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第三章
作戦決行②
しおりを挟む「帰ってこないな…」
アリアとジェシカの2人が帰ってこない。
先に任務が完了したという“タブレット”を還した連絡が来てからぱったりと消息を絶った。
何かあったと言うのは明確なことだが、あの2人に限ってミスを犯すとは考えにくい。
「他の何かに巻き込まれたか、それか罠だったか」
「ふ、ふたりはぶ、ぶぶぶぶ、無事なの?」
「フォーク君落ち着いて…」
顔色が真っ青になったフォーク、今はブロンドヘアーが良く似合う小柄で可愛らしい女性だ。
連絡が途絶えた所を見ると単純に連絡が取れない状況なのだろうと催促出来るが、拘束されているか…あるいは…。
今は考えても仕方がない。
もう他は動き出してしまっている。
アリアの“タブレット”から連絡が来て直ぐに50人の入れ替えが始まった。
此処にいるのは非戦闘員のフォークネルとイッシュ、それからアイザックの3人とジェニファーら騎士団側と連絡を取るために寄こされたマーヤ・ロングマークとその部下2人のみ。
ロングマークは栗色の毛を男の様に短くしているがとても女性的な顔立ちで子供っぽく見えるが、言葉の端々に棘のある女性だった。
「それで。中止か続行か、早く決めて頂けますか」
「中止はしない」
「でも2人が帰ってこないのですよね?本来なら5人でやるはずの入れ替わりの作業が3人。どんなに早く見積もっても倍ほどの時間がかかりますが?」
確かに彼女の言う通りだ。
元々2人はその能力を加味して受け持ちの比重を多くしていた。どれだけやっても3人とも予定の倍以上を急遽対応することになる。
現状では比較的余裕があるのはカシューだが、それでも時間内に達成する事は不可能だ。
「それでも中止はしない」
「そうですか、分かりました。何か変更があればすぐに知らせて下さい。私は隣の部屋で待機しております」
アリアとジェシカの事は心配だ。しかし、其方に裂いているだけの人材は余っていない。フォークネルもそろそろ入れ替わりの予定だが、今彼を送り出して良いものなのか。思考が定まらない。
「…ア、アイザック君。僕行ってくるね」
「いえ、フォークさん待って下さい」
もう見た目では誰もフォークネルだとは気づかないだろう。
「大丈夫だよ。僕のスキルは《同調》だから完璧に入れ替わる事が出来る。それに2人は成功したって言ったんだ。僕は2人を信じてるよ」
「しかし…」
2人が消息を絶った時点でフォークネルの入れ替わりが成功する可能性は低い。仕留め損ねていたか、何かしらの能力か、もしくは繋がりで仲間の異変に気づいたのか。
もうこの作戦は破綻している。向こうに此方の動きがバレている可能性がある時点で入れ替わりも無意味だし、不意打ちなどもっての外。
そんな事は分かりきっているのに彼が行かない事にはこの作戦の成功は無い。
「アイザック君。落ち着いて下さい。貴方の能力ならキチンと正解を導けるはずです」
「…もう、何度もやったんです。でも何度やっても…失敗にしか辿り着かない…こんな事初めてで…」
アイザックが動揺を見せる。
それはそうだろう。だって彼はまだ一度も負けた事がなかったのだから。その頃よりも確実にスキルは成長してるし、彼自身も大人になった。
成功が見えていたはずなのにここに来て失敗したとなると悪魔は警戒して余計に倒しづらくなるだろう。
「では、私が動きましょう。確かに非戦闘員ではありますが、1人や2人ぐらいならお手伝い出来ますでしょう。私もハルト様から預けられておりますから」
「…その選択肢はないです。イッシュさんが行くぐらいなら僕が行きます。寧ろもうその必要も無いかもしれないのですから…」
「でも、何かしらしなくては…」
「いえ、出来る事がありません。進んで地獄か進まないで地獄かなら、迷わず僕はみんなを危険に晒さない後者を選びます」
何を言ってもがんとして聞く耳を持たないアイザック。動揺を隠せていない。
「無駄なんだ…もう。何しても失敗にしかならない」
「アイザック君…」
「クソッ。何処で狂った」
それでも中止に踏み切れないのはやはり何処かでリーンに失望される事を恐れているからなのか。
「ねぇ、アイザック君。今は何が足りないの?人?それとも時間?」
「人…ですね、時間も足りないですが…それはどうにか出来るんです。でもただの人ではダメです。騎士団レベルでも足りない…。アリアさんとジェシーさんくらいに凄く強い人じゃなきゃ…」
「じゃあさ、こんなのはどう?」
普段どもりっぱなしのフォークが意気揚々とポケットからハンカチをそっと取り出す。アリア特性の刺繍入りの絹ハンカチだ。明らかに何か専用に作られているように見える。
綺麗に畳まれたそれを開くと数本の髪の毛が入っていてフォークネルは嬉しそうにアイザックに見せる。
「…もしかして…」
「うん!イアンさんの!お守りにって貰ってきた!」
「…あ、あぁ、そうか。そうしたら…でも…いや、それはどうにか出来る…か…」
アイザックの呟きが始まる。
いつもの合図だ。
スキル《軍師》の発動前必ず情報の整理、すり合わせ、時間の計算式…などなど、それらを同時に並列思考する。
「…イッシュさん、フォークさん。一つ頼まれてくれますか…?」
「「もちろん」」
「ふふふ、ありがとうございます。大丈夫行けそうです」
一瞬で考えが纏まったのか、先ほどまでの余裕のなさが晴れて小さくだが笑う事ができた。
何も知らずただ縛り付けられた男はどうにかこの状況を打破しようと身体を大きく揺らしながら抵抗を見せる。
それでもどうしようも出来ないのは彼が宙吊りで浮いているからだ。
今はその揺れと共に壁や天井が小さく軋む音がする程度で静かなものだ。
暗がり、突然の拘束、軋む音以外寧ろ不自然なくらい静かで自分の状況を全く理解出来ていない。
唯一の救いはとても細い糸で縛られているのだがその糸は全く痛くない、という事だけ。
揺らし続けていると一瞬背筋に冷たい物が当たった感覚があり、慌てて身を捩るがその触れた先からチリチリと身が焼かれて行く感覚がどんどん強くなっていく。
「んーー!!んーーー!!!!」
口も何かを咥えさせられていてとても助けを呼べる状況では無い。声を上げようと必死になる。
手さえ、手さえ解ければ…。
「ごめんね、おやすみ」
優しい声が聞こえてきて、そこで彼は静かになり、塵となってきえていった。
「…20、体目です…。流石神様の使用人…」
「鮮やかな立ち回りでした!」
「あはは、そんな事無いですよ」
「汗ひとつかいてない…」
「糸で縛り上げただけなので…」
「いえ、それでもここまでスキルを連発していたのに使用後何事も無かったかのようにケロッとしてますし…」
「…と、とりあえず。一応追加連絡で来た分は此処で終了です」
「はい。皆さん、お疲れ様です。ご協力ありがとうございました」
「「「「いえいえ、こちらこそ感服です」」」」
意外にも和やかな雰囲気で事を終わらせたグレイチーム。4人の騎士たちと共に20人の入れ替え作業を無事終了させたところだ。
元々の受け持ちは10体だったが、急遽予定変更の知らせが届きアリアとジェシー付き予定だった騎士と合流して追加で10体終わらせた。
アイザックの無茶振りにも驚いたがなんだかんだでやり遂げでしまうグレイに信頼しての事だった。
「私は連絡を入れます。皆さんは少し休まれてて下さい」
「はい、ではお言葉に甘えて」
少し離れたところでタブレットを取り出したグレイはアイザックからの連絡が入っている事に気が付く。
「…成程…、休む暇はなさそうですね…」
グレイが休んでいた騎士達の方に振り返ると騎士達はすぐに気が付き困った顔をする。
「また司令ですか…?」
「どうやら僕には休む暇はなかったようです」
「我々に手伝える事は…」
「いえ、どうやら今回は別件のようで」
「…そうでしたか。グレイさん、その、お気を付けて」
「お気を付けて」
「皆さん、ありがとうございました」
グレイはそのままもう一度彼らに背を向ける。
月明かりの明るさで一瞬目を瞬くともう、そこにグレイの姿はなかった。
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