125 / 188
第三章
事実確認
しおりを挟む「それは私のことでしょうかな?お初にお目にかかります。この老輩に少しお時間を頂けますでしょうか」
そう言いながらシルクハットを胸に当てたままお辞儀をする老人。ニッコリと笑っていてとても柔らかな印象だ。
「こちらこそお初にお目にかかります。アンティメイティア・シェアマスと申します。以後お見知り置きを」
「私はルーベンと申します」
「御領主様とお見受けします。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
「申し訳ありません」
スカートの両端を持ち上げ優雅にお辞儀をしたアンティメイティアに習って少し下がった位置でルーベンも綺麗に腰を折ってお辞儀をする。
「此方こそ、大したおもてなしも出来ず大変申し訳ない。仰る通り、私はフランセ・トラドリル。御二方共、ご丁寧にどうもありがとう。聞いたいた通りの方々で嬉しい限りですな」
「…?御子息は何と仰っておられたのでしょう。大変気になります」
「ハハハ!確かに倅にも色々聞きましたがね、私に貴方方のお話をしてくださったのはリーンハルト様ですよ」
「…そうでしたか」
2人は目を合わせる。
緊張と衝撃で自身の心臓の音が聞こえる。
「アンティメイティア嬢、貴方には大変申し訳ない事をした。お詫びと言ってはなんですが、これまでの経緯をお話ししましょう」
「はい。是非お伺いします」
「それでは、本日は日差しも強いことです。屋敷の中でお菓子でも食べながらお話し致しましょう」
眉を下げて謝るフランセになんと言って良いのか。
とりあえず促されるがままに屋敷内の応接間にやって来た2人。
「マーカス、君がそんな顔をしていたら僕達は困ってしまうよ」
「しかし…」
「ルーベンの言う通りです。マーカス様」
申し訳なさそうに眉を下げたままのマーカスに声を掛ける。
それでも申し訳ないと落ち込んでいたマーカスも困った笑顔のアンティメイティアを見て流石に顔を引き締める。
メイドが明らかに焼きたてのお菓子を運んで来た所を見ると領主は2人が来る事を予見していた様だ。
「御二人にお会いしたのは本日で2回目です。ただご挨拶の通り、私どもはお見かけしただけでご挨拶はさせて頂いておりません」
「どういうことでしょう」
「私達はリーンハルト様を我が領にお迎えするに当たり、領主として宿の改修を指揮しておりまして、当日ポートガス伯爵の私兵達と現れた御二人を影に控えて見ておりました」
「…成程」
「この子…マーカスは歳がいってからの子供でして親馬鹿で恐縮ですが、私にとっては大変可愛い。そんな息子が貴方に一目惚れをした。幸い、上の息子は婚儀も済ませて跡取りとして成長しておりますし、娘も嫁に行きました。マーカスは次男でなんのしがらみもない。親としては縁を結んであげたく思いました」
「お気持ちはお察しします」
「恥ずかしながら、彼の方の使用人と言うだけでも大変価値があると考えました。それに当時御二人は侍女と侍従のような装いで、彼の方のお側からお離れになっていました」
二人はこの後の展開を理解した。
要はフランセはリーンの側に在る者とただの使用人では扱いは違うだろうと思ったのだ。だから、縁組を申し出ても寧ろ喜ばれるぐらいに考えていた、という事だ。
「今から半月程前に彼の方が屋敷にいらっしゃいました。あのお美しさには流石に私も驚きました。それでいてとても丁寧な方で、知的で…っとまぁ、御二方の方がご存知でしょう。そして御来訪をこれ幸いと私は恐れもせず、縁組を申し出ました」
「リーンハルト様は私を見て直ぐに私がアンティ様に惚れている事にお気づきになられ…目の色をお変えに…」
「と言う事はハルト様はお断りになった、と言う事でしょうか?」
「はい。一言『私にアンティを渡せと?』と。完全な拒絶でした。この老骨が美しさは時に何よりも怖いものになると勉強させて頂いた程に。…ただ少しお考えになられた後、幾つかの条件を出されて、それを守った上で本人が了承するなら、と」
「…条件、ですか」
条件。これが全ての誤解を生んだ要因だったのだろうか。熟考する2人にフランセはまた困ったかの様に笑う。
「はい。1つ、私は最後の縁組の時まで会わない事。2つ、囲い込んだり、金銭などで工作行為はしない事。3つ、マーカス本人が了承を得る事。4つ、自然に出会ったかのように演出すること。これは御二人もご存知のこの2人に頼みました」
「…ナタリーさん」
「ほんと、参ったわ!辞める予定だった酒屋の仕事も先伸ばしにして、私の懐妊祝いパーティーを開く予定だったのに、出会いの場にされたんですもの!」
「まぁまぁ、ナタリー。可愛いマーカスの為だって君も納得してただろ?」
突然現れたトンガナートとナタリー。
この2人が協力者だった事は想定内だ。
寧ろこれで全ての謎が解けるのだと安堵する。
「まぁね。でもこの子達何故か周りを嗅ぎ周り始めるし、神様に言われた通り《隠蔽》してたから色々と誤魔化せたけど、危うく失敗するところだったわ」
「君達には誤解をさせてたみたいだったから説明の為に来たんだ」
「その…嗅ぎ周っていたのは…申し訳ありませんでした」
「いやいや、あれは仕方がないな。俺たちも“自然に出会う”を守る為に本当の事を言う訳にも行かなかったし、“くりすたる”だっけ?あんな便利な物があるなんて知らなかったからな」
「なので、とりあえずの誤解を解く為に急遽ルーベンさんにナタリーさんの懐妊の話や【役者】だった話をさせて頂いたのです」
「では、私にその話をする為に舞台の話を?」
「すみません、ルーベンさん。でも聞きたかったのもあの時言った言葉も嘘偽りはありません」
「それは良かった」
トンガナートとナタリーの話によれば、2人を協力者にする事はリーンからの提案だったそう。リーンが出した条件を満たす為にフランセは何も手を出す事が出来ないからだ。やれば全て裏工作になってしまう。
なので、2人主催のパーティーを開きそこで出会わせるということになった。同時にアンティを酒屋に忍ばせてナタリーが上手く誘う。その後はこれがリーンからの指示だとバレないようにリーンから事前に聞いていたメンバーの経歴、素性やLv.MAXの《鑑定》を使えるなどの能力などを諸々を加味して《隠蔽》などの準備をする、と言うところまでが指示だった。
そしてあの日、元々懐妊発表をするパーティーを急遽誕生日パーティーと変更してマーカスとアンティメイティアを招待した。
「どうも、彼の御方は嬢がお断りになると確信しているようでした。それでもなお了承して下さったのには何か他に理由があると私も感じ、厚かましくもお伺いしたのです」
「私の自信を取り戻させる、と言う事でしょうか」
「流石ですね。やはり貴方が欲しかった」
「嬉しいお言葉をありがとうございます。しかし、まだご説明頂きたいことがあります」
特にあの殺し屋の事。
1番引っかかっている部分だ。
他のところは何となく分かる。大量のレースや布は婚儀の衣装や生まれてくる子供の為の物。果物は妊娠したナタリーが欲しがった、といったところだろうか。そうなれば木材や裏山に困っていたのも納得がいく。新居を構えようとしていたのだろう。
大盤振る舞いも懐妊の喜び故。幸せを配っていただけなのだろう。
ナタリーの能力も【役者】故で、リーンの条件を満たす為に《隠蔽》をするしか無かった。
まぁ爪が甘いところが多々あって誤解を産んだのだが。
「あの者の《鑑定》はされましたかな?」
「いえ。《鑑定》は対象を目視した条件下でしか発動しません。記録や肖像画などでは使えないのです」
「ほう、そのような欠点が…では実際に見て頂きましょう。…マッコ、来なさい」
「はい、旦那様」
ケケケ、と不気味な笑い声を上げるマッコ。
その陰湿な雰囲気は独特で彼は決して何もしていないのに何故か嫌悪感が生まれる。
「…彼が…いえ、これは…どう言う事でしょう…ふ、たご?」
「はい。彼の弟イラフ・マッコはご存知の通り殺人や窃盗など多くの罪を犯した大犯罪人。しかし彼、双子の兄マラス・マッコは普通に暮らしておりました。しかし双子という事もあり間違われる事もしばしば。私共も恥ずかしながら間違えて捕らえていたのです」
「捕まえてきた俺が言うのもなんだが、本当にそっくりなんだよ。この陰湿な雰囲気で特徴的な鼻の下の黒子の位置まで全く一緒なのに別人だなんて誰か思う?そうだろ?ほんで神さんがいらっしゃった時に言われたんだ。『牢にいるのは兄のマラスで犯罪を犯したイラフは帝都に潜んでいる』ってな。まぁ俺が間違えて捕らえたからな、面倒見ることになったんだよ。それで今回の件も手伝わせてたんだ」
「旦那達も色々失礼だなぁ~。これでもおらぁ普通に生きてるつもりなんだ、ケケケ」
リーンの望む物も違った事がわかり一安心する。
リーンはただアンティメイティアに自信を取り戻して欲しかっただけだった。そして、それが彼女の昔の強い思いを思い出させる事になり、同時にリーンへの気持ちが“恋”ではなく、リーンを亡き父親に重ね“思い焦がれていた”と言う事を気付かせたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~
枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。
同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。
仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。
─────────────
※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。
※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。
※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。
魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです
忠行
ファンタジー
魔法使いが無双するファンタジー世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか忍術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです。むしろ前の世界よりもイケてる感じ?
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!
yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。
しかしそれは神のミスによるものだった。
神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。
そして橘 涼太に提案をする。
『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。
橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。
しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。
さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。
これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる