神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第四章

夜風

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 フレディが去った部屋の中は少し重たい空気が流れていた。別に今この場で何かかあった訳ではないが、何となくお互いに言いようのない気持ちがあって、少しの間沈黙があった。
 ただ、その時間は苦しいものではなくて、どちらが先に口を開くかを譲り合っているようなそんな時間だった。

「…イアン」

「…ん」

 多くを語り合う訳ではない。
 イアンだからこそ作り出せる優しい時間。
 ただ、それを受け取ってリーンはゆっくりとイアンに手を伸ばす。そして、手を取り合ってゆっくりと歩き出す。

「何処から行きたい?」

「温泉でしょうか」

「んじゃー、一番近いところに行くか」

「はい、そうしましょう」

 それがいつもの二人の姿そのままだった。

「試作品は出来てるぞ」

「試作品ですか?」

「水晶鏡をもっと小型するとか何とか言ってただろ?」

「もう、そこまで進んでいたのですか」

 ガンロにお願いしていた水晶鏡の小型化。小型化といってもただ小さければ良いという物でもない。
 クレジットカード程度の大きさ、薄さで持ち運びが便利で、機能としては自分自身のステータスを随時確認出来らように認識魔法をかけて、尚且つ人には見れないように保護魔法を施す。そして、それがその人個人を識別するカードとなり、身分証明書となる。なので、他人のは利用できないように固定化魔法も必要だし、違法なものを作り出せないように偽造防止用の識別魔法も必要になる。
 そして、今回の最大の課題。この世界の人間全員が所持出来る様にする。

「量産はまだ難しいみたいだが、取り敢えずこの街の規模ぐらいだったら問題ないそうだ」

「後でガンロには何か労いをしなければですね」

「あのエルフのねぇちゃんを付けてやれば良いんじゃないか?本体の製作よりも魔法を施すのに時間がかかってるって話だったぞ」

「そうですね。フレディの件が片付いたらお願いしてみましょう」

 決して何も無かったかのように進む二人の会話。でも、リーンは後悔と懺悔の気持ちでいっぱいで、初めの挨拶以降イアンの顔を見れないでいた。

「一緒に入るだろ?」

「そうですね」

 着いたのは随分と趣のある建物。
 高い木の塀に囲われていて、凛の頃に両親に連れて行って貰った少し背伸びをして泊まった旅館を思い出す。

「素敵ですね」

「ここはリーン、お前専用なんだと。あー、一応管理者はレスターってことになってるからよろしく」

「わかりました」

 イアンは恐ろしく頭が回る。頭が良いというより状況判断や理解力が高く、それを活かした戦闘をしている感じだろうか。
 イアンがリーンを迎えに行かず、敢えて桃源郷に先に戻ったのも、その方がリーンの為になると悟ったからだし、もっと言えばリーンがデロス島で何をしていたのか、どういう気持ちなのか、と言うのも、これから何を始めようとしているのか、どうして欲しいか、と言うのも多分全部分かっている。

「足元滑るからな。ちっこくなっとけ」

「はい」

 その証拠にフレディの件も何があったのかを話しただけであそこまでの準備とお忍びで帰ってくることを提案して来たし、気になっていた水晶鏡の進捗状況を聞く前に伝えてくれた。今だって温泉に入りたいと言うと分かっていて聞いていたのだろう。
 でなければ今ここに子供用の甚平など用意されている訳がない。

 全く彼には頭が上がらない。
 多分、中身はレスターよりも大人だ。

「これ、キールが改良したシャンプーらしい。感想が欲しいとよ」

「わかりました」

 こうして人を立てることもさり気なくするし、何より喜怒哀楽の使い方が上手い。多分、暗殺者という職業柄、人をよく観察していた彼はどうすれば他人の気持ちを操れるのかをよく理解しているのだと思う。
 だから、感情的そうに見えるが全くそんな事はない。寧ろ自分をなかなか出さない。

「痒いところは?」

「ないです」

「んじゃ、風呂入るか!」

「はい」

 本当にあの自分の意志が無かったイアンと同一人物なのか?と思う人もいるかも知れないが、多分、自分の意志が無かったからこそ、他人がどう思っているのか、をよく考えるようになって、他人を優先するようになったのだと思う。
 まぁ、現段階ではその他人というのはリーンかレスターだけなのだが。

「どうだ?リーンが言ってた物に近いか?」

「そうですね。ここまで再現されているとは思いませんでした」

 だから、リーンは合わせる顔がなかった。一時の感情に流されて逃げてしまった。元々逃げるなんて選択肢はなかったのだ。逃げ出すこともできないくらいに色んな物を進めていたのに、それら全てを投げ出して子供のように泣いて、叫んで、駄々を捏ねていた。
 完全に間違えだったと言うことをイアンを見ていて気付かされた。

「そろそろ一杯いくか?」

「いつの間に用意してたのですか?」

「風呂入ったら汗かくからな」

「お酒は余計に喉を乾かしますよ」

 レスターが全てを受け入れて、甘やかす人ならば、イアンは全てを受け入れて、己の行動で諭す人。
 これがダメとか、あれが良いと言葉で伝えて来るのではなく、自分で考えさせる人。

「しかし、その見た目で酒は似合わねぇな」

「そうですね。私も少々違和感を感じます」

「満月でも出てれば、雰囲気良くなるんだがな」

「残念ながら半月ですね」

 だから、ついつい甘えて気付けたなら良い、と許す彼に甘えてしまう。でもこうしていつも許されてしまうからこそ後悔と懺悔の気持ち生まれてしまう。
 だから、今日は…今回はきちんとしなければいけない。許されることに慣れてしまってはいけない。

「…レスター」

「分かってるよ」

「…言わせてくれないのですか?」

「それよりもさ。この前貰ったのまた作っても良いか?お前の居場所が分からないのが不安でならねぇ」

「そんなの何個でも作って下さい。だから…」

 やっと合わせた顔は少し窶れ、苦しそうに歪んでいて再び目を逸らしそうになる。

「俺が、お前の涙を…拭きたかった」

「…」

 でも、彼の言葉に逸らしかけた瞳がまた戻る。彼がそんなことを言うとは思っていなかった。

「だから…次は俺にその番をくれ」

「イアン…」

「次もダメなら、その次でもいい」

「…」

「それもダメなら……その次くらいは妥協して俺にしといてくれ」

 目頭が熱くなる。
 どうして離れられるなんて思えたのだろうか。もう、既に離れることなんて出来なかったんだ。彼らのない影を求めて似た人物を見かけるとつい目で追っていた。ふとした時に名前を呼んでしまっていた。他の人と話しているのにこんな事彼らなら言わない、と比べてしまっていた。
 初めから無理な話しだったんだ。

「イアン…拭いてくれますか?」

「勿論だ…。それが俺の一番の願いだから」

「明日も一緒にお風呂に入りましょう」

「明日も、じゃなくてこれから毎日だろ?」

「逆上せたかもしれません」

「我儘な神様だ」

 一度泣いたからだろうか。
 涙腺が緩んでしまっているようだ。最後に泣いたのがいつだったかも思い出せないのに、こうして何度も泣くなんて思ってなかった。
 それなのに幸せだった。泣いているのに幸せだった。
 愛されているのだと、実感してしまった。もう、離れる事は出来ない。

(リヒト様にも会いたい…)

 真っ暗で、静まり返っている街を見下ろしながら火照った身体を冷ます。
 イアンの瞳には今、何を考えているのかを見透かされているのだろう。リーンを抱っこする手が少しだけ強まった。本人も気付かないくらい少し。
 でも、それが今は心地よい。

「街の様子は如何ですか」

「もう、直ぐに人が住めるような状態だ。だから、人っ子一人居なくて凄く物寂しいな」

「では、明日からでも始めましょうか」

「大丈夫だったのか?」

「えぇ。またティリスに迷惑をかけますね」

「あいつはいつも喜んでるけどな」

「さすがに今回は、怒られるかも知れません。デロス島の全員をここに運ぶのですから」

 わざとらしく話題を作ったリーンを何も言わずに受け入れるイアン。お互い、お互いを生きづらそうだな、と思い合っていた。











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