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第四章
懐柔
しおりを挟む「お待ちしておりました」
「…こ、こここここ、んにちわ」
「どうぞ、お掛けになってください」
「ははああぁぁい!」
緊張、と言うよりは恐怖だろうか。
どもりは勿論のこと、終始身体が震えていて、目が合うこともない。
一体ラテは何と言ってここまで彼女を連れてきたのか。
「わざわざお越しくださってありがとうございます」
「ははああぁぁい!」
「お茶は如何ですか?」
「ははああぁぁい!」
何を言っても驚かれ、返事は全て同じ。ここまで怯えられていては話しが全く進まない。
リーンが困ったようにラテを一瞥すると、彼女も困った顔をしているので、脅したとか無理矢理連れてきたとかではなく、これは単純に彼女自身の性格なのかも知れない。
「今日は貴方にお願いがあってお呼びしました」
「しゃ…しゃしゃしゃしゃ、借金は…必ず、必ず、おおおお返ししますのでぇえええ。ど、どうか、母は母だけはお返ししださいましいいいいぃぃ」
借金。神示で彼女を覗き見た時にはそのような情報はなかったはずだ、とリーンは神示を見る。
そして納得して、ゆっくりと一度だけ頷いた。
「貴方は本当に素直な方のようです。能力をつかえば何だってできると言うのに、そんな嘘まで信じてしまうなんて」
「…明日!明日までには……え?嘘…ですか?」
「この方は騙されていたのですか?」
「それよりも能力をつかえば何だってできるというのはどう言うことですか?」
「皆んな落ち着いて。そんなに一気に答えられませんよ」
リーンの落ち着いて、の言葉に三人が同時にぐっと口元を押さえて見せる。それが余りに面白くてリーンはクスリと笑う。
三人はそんなリーンの微笑みの余りの可愛らしさに頬を染めて見惚れていた。
「ただ、お母様が連れ去られてしまったのは本当の事のようです。直ぐにお救いしなければなりませんね」
「あ!母、母は無事なのですか!?」
彼女の反応はどう見ても素直すぎる。
勿論リーンは誘拐犯ではないし、借金取りでもない。それなのに母親の誘拐は本当で、借金は詐欺だと言い退けた。
それに対して彼女は何故知っているのかを疑問にも思わず、リーンに母の無事を聞いているのだから、少々お馬鹿なのかも知れない。
「えぇ。ですが、体調のこともあります。救出は早いに越した事はありません」
「はい、母はとても身体が弱く…いつも寝たきりで…早く休ませて上げないと」
「では。早速、救出に参りましょうか」
「え…えっと、私もですか?」
「はい。貴方はその力の使い方を覚えなければなりません」
彼女は自身の手のひらを見て、苦悶の表情を見せる。力の存在に関しては彼女も分かっているようだ。分かってはいるが、全く自信がない。いや、過信できるほど使いこなせていない。
「私は、この能力に振り回されてきました…。こんなのが使えるだけでただの平民なのに、貴族のように勉強は勿論、お裁縫や花生け…お家のことを習わされ、かといって社交界デビューする事もないのでそれを披露する場所もなく、ただただ友達のいない娘になりました。それなのに、出来ることはほんの些細なことだけ。そこにきて、借金やら、誘拐やら、もう沢山です…」
「それは貴方が本当の意味でその能力の使い方を理解していないからです。使い方さえ理解すれば、その能力は貴方の最大の武器となるでしょう」
まだ信じられない、と視線は床を見たまま。
ただ、もし言われた事が本当なら。もう、何にも苦労しなくてするのなら、これまでの苦労が意味のあるものになるのならやれることはやりたい。
それが強く握られた拳に現れていた。
「前向きで、人の良い貴方はきっと使いこなすでしょう。まずは能力の事をよく理解しなければなりませんが」
お気づきだと思うが、彼女がリーンが探していた神導十家操りの《マリオネット》を継承する一族、アドルーノ家の娘、リブリー・カルティ・アドルーノ。
アドルーノ家が扱う《マリオネット》は使い方によっては何よりも使い勝手が良く、自由度の高い能力だ。
《マリオネット》の名の通り、能力は人を操る事。
と言ってもやはり出来る事にはそれなりの制限がある。
一.直接命に関わる行動は強制できない
二.行動を強制した人物に害があってはならない
三.《マリオネット》使用者は強制する人物達の氏名、年齢、生年月日、顔を知っていなければならない
四.《マリオネット》使用時に物語に齟齬が発生した場合はすぐに効果は消える
このような制限があるために、うまく使わないと能力が無効になったり、縛りによって使うことすら出来ない。
「出来ないことはよく理解してます。これでもそれなりに使いこなそうと努力した事もあるんです。でも、一つもうまくいかなかった」
「確かに、貴方の性格には合っていない能力かも知れません。人を騙したり、操ったりするのですから、それなりに意地汚く、性格が悪くないといけないですから」
「でも、名前や顔まではすぐに分かっても、年齢や生年月日など細かな情報まで必要となると…」
「それは考えようです。例えば、私がラテの基礎情報を何も知らなかったとします。そして、ラテに危害を加えたくなったとしたら、私は基礎情報を持っているエイフリアにこの屋敷に行って若い娘を攫うように動かします」
「確かに、若いの基準はそれぞれかも知れませんがこの中で一番若いのはラテです。私は誰とは指示されずともラテを攫ってくるでしょう」
これがリーンの言う意地汚く、性格の悪い考え方なのだとしたら、相当頭が良くないと難しい。何故なら物語に齟齬が発生したら直ぐに効果は切れてしまうからだ。
ただ、この能力の良いところは操られている事に操られている本人が気付かないということ。
操られているその人はただの日常の1ページに過ぎないことのように気にもとめないのだ。例え幸福になろうとも不幸が起ころうともだ。
「何を恐れる事があるのでしょう。気付かれないのなら失敗しても繰り返せば良いだけです」
「で、でも…失敗したら不幸になる人がいるかも知れないのですよ?」
「そうですね。でも、その不幸は貴方が能力を使ったから降りかかったものなのでしょうか?」
「え?」
「元々起こる事だったかも知れませんし、その方の日頃の行いのせいかも知れません。お家のことに囚われ恐れてしまうのは分かりますが、幸福になった人の裏には必ず不幸になる人がいます」
不幸は何故不幸なのか。幸福はとは何なのか。
お金が手に入れれば幸福か。そのお金が原因で家族が不仲になってもなのか。そのお金が原因で以前よりも貧乏になり下がってもか。お金がある時は友人が増えて、無くなった途端無視されてもか。
何が良くて何が悪い。それこそ人の価値観の問題だ。金持ちになってたくさんの人が擦り寄ってきても心は寂しいままなんてよく聞く話だ。
「お家なこと…とは?」
「…私の家はこの能力をお金にしてます。商人や漁師、たまに貴族なんかも相手にします。彼らに呪い師のように悩みを聞いて、商人を次の町まで盗賊に出合わないようにしたり、漁師には大量に魚が釣られるようにしたり。彼らのやりたい事を現実にするのです」
「確かにそれは稼げそうですね…」
「だからこそ、失敗は許されない。どんなイレギュラーがあろうとも失敗はお金にならないですから」
悲しそうな視線を地面に向ける。
これは能力云々の話ではないのかも知れない。彼女は能力でお金を稼ぐということ自体を嫌っているように見える。
「そんなんだから、私の家は良く狙われているんです。だって高いお金を払って占って貰うよりも囲った方が安く済みますから」
「リブリー。貴方の悩みを解決するには、お母様の救出が最優先だと思います」
「そ、そうでした!母を早く助けなきゃ!」
どうしよう、とここに来た時と同じように怯え始めた彼女を見てリーンは笑う。
「ハルト様変わられましたね」
「そうでしょうか…?」
「余裕があって、凛々しく麗しく、知的で素敵なのはいつも通りですが、少し隙と言いますか。可愛らしいところを見かけてしまいました」
ラテは嬉しそうにニッコリと微笑み。リーンの手を優しく握った。
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