い感覚だが、ミモザが手を引いているし、すぐ横にはレスターが居るので身体の心配は無い。
ーーー何をそんなに聞きたい
(何故その土地によって容姿が変わるのか、なのに何故初めは幼女だったのか、そして何故彼らに神と認識されてるのか、能力の違いとか、その為諸々全てです)
ーーー少し多すぎる 簡単に大枠だけ話そう その身体は元は私自身の一部を切り離した分身体の様なもの 私はこの世界への直接的な干渉が出来ない 代わりのものが必要だった
(干渉が出来ない?では【賢者】や【勇者】、【錬金王】は誰が?)
ーーー干渉とは 即ち 生き物が起こした全ての事柄に立ちいったり しいては私の意思に従わせたり 指図や妨害は出来ない という事 世界に生まれ落ちる前であれば 私も少しは力を与えたり 願いを聞いたりしてやらない事もない 錬金王は生前での行いを勝って能力を私が与えたが 賢者と勇者は凛が決めたのではないか
(私が?そうだといいなぁ、程度に思っただけでしたが)
ーーー今は凛が神というものなのだ この世界の人々はその器自体を神と呼ぶ この世界が遠い昔 滅びかけた時 ベンジャミンという者が私の代わりにその世界を正した
(ベンジャミン、あの物語は実在したものなのですね。しかし…世界を正す?私は何をすれば良いのでしょうか)
ーーー確かにベンジャミンは実在した しかし あの物語は殆ど偽りだ 実際にはベンジャミンは姿を変える事はなかった 人々が神の姿をそのように望んだからそうなったのだ 始まりが子供の姿だったのは単純に 凛の魂が分身体に馴染むのに時間がかかったからだ
(人々が望んだ形になる、のですね)
ーーー姿形は自由だ ついでに能力も本来なら自由なのだ 馴染むのに時間を要しただけで 今なら全ての能力 姿 もっと言えば そのまま大きさを変える事も出来る
(…では、今小さくも慣れるのですか)
ーーーそれが良ければ 私はこの世界を見守るだけの存在 特にして欲しい事もない 滅びようが 生き延びようが関係がない 創造神が凛を用意しなければこの世界はこのまま滅びを待つだけだった 私はもう諦めたからな
(…諦め…好きにして良い、という事ですね)
ーーーあぁ 楽しむと良い 凛が望まない限りはその肉体は衰える事も 死ぬ事もない たまに覗いているから 楽しませてくれ 天界は娯楽がないからな
(分かりました)
何か引っかかる言葉を聞いた。
ただそれはまだ凛が聞いていい事ではないように感じ、それはこの身体が元は神の一部だったからなのかは分からない。感情が共有されたかの様な不思議な気持ちだった。
神にもそう言う人の様な部分があるのか、と不思議に思ったが、言ってしまえば自分も今は神の様な存在なのだから人間味があってもおかしくないのかも知れない。
大枠だけ、と言ったからか本当に大枠だけだったが、何となく概要は掴めたように思う。成分的なものなのか、精神的なものなのか、兎にも角にも表面上は人間のように見えるが、1番驚いたのがこの身体は神の一部で出来ていて老いることも死ぬこともないらしい。みんなが必死に守るのも無意味なのかも知れない。
ただ、やりたい事はリーンの中でもう既に決まっている。好きにして良いのならそれを突き通すだけなのだ。
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