神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第三章

作戦決行③

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 ジメジメした光の届かない地下。
 石を器用に並べて作られた地下牢は地中の水分が湿気を作り、それが冷やされて、雫となって床に落ち、小さな可愛らしい音を響かせる。
 此処が地下牢屋でなければ、夏の暑さを凌げる良い空間だったかもしれない。
 拘束により赤くなった手首足首。
 残飯のような食べ物。

「…いい加減吐くきにはなったかい?」

「え?何を?なんだと思うジェシー?」

「わからないわ、アリィ」

「このやり取りをいつまで続ける気だ」

「いつまで続けるの?ジェシー?」

「わからないわ、アリィ」

「…クソッ」

 この会話を永遠繰り返してどれほど経ったのだろうか。光が完全に遮られているからか時間の感覚が全くない。
 それどころか焦る様子もない彼女らに対して相手は相当焦っているようで本当に囚われているのはどっちの方なのか分からない。

「分かった、取り敢えずこの鍵をどうにかしてくれ」

「いやよ」

「いやよ」

「じゃあ、このよく分からない魔法解いてくれないか」

「もっと嫌!」

「嫌!」

 本当に拉致があかない会話が延々繰り返されている。怒りでワナワナ震える女だが彼女はどうも2人に手出し出来ないようだ。
 それもその筈、2人は牢屋を完全に安全地帯にして籠城しているからだ。
 鍵穴はドロドロに溶けて塞がってしまっていてどうにもならないし、無理矢理鉄格子を破壊しようとしたが、触れないどころか、剣は弾き、魔法は吸収して傷ひとつつかない。勿論彼女等にも届かない。
 極め付けはしっかりと手足を拘束したはずが、牢屋の鍵を閉めた途端一瞬で外されてしまい彼女らは自由気ままに過ごしていて、何処に隠し持っていたのか差し出されて食事を無視して干し肉や少し硬いパン、水、を取り出して、信じられない事に調理器具もその場にある石や鉄格子の鉄を使って勝手に作り始め、悠々自適で快適な監獄生活を送っているのだ。
 とても囚われの身とは思えない。

「一体何がしたいんだ。そんな事しても外には出られないのだぞ?いい加減何か吐け」

「何かって何?ジェシー?」

「わからないわ、アリィ」

「んーーーーーー!」

 女はイライラが収まらず頭を掻きむしる。

「わぁ、怖いわ」

「怖いわ」

「…」

「はしたないわね」

「女には見えないね」

「…」

 何をしても無駄なのは分かった。
 ではもうやり方を変えるしかない、と悟った女は声色を変える。

「どうやら君たちは泣きたいらしいね」

「私たちが泣くわけないじゃない」

「ないじゃない」

「私は何もあんたらに何かすると言ってる訳じゃないわ」

「「?」」

「此処にあんたらの仲間が来る事は知ってる。しかも変装のプロで?何を言ってるのか分かるわね?」

「な、何故それを…」

「アリィ!!!」

 口を慌てて抑えるジェシー。
 2人の様子に女は気味が悪いくらいにニタニタ笑う。笑いを堪える事が出来ないようだ。

「其方がその気なら此方も手段を変える。当然の事でしょ?」

「…どうする気?」

「…」

「あんたらが何をしようとしているのか話してくれたら仲間には手出ししないわ」

「そんなの信じる訳がないでしょ!」

「アリィ…」

「どう思ってくれても構わないわ」

 形勢逆転の音が近づいてくる。
 地下牢に続く石の階段を誰かが降りてくる音だ。

「…ファウスト様…」

「あいつ生きていたの?!…確実にやったと…思ってたのに…」

「アリィ…どうするの?」

「…生きて…?生命反応は…そうか、腕を犠牲にして生き延びていたのか…」

「はい、この女達の攻撃を咄嗟に手で受け止めて灰になって行く腕を落としました」

「そうか、良かったモーリン。直ぐに変えの肉体を用意しよう」

「ご心配をおかけしてしまい申し訳ありませんでした、ファウスト様」

 女もと言いファウストはモーリンに優しく笑いかける。申し訳ないと頭を下げて詫びるモーリンを気遣うそぶりはまるで人間だし、そこには絆すら感じられる。悪魔にもそんな感情があったのか、と2人は少しの動揺と焦りの色を見せる。

「モーリン、何か分かったことはあるか?」

「はい、彼女らが使っている魔法はそう長く持ちません。魔法石のマナを使い果たせば消えるそうです。それから連絡係から。作戦は続行されているとの事。仲間を次々と私の時のように灰に変え、代わりを用意して入れ替えて回っていたようです」

「入れ替え?何故そんな面倒な事を。まぁ、いい。人間の考える事など私らにはどうでも良い事。さぁどうやら、お前たち2人は仲間に見捨てられたようだな。助けに来ることもなく作戦を優先。可哀想な事だ」

 2人の苦虫を噛んだような表情に満足そうにする。
 大変不味い状況なのは言わずもがな。ただアイザックが見捨てたと言うのならそうするしか作戦は成功しないと言う事で。何を持ってしてもこの作戦は成功させなくてはならないのも分かっている。全ては親愛なるリーンの為だ。
 揃って黙り込むしか無かった。

「入れ替えが終われば直ぐに次の段階に入るでしょう。私に瓜二つの男がこの混乱に乗じてファウスト様の隙をつき私と同じように銀製の短剣で刺す、と言うシンプルなものです。分かっていれば何の問題も無い穴だらけの作戦」

「確かに街に配備している仲間達の生命反応が次々と消えている。今はもう殆ど残っていない。しかしお前との入れ替わりは失敗。次はどう出るか、決めているのか?」

「私が死んだものだと思い込んでいることでしょう。もう1人の私が来たら始末して、この2人も魔法石のマナがなくなるのをゆっくり観察して楽しみながらなぶるというのはどうでしょう?」

「ははは、流石。楽しそうな事を考える」

「ありがとうございます」

 もう2人の事など頭にないようだ。
 楽しそうにどうなぶり殺すかを話し合う。

「では、上で待とうかな。お前の偽物を」

「そうで御座いますね」

「待て!彼には手を出さないで!!」

「お願い!!」

「…今更な話だな。先に吐いておけばもしかしたら仲間の男だけなら助かったかも知れないのに」

「話す!話すから!」

「待って!」

 叫ぶ2人を他所に地下室の分厚く重い鉄の扉が閉まる。鉄扉に遮られてもう一切2人の声は聞こえてこない。命乞いしたなら苦しまずに済んだかも知れない。もしくは自分達の命を引き換えに皆んなを守る術もあっただろう。
 それはそれで面白かったか、とファウストは思わず漏れ出す笑みを隠さない。

 悪魔は嘘をつくが契約は破れない。彼女らに少しでも考える時間があれば、一方的に契約を締結し、悪魔に指一本触れさすなと命じればその通りになっただろう。
 もう遅いが。

「愉快なものだ」

「…ふ、ぁ…スト…さま…」

「来たか」

「…!!!」

「驚くのも無理はない。お前の仲間が仕留め損ねたとは知らなかったのだろう」

「ファ、ウスト様!それは…クッ…に、偽物です。生命反応を確認して下さい…」

「中々良い嘘をつく。悪魔顔負けだな。お前に言われなくとも勿論見たさ。残念だったな、隙をつく事も出来なくて」

「いえ…クッ…し、信じて下さい!私が…本物の…」

 外套を羽織り顔も見えない女に信じるも何もない。声が瓜二つだと言うことは認めるが、姿形を隠しているのだから信じようもない。
 膝をついて崩れ落ち腹を押さえながら手を伸ばしている女に手を差し伸べるわけもなく。

「せ、せめて…この私と引き換えに…」

「意味のない事を」

 突然最後の力を振り絞るように足をガタガタと振るわせながら立ち上がり、此方に駆けてきた女は手に銀製の短剣を握りしめて突っ込んでくる。引き換えなど無意味な事。馬鹿のする事だ。

「…ファ………ウ、ス……さ、ま……今まで…お側、におれて私は……幸せ…で、し…」

「…な、何を…して…いる…モー、リ…ん」

 ファウストの腰にあった長剣で串刺しの女。パタパタと石の地面に落ちる雫もその光景に似合わずあの地下室のように可愛らしい音を立てている。
 彼女の手に握られていた筈の銀製の短剣は力無くぶら下がった手から滑り落ちファウストの足元に輝きながら大きな音を立てる。

「も、リン何を…しているの…かと、きい、ている」

「貴方を純銀製の短剣で刺しています」

「で、は…今……私がつき……刺した…これは…」

「本物のモーリンで御座います、ファウスト様」

「ガハッ……お、お前に名を……私の…名を呼ぶ…クッ…」

 ファウストは刺された箇所からゆっくりと灰になって行く。ゆっくりと抜かれて行く剣を食い止めようと手に握るが、その手すら徐々に侵食されていき灰になる。抵抗することすらできない。
 目の前で串刺しの仲間、モーリンも外套に隠れて見えなかったが、もう腹の当たりと引き抜いた際に短剣に触れた手は灰になって散り始めている。

「まさか…どうして…」

「いや、私も驚いています。私達も騙されていたのですから」

「…」

「アイザック君の口癖です。敵を騙すならまず味方から、その言葉の通りですね」

 困った、とでも言い出しそうな表情でため息をついたモーリンに瓜二つの顔。
 身体から抜かれて銀の剣を消え行きながら最後まで目だけで追っていた。






 



 
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