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第三章
作戦決行
しおりを挟む「んじゃ、行ってくるね」
「んじゃ!」
「アリィ、ジェシー、気をつけてね?」
「誰に言ってんの?」
「の?」
「いってらっしゃい」
ドヤ顔の2人を見送るフォークネルとイッシュ。2人は非戦闘員のため今日は宿屋にてお留守番だ。
「フォーク君、お手伝い頼めるかな?」
「うん!勿論!」
そんな2人にも役割はある。
幻惑効果のあるポーションと幻惑無効のポーションの作成だ。
いくら【役者】が演技に長けていたとしても家族や恋人、親しい友人に本人と思わせるには少々無理のある話。それを可能にするのがこのポーションという事だ。
このポーションは強い幻覚と催眠状態を引き起こさせる。これを周囲の人達に飲ませる事で本人だと錯覚させるのだ。
今回50体の悪魔との入れ替わるに伴い100本以上のポーションの制作を1日で成さねばならないので中々ハードな仕事だ。
昨夜から取り掛かっていたので今日の昼頃には完成するだろうとの見通しで進めているが、やはり少し時間を押している。
「これを“ビン”に詰めて貰えますか」
「分かった!それにしてもこの“ビン”って奴。すごいね!透明で中が見やすいし、形も自由に決めれるんでしょ?この六角形とか綺麗で僕好きだなぁ」
「ふふふ、そうですね。ダーナロ、いえ、エルムダークにはありませんでしたからね。私も初めて見た時感動いたしました」
「前にハルト様に見せて貰った“グラス”って奴も《錬金術》なんでしょ?ガンロ様が作ったって聞いたけど、僕も作って貰えるかな?」
「えぇ、この“ビン”もガンロ様がお作りになられたんですよ。ガンロ様はお優しいので頼んだら喜んで引き受けてくださりますよ」
「えへへ、楽しみだなぁ」
時より会話に花を咲かせながらも黙々と手を動かし作業を進める事一刻ほど。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「どうですか?すみません、急に無理言って」
「いえいえ、必要になるかもとは聞いてたのでこの前森に行った時についでに用意してあったんです。もう完成してますよ」
「アイザック君達こそ無理してない?やっぱり大変だった?」
アイザックとグレイは昨日ジェニファーにお願いしていた【役者】達と会いに行っていた。配役、配置の確認と作戦を伝えに行っていたのだ。
日が落ちるまであと一刻半といったところか。
「いやー、かなり疲れました。今日はお昼寝出来なさそうだし、早めに寝るようにします」
「アイザック君は退治しに行かないの?」
「僕の分はジェニ君にお願いして来たんです。因みにフォークさんの分はカシューさんにお願いして来ましたよ」
「カシューさんに?大丈夫かな?」
「僕の見立てだとアイザックよりも強いですね、あの女性」
「そ、そうなんだ…僕よりも強いんだね」
「フォーク君はイアンさんになれますから、無敵ですよ?」
「ぼ、僕イアンさんになる!」
「いやいや、フォークさんには別の仕事があるので」
「あ、そうだったよね…ごめん」
しょんぼりと落ち込むフォークネルの頭をグレイが優しく撫でる。
「2人はもう出たんですね」
「はい、お昼過ぎには出発しましたね」
「良かった。では、また夜に」
「フォークさんもよろしくお願いします」
「うん!大丈夫だよ!」
帰ってきたばかりだと言うのに受け取ったポーションを持ってアイザックとグレイは一休みする事なくそのまま再び部屋を出て行った。
「ジェシー、行くよ」
「行くよ、アリィー」
阿吽の呼吸とでも言うのだろうか。
2人は初めこそお互いを呼び合ったがその後は目を合わせる事もない。
昼下がりの時間。それでも此処は路地裏なので薄暗い。ダーナロではこんな路地裏なら鼻が曲がる程の悪臭が漂っていたが、【錬金王】が作ったと聞く上下水道のお陰か全くそのような事はない。
不満があるとすればダーナロでは石畳みなど本当に栄えている街の中心か王都でしかないので、なれない石畳みに足音を殺しにくいと言う事だけ。
外套が風ではためく音と2人の小さな呼吸音だけがその路地裏にはあった。
目的地は地下奥深く。
此処は役人の目が届かない闇市。
陰湿な雰囲気を気にも止めずに歩く2人に視線が集まる。こういった場所は新参者に容赦をしない。
呪いが掛かっていると吹聴する男、腰が90度以上曲がっているお婆さん、全ての歯が抜けた男、深くフードを被り顔が見えない人、小人のように小さい男、大きな鷲鼻が特徴的な魔女風の女。
様々な人種の人々が出店のような店を出している。
魔物の剥製や怪しげな壺、いやらしいくらいにギラギラしてる剣、気持ち悪い虫が詰まったビン、人の手のような置き物、不気味な光を放つネックレス。
とても目に毒だ。
「ヒヒヒッ。お嬢ちゃん達…こんなところに何しに来たんだい?おしっこ漏らす前にお帰り」
「あら、私がそんな歳に見えるのなら友達に特別な薬頼んで上げるけど?」
「口の悪い子だね。まぁこんなところに来るんだ。それくらいじゃなきゃね、ヒヒヒッ」
「話したついでに聞きたいことがあるんだけども…」
腰の曲がったお婆さんと話しながら並行して歩いて行くアリアの外套をその後ろを無言で着いて歩いたジェシーが引いて止まる。
会話の途中だった事もあり、上半身を少し沿ってしまうが、お陰で周りを窺うことができた。
「何を聞きたいんだい」
「うんん、もう見つけたみたい」
「そうかい、そうかい。間違えるでないよ。此処は吹き溜まり。道を外れた者、罪を犯した者、恨まれる者、イカれたやつらの集まりさ」
「ありがとう」
「嬢ちゃんもね」
「うん」
怪しく笑うお婆さんを残して2人は真っ直ぐ進む。
決して油断はしない。
でも2人なら問題はない。
私達は2人なら最強だ。
「こんにちは、お尋ねしたい事があるんですけど」
「…」
「あら、ご機嫌悪かったですか?」
「質問ならさっきのお婆さんにしたら?」
「見てたんですね?」
深く被られたフードで顔を伺う事は出来ない。それでも特徴的な高めの通る声はこの目の前の人が女だと言う事はわかる。そして彼女が目的の人物だと言う事も分かった。
「貴方しか分からないことなの。だから貴方に質問してるのだけれど」
「何もお答えする事は御座いません。こんな所で誰かと話すと言う事の意味を理解してないのですか」
「いいえ、此処じゃなきゃ聞けないこともあるって事ですよ?」
此方もそんな馬鹿じゃない。
此処がどう言う場所か知っていて此処に彼女が現れるのを待っていた。
「…私には何も応える事はない」
「いいえ、応えてもらいますよ」
「私は何も知らない」
「それならそれでも良いの」
「どう言う意味だ。こんなところまでわざわざ来てまで聞きたいことがあったのではないのか」
「その質問は答えません。時間を稼いでいるのは分かっているから、じゃあね」
「じゃあね」
此処はお婆さんの言う通り吹き溜まりだ。
それ故に危険でめっぽう強いか、自身も罪人か、死にたがりでは無いとたどり着けない場所で普通の人滅多に寄り付かない。来ても迷い込んだ人ぐらいだ。
だから誰が来ようと誰が去ろうと誰が消えようと此処では関係がない。治外法権のような場所。此処には此処のルールがあってそれさえ守れば何しても許される。
「…ディ、あ…ブ………さ、ま……ファ…う、ト…さ…ま…」
敢えて残された純銀の短剣。
声にならない声を上げる女を置いて2人はまた外套のはためく音と小さな呼吸音だけを出して静かに立ち去った。
純銀の短剣が刺された場所から徐々に黒い外套に黒いシミが広がって行く。ゆっくりと確実に広がって行くシミが丁度ピート(りんご)程の大きさに広がると短剣が刺さったまま地面に崩れ落ちる。
「おや、まぁあんな子供に油断したね。此処では例えどんなに子供でも油断しては行けないとあれだけ忠告してやったのに。…まだ何かしたい事はあったかね?」
もう声も出せない女性は倒れた拍子に少しだけ見えるようになった口元だけをパクパクと動かした。
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