乙女は野獣にたべられたい。

桜月みやこ

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本編

15. あなたと迎える朝

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カタン、という小さな音に誘われるように、リィナの意識がふわりと浮上する。

まだ微睡んでいたくて、目を閉じて音だけを拾っていたリィナは、きしりと誰かが自分が寝ているベッドに腰かけたのを感じた。

「───…?」

誰?と問おうとして、けれど掠れて上手く音にならない。

「起きたか?」

僅かな身じろぎに気付いたのか、低い声でそう問われて、頭を撫でられる。
その声と少し乱暴なその手つきに、リィナはゆるりと目を開けて──そしてほわりと微笑んだ。

「……フェリクスさま」
「おう」

腕を伸ばそうとしたけれど、身体は重いし下半身はずくりと鈍い痛みを訴えるしで、上手く身体を動かせずにいるリィナに、フェリクスが悪い、と何だかとてもバツが悪そうな表情をしながら背中に腕を回して抱き起してくれる。

「身体、大丈夫か?」
「──はい、だるいですけど……幸せです」

ふにゃっと微笑んだリィナにフェリクスが天を仰いで、そして首を振る。

「一応、拭いておいたが……風呂、いくか」


結局、昨日は1回のおかわりでは足りず、更に2回、おかわりされてしまった。
そしてその時に背中や胸にもフェリクスの熱を放たれたはずなのに、感触的にどうやらそんな痕跡は残っていないようだと気付く。恐らくフェリクスが拭き取ってくれたのだろう。

けれど汗やら何やらでも全身ぐちゃぐちゃになってしまっていたので、リィナは大きく頷いた。

リィナが頷いたのを見て、フェリクスはリィナを抱き上げると部屋の奥の浴室へと向かう。
その時フェリクスが鳴らした、サイドテーブルに置かれていたベルの音にリィナは引っかかりを覚えたけれど、それよりも自分を抱き上げているフェリクスの方に気が行く。

「フェリクス様は……お元気そうですね」
「まぁ、体力だけが取り柄だからな」
「でも何だか……ズルい、です」
「と、言われてもな……鍛え方が違うんだから、当たり前だろう」
「……私、もっと鍛えます」
「やめてくれ」

ずぱっと斬られて、リィナがぷくりと頬を膨らませる。

「リィナは今くらいで丁度良い。これ以上筋肉つけて、俺の楽しみを奪うつもりか?」

リィナの背中を支えている手をずらして、フェリクスは柔らかな胸に触れる。

「っ……で、でも、体力つけないと、フェリクス様が満足出来ないのではないですか?私、その……最後を、覚えてなくて……」

恥ずかしそうに顔を伏せたリィナを、フェリクスは到着した浴室の湯船にそっと降ろす。
そして纏っていたガウンを脱ぐと、リィナを後ろから抱き締める様にして自身も湯船に浸かる。

「あー……まぁ、昨日は俺もがっつき過ぎた……」

すまんと、フェリクスはこつんとリィナの後頭部に額を合わせる。

リィナが初めてだったから、フェリクス的に随分手加減はしたが、それでも4回はヤリすぎたと反省はしていたのだ。
店の女達だって手加減なしで求めれば3、4回もすれば音を上げるのだから、4回目の途中で意識を失ったとはいえ初めてでこれだけ応えられた上に、今日は1日起き上がれないだろうと思っていたのに、ダルそうではあるが午後には復活してしまいそうなリィナの様子に、フェリクスはリィナの頭をぽんぽんと撫でる。

「ちっこいのに、どこにそんな体力があるんだかな──」

ぼそりと呟かれて、リィナは自分の腹に回されているフェリクスの腕をきゅっと抓る。

「ちっこいは余計ですっ。まだ伸びるかもしれません!」
「いや、もう伸びねーだろ……」
「せ……せめてフェリクス様の肩くらいまでは……」
「無理だろ」

フェリクスにバッサリと切り捨てられて、しゅんと肩を落としたリィナはフェリクスの胸に背中を預ける。
特に身を縮めているわけでもないのにすっぽりとフェリクスの腕の中に収まってしまう自分の小柄さ具合に、リィナは溜息を落とした。

「せめてあと5センチくらい大きくなりたいです……」
「何でそんなに大きくなりたいんだ?」

小柄なのはそれだけで可愛らしさが増すから女としてはお得そうだが…とフェリクスは首を傾げる。

「だって……あんまり身長差があると……しにくい、ですよね…?」

リィナがもじもじと、フェリクスの腕の毛をいじりながら言った言葉の意味を、フェリクスは捉え損ねる。

「何をだ?」
「その………外とかで、立ったまま、する時に……」

「───あ?」

「で、ですから……立ったまま……」
「──いや、良い、分かった」

フェリクスがはーっと大きく息を吐いてから、リィナの肩に顎を置く。

「まぁ……無理だろうな」
「やっぱり無理ですか……」

ぼそりと呟くように言ったフェリクスに、リィナの肩が残念そうに落ちる。

「マジでどんな本なんだよ。今度ちょっと見せろ」

仕事の書類は仕方なしに読むが、実のところ字を読むのはあまり好きではないフェリクスだが、何となく今後の為にも件の小説を確認しておかなければいけない気がしてそう言うと、リィナがはいっと嬉しそうな声を出す。

「最新刊は持ってきているので、何でしたらすぐにでも」
「………あれか」

昨日この客室にフェリクスが訪れた際にリィナが手にしていた本が、きっとそうなのだろう。

「──っと、そうだ。あんまりのんびりもしてらんねーな」
「お仕事ですか?」
「それもあるが」

フェリクスは先に湯から上がってバスローブを羽織ると、リィナを湯船から抱き上げる。
そしてタオルでリィナの身体の水気を拭き取ってそのまま包みこむと浴室を出た。

と、室内に自分達以外の人の気配を感じて、リィナは思わずフェリクスの胸に顔を埋める様に身体を寄せる。

「おはようございます、お嬢様」

「──え?」

「それともおめでとうございます、でしょうか」

「───アンネ?」

恐る恐るといった風に顔を上げて、そしてパチパチと目を瞬かせたリィナに、室内に現れた人物はゆっくりと頭を下げた。

「え、どうして?いつ?」
「早朝に押しかけて来た」
「そ、早朝──ですか? アンネ、あなた──」

「本当は昨日すぐに後を追いたかったのですが──。お嬢様が何も持たずに飛び出して行かれたもので、準備を整えていましたら夕方になってしまいまして。なので仕方なく、日付が変わってからあちらを出発いたしました」

夜中に来なかっただけ良いでしょう、とでも言いた気なアンネに、リィナは息を落とす。
アンネはリィナが子供の頃からずっとリィナに付いてくれている侍女だ。
勢いあまって単身王都の屋敷を飛び出て来てしまったリィナを追いかけて来てくれたのだろう。

「では、あのベルはやはり」

サイドテーブルに視線をやったリィナに、フェリクスがあぁと頷く。

「リィナが使ってる物なんだろう?風呂行く前に鳴らせって言われたからな」

フェリクスはリィナをベッドに降ろすと、ベルを持ち上げる。

チリン、と、リィナの耳に馴染んだ音が鳴った。


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