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第四章
アジト
しおりを挟む「では、今お伝えしたとおりに」
「が、頑張ります…!」
その表情と握られた拳にはやる気を感じさせられるが、小さく震える身体は不安を隠せていない。
大切な母の命がかかっているのだ、仕方のないことかも知れないが、それでも彼女に自信をつけさせたいリーンは極力余計な手出しはしないと決めていた。
ゆっくり深呼吸して、杖を間違えないようにゆっくりと動かす。空中に光る文字が浮かび上がっては消えて行く。
彼女が宙に認めるのはこれから起こるであろう物語。表現は詩的でありながらも、行動は明確にし、物語に齟齬が起こらないように、主人公に不利益が起こらないように、時には登場人物を増やしながら物語を進める。
前提として彼女の母親に危害があっては困る。何故なら今回、彼女の母親を救出する為の物語なので何より物語が破綻しやすくなるからだ。
だから、今回は名前も生年月日も年齢も顔も知ってる母親自身を主人公にすることにした。
これは条件の一つ、行動を強制した人物に害があってはならないを逆に応用する形だ。
害があってはならない、を言い換えれば害を起こることは行えないっと言うことになる。だから、害があると《マリオネット》が認識すると物語の齟齬として効果を無効化する。
要はその効果を利用して害が起こりうるのかを判断できるということだ。
「…大丈夫、そうですね」
「はい、効果は継続しております」
リーン達は今、彼女の母親が連れ去られたとその場所に来ている。実際、ラテの力、もしくはリーンの神示を使えば居場所など直ぐにでも分かるのだが、やはり此処は彼女の自信のために助力こそするが、彼女の母親に害がない限りは手を出さない。
「ここで待っていたら、多分…誰かに声をかけられるはずです」
「早速、のようですよ」
「おーい、アドルーノんとこの嬢ちゃん!」
「骨董品屋のおじちゃん?」
どうやら話しかけて来たのは知り合いだが、それ程親しい間柄では無いようだ。遠慮がちに返事をするリブリーはリーンの顔色を確認して、骨董品屋のおじちゃんとやらに向き直る。
「さっきな…あそこのパン屋の角辺りでお前さんのかあさんを見たんだがな…なんか、嫌な感じの連中と一緒に居たんだよ…。問題ないんだよな…?」
「お母さん達はどっちの方に行きましたか?」
「何だ…?やっぱりなんかあるのか?この話しを俺から聞いたって言うなよ?」
「大丈夫。言わないよ」
「…この先にある廃墟街に向かってた。最近あの辺に隣町で問題を起こして追い出された奴が住み着いたって専らの噂だ。…それで嬢ちゃん…今度お願いがあるんだが…」
「うん、御礼するからその時に」
「おうよ、待ってるからな」
手を振って去って行く骨董品屋のおじちゃんとやらはにこやかで得したと言わんばかりの表情だった。
多分、あのおじちゃんとやらは彼女の能力について知っていて、その交渉をされたのだろう。
「一番面倒な人が出てきました…」
「齟齬は?」
「齟齬はないようです、でも…ハーデスさんか…」
今回の物語の冒頭は連れ去られた主人公の姿を見ていたとある人物が主人公の娘に彼女について話すところから始まる。その人物は彼女に見返りを求める代わりに居場所について教えてくれる。
「大丈夫です。敢えて見返りを求めるようにしたのはそれをすることによってある程度、お母様の居場所を教えてくれる人物を誘導する目的があったのです」
「誘導、ですか?」
「確実な訳ではありませんが、目的の人物が初対面の相手だった場合、こちら側から探すのは重労働です。そうなると会話の流れで偶々聞き及んだ、とか、探し回って漸くその人を見つけた、となる可能性が高くなり時間も掛かります」
「今は時間もありませんしね」
「はい。でも、その人物が見返りを求める、と物語に敢えて付け加える事で対価として見合うそれなりの情報を見込め、更にある程度リブリーさんのことを知っている人になり易い」
「リブリーさんのことを知らないと見返りを求めるほどの情報に見えないし、そもそも対価として見合うか判断しにくいのですね」
ラテの言うとおり、情報を持ってきたハーデスは母親が攫われたとは思っていなかった。ただ少しヤバそうな人達を連れて歩いていたと思ったのだろう。
ただ、リブリーにとって母親はとても大切な人であると彼は知っていて、また彼は彼女の能力に肖りたいと思っている。
そしてポイントはここだ。
物語の登場人物達は自身の行いは日常の一幕としてしか捉えない。裏を返せばそう言うことを普段からやっていないとそれが日常の一幕とはならないのだ。
「…上手く使う、と言うのはこう言う事なのですね」
「さっきもお伝えしましたが、貴方は前向きで人が良い。だから、きっと使いこなせる。ただ、その反面時には小狡くならないといけない時もある」
前向きに挑戦して頑張れる子だ。ただ、小狡くなり切れず、失敗を恐れて萎縮してしまっていた。要領を得ることが出来ればそれ程難しいことでは無い。
何かを利用する、と言うのは何も悪いことばかりでは無い。システムをよく知り、理解する事で応用出来るようになり、時にはシステムの揚げ足をとるようなのも使うが、基本的には人を騙したり、陥れる物じゃなくても良い。
とにかく、此方の思惑が当てはまるように誘導、もしくは選択肢を狭める。予測の範囲内に持って行くのが腕の見せ所だ。
「お母様が心配です。次に行きましょう」
「はい」
一行はハーデスに聞いたとおりに廃屋街までやってきた。
廃屋街の名の通り、街は荒廃していてとても人が住める状態ではなく、人気も生活感も感じられない。
エイフリアには鋭く刺さるような視線を感じられた。ラテも気づいているようでエイフリアに一瞥をくれる。
例え視線に気付かなかったとしても状況を垣間見てもとてもじゃないが警戒してしまう状況。
なのにリーンとリブリーはにこやかに会話をしながらなんの警戒もなしに廃屋街を進む。もしかしたらリーンはしているのかも知れないが、そんなそぶりを微塵も感じさせない。
「では、中に入りましょうか」
「…はい」
廃屋街の中心地。そこに周りより少し小綺麗に片付けられている一軒の赤い屋根の家。ここは流石のリブリーであっても分かるくらい人の気配を感じる。
「予定通りに」
「はい」
敵はリブリーについて相当調べているはず。でなければわざわざ病気で伏せっている彼女の母親を連れ去る必要はない。
彼女の家は脳力故に前から狙われ続けている。お金を積めば貴族にもなれる程の財力を持ち合わせながらもそうはしないのはそうする事で貴族になるよりもより多方向から狙われやすくなるからだ。
当然、アドルーノ家の存在を知る貴族からはそれなりの要求をされているみたいだが、貴族は見栄を張るものだ。わざわざ他の家にアドルーノ家を差し出すことはしない。
上手く付き合っているようだ。
だから、アドルーノ家は平民でありながらも屋敷を持ち、私兵で家を固めているため警備も厳重で母親を連れ去るのは一苦労する筈。
それでもわざわざ連れ去ったのはそう言う事だろう。
「…やっと来たな。まぁ、一人で来いとは言ってなかったから見逃すとして…連れてきたのは女と子供。それも美女とエルフと来た。子供も成長すれば売れそうだ」
「お母さんを返してください」
「待て待て。それはお前達の借金が原因だと話しただろう?」
「いくらですか?いくら払えば返して貰えるのですか?」
もうさっきまで恐怖で震えていたリブリーではない。きちんとした受け答えをしている。
「大金貨1枚。これは利子分だ。そして元金は大金貨5枚。今すぐ払えば返してやろう」
「では契約書をお願いします」
「契約書だと?それはもう渡しただろ?」
「あれは偽物でした。お金を返すのは問題ありませんが、こう何度も絡まれては困ります」
堂々とした対応。
流石に敵側もさっきまでの彼女とは違うと分かったはずだ。明らかに面倒そうな顔をしてため息をつく。
「立場が分かってないようだ。お前なんか捻り潰せるんだぞ」
その吐き捨てられたセリフを聞いてリーンは小さく笑った。
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