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第四章
計画書
しおりを挟むデロス島の作業と水晶鏡の作業が進む中、ヴェールズでの船の一件からリーンの周辺では度々ディアブロの影がチラついていて、桃源郷内の一部では疑心暗鬼になるものまで現れ出した。
本当に今の言葉は操られたものじゃないのだろうか、と。
そして、その不安は当然リブリーへと向けられ、彼女は以前よりもまして更に部屋へ引きこもるようになってしまった。
それでもリーンの事だけは受け入れるので、最近のリーンはもっぱらリブリーと食事をするのが日課になっている。
「それで、ここなのですが…」
「良いと思います。流石リブリーですね」
「あ、ありがとうございます!」
自信のなさげな態度は相変わらずだけど、彼女には才能と類い稀な能力がある。どうにかそれが彼女の自信となればいいのだが、そうもいかないのが現実だ。
「…これで少しずつでも水晶鏡の存在がごくごく当たり前のものになっていけば、この世界は著しく発展するはずです」
「はい、女神さま」
この世界の人たちは自分のスキルや技能、ジョブについてよく分かっていない。特に平民なんかは16歳で行う成人の儀で受け取った結果を最後に例えジョブが変わってしまったとしても死ぬまで自分にどんなスキル、能力が身についているのかを知らないのだ。
でも、これから水晶鏡が浸透していけば自分にはどんな能力があって、どうやっていけば成長出来るのか、何を伸ばしていけるのか、などのやり方が分かれば、きっとその者にとってとても良い結果になる。
これをきっかけにどうすればそのスキルや能力を手に出来るのかなどの実験をする者も現れるだろうし、なりたかった職業を再び目指す者も現れるかもしれない。
「女神さま…」
「はい、なんでしょうか?」
「私はお役に立てているのでしょうか…?」
「勿論です」
下を向いて話す。自信がないのはいつもの事だけど、リブリーからこう言う質問をしてきたのは初めてだった。
肯定する事がきっと彼女に自信を与える事が出来るとリーンは即答するが、顔を上げることはない。少し様子が変な気がして向かい合うように配置されていた椅子をリブリーの横に付ける。
「何かあったのですか?」
「…皆んな、私のせいで不安に思っているようです。私が…」
「それは私が油断したのが悪いのです。リブリーは何も悪くありません」
「しかし…」
「リブリーにはとても助けられています。それはこれからも変わらないでしょう」
遠い目をするリーンにリブリーは途端に何も言えなくなった。リーンのその強い悲しみが篭った瞳に本来なら何か気の利いた言葉をかけるべきなのに、思わず見惚れてしまったのだ。
ーーーーーー
「先週からかなり伸び悩んでおりますね」
「一般市民や定職についているものなどには需要が高いですが、それ以外の者達には負担に思う方も少なくありません」
ディアブロとの全面対決が始まって一ヶ月が過ぎた。
船の再建設はまだ終わっていないし、デロス島の浄化作戦も半分ほど進んだ程度だし、水晶鏡の普及も思ったよりは進んでいない。
一番進んでいる聖王国でさえ半数ほどの普及で止まってしまっているのが現状だ。
と言うのも貧富限らず、どこの国にも人頭税というものがあり、特に貧しい地域では町を上げてサバ読んでいる家は少なくない。いくら水晶鏡をタダで配ると言ってもサバを読んでいた者たちはこれを機に子供の人頭税が取られるのではと名乗りを上げない。
まぁ、それでもまだマシな方で既に奴隷として売り払われている子や事故や病気、戦争などで親を亡くして孤児院に入っている子達は国民としての登録すらままなっていない。
そして当然ながらスラムなどの税を納めないもの達の無法地帯に住んでいる者たちも今回の件の頭数には入っているため、中々普及率が上がらないのだ。
まぁ、これは国策として進めていることだから国民が警戒するのも致し方がないとは思う。
ただ、リーン個人としては予想以上に普及率が下回った為に若干の焦りを感じてあるのは否めなかった。
だからと言って普及率を上げる為にできる事があるかと言えばそうではない。現段階では普及しやすいように役所や教会、ギルドの関係各所に協力を呼びかけて個人を示す身分証として発行するようになっていて、当然と言えば当然なのだが、各所ギルドや検問所などからはかなり喜ばれているので良い協力関係を築けている
だから悪いことばかりではない。
リーンの予想通り、スキルや技能についての研究も進められることになり、特に国の中枢機関や魔術機関、学園関係には研究専門の機関や授業が設けられるようになったりした。
「お陰で水晶鏡の作成作業が追いつかないことはなかったですが…」
「レスターはどう思いますか?」
「如何とは?」
「妨害があるように感じますか?」
「いえ。予想よりは少ないですが、想定の範囲内だと思います」
此方に向こうの動きがわからない以上、此方も下手な動きをするべきではないが、その条件は向こうも全く同じ。これまで此方は防御にばかり転じていたが、この水晶鏡の普及については相当参っている事だろう。
「水晶鏡の存在は知られていたでしょうが、普及までに漕ぎ着けられるのはまだ先だと思っていたはずです。計画通り次の作戦へ移行出来ると思います」
「イアンは如何ですか?」
「確かに状況的にはもう少し普及してくれた方が次の作戦のためにも良いと思うけど、こっちにはフレディもいる。エマとアイリスの件も片付いたし、いいんじゃないか?」
これからの計画は少々大掛かりになる。
ディアブロは再三言うようにこの世界を発展させないように手を尽くしている。
ディアブロは世界を動かしそうな者達を排除、監禁したり、疫病や自然災害を利用して人口を減らしたり、後世に残るような技術を揉み消したり。
そしてリーンはそれを真っ向から否定し続けている状況だ。
水晶鏡もドワーフ達の技術、知識、道具の流出もこの世界の発展のためにはとても大切なことだ。
だから、リーンはそれらを世に出して少しでも早くこの世界を発展させる為にここまでやってきた。
「分かりました。…リヒト、宜しく頼みますね」
「大丈夫だよ」
「レスター、リブリーに連絡を」
「かしこまりました」
「イアンはフレディに付いていて」
「了解」
リーンは目の間にある重厚感のある装丁の本にそっと触れる。次なる計画を進める為に本を閉じた。
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