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本編

エピローグ

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「おかあさま。おとうさまどうしたの?」
「今日のお昼に、お父様とお母様で町に出ていたでしょう?その時にね、観光に来ていた若い女の子に見つかってしまったんです」
「──おい、リィナ」
「そうしたら、その子にね。"あんなロマンチックな話がいっぱいあるのに、領主デカくてこわい!"と言われてしまったんですよ」

クスクスと笑うリィナに、3歳の息子がこてんと首を傾げる。
その仕草は、母親のそれとそっくりだ。

「じゃあおとうさまは、すねてるの?」
「拗ねてねぇ」

息子の言葉にぼそりと返してそっぽを向いたフェリクスは、まだクスクスと笑っているリィナの頭を軽く小突く。

「ふふ、すみません──ねぇアディール。明日はお父様のお仕事がお休みなので、皆でお昼を持ってお出かけしようと思うのだけれど……どう?」

息子の髪を優しく撫でながらそう言ったリィナに、アディールがぱっと顔を上げる。

「する!ピクニック!」
「ではお寝坊しないように、今日は早目にお休みしましょうね」
「うん!」

もうねる!すぐねる!とぴょんとリィナの膝の上から飛び降りたアディールを追いかけてリィナが子供部屋へ向かうと、ちょうどアンネがその奥の部屋から出て来たところだった。

「良い子に寝てる?」
「はい、暫くは大丈夫そうですよ」

良かったと笑ったリィナに、アンネがちらりと子供部屋に視線を向ける。

「アディール様も一緒に見ておきますから、今夜はごゆっくりどうぞ」
「良いの……?」
「勿論です──私は今日はお昼に休ませて頂きましたから」
「じゃあ……お願いしても、良いかしら」

恥ずかしそうに、嬉しそうに微笑んだリィナに、アンネも小さく笑みを返す。

事情を全て知っているアンネは、今日はリィナの7カ月になる次男と、アンネの5カ月になる娘を同じ部屋で寝かしつけてきたばかりだ。
そしてついさっき、2人は奇跡的に同じ頃に寝付いた。
隣の部屋でアディールを寝かしつけている間に2人が起きる事もないだろうと、アンネはリィナの背中をそっと押す。

「さ、奥様は久しぶりに面と向かってこわいと言われてしょぼくれてる旦那様のところへ行ってさしあげてください」
「あら、もう知っているの?」
「ハンスが触れ回っていましたよ」

今日の供についてくれていたおしゃべりな男の名前に苦笑して、屋敷の皆に知られているって知ったら、フェリクス様はまた拗ねてしまわれるわねと笑い合って、リィナはアンネにもう一度お願いねと言いおくと、フェリクスの部屋へと向かった。


「早いな」

不思議そうな顔をしたフェリクスに、リィナが小さく微笑む。

「フェリクス様。私、月のものが戻って来たんです」
「────そう、か」 

1人目の出産後、リィナは床上げ出来るようになるまで少し時間がかかってしまった。
それがフェリクスの心配性に油を注いでしまったのだろう。
体調が戻って少しした頃に強請ったら、とってもとっても怒られた。
月のものが戻らねぇって事は、身体がまだ本調子じゃねぇって事だと。
月のものが戻るまではダメだと言われて、実際戻って来るまで抱き締めたり口付けたりはしてくれても、抱いては貰えなかった。

だからリィナは2人目の出産後はちゃんと月のものが戻るまで待って、そして昨日、終わった。

「今夜は、アンネが子供達の面倒を見てくれるそうです」
「相変わらずアンネはお前に甘いな」

腕を伸ばして来たリィナに、全部お見通しなアンネに、フェリクスは苦笑を零しながらリィナの手を取ると、ゆるく引き寄せてぽすんと腕の中に収まった小さな身体を抱き締める。

「辛いところはねぇな?」
「もうすっかり元気ですよ」

今日だって一緒にお出かけしたじゃないですか、と胸に頬を擦りつけているリィナの頬を包んで上向かせて、口付ける。

「フェリクス様、私次は女の子が欲しいです」

今現在、フェリクスとリィナの子供は2人とも男の子だ。
勿論2人ともとっても可愛いけれど、やっぱり女の子も欲しい、とリィナは最近強く思う様になっていた。
だってアンネの娘が──両親の造作の良さもあるのだろうけれど、本当に天使みたいに可愛いのだ。

フェリクスは部屋の灯りを落として、女の子女の子と唱えているリィナを抱き上げてベッドへ向かうと、ゆっくりとリィナを横たえる。

「ま、保証なんざできねーがな」

そう言って覆いかぶさると、リィナが分かっています、と笑って腕を伸ばして来る。


安定期に入ったら、ちょっとくらいしても大丈夫だそうですよ──だなんて言われて、
1人目の時は青くなって「んなこと出来るか!」と突っぱねたけれど、2人目の時は何度か身体を重ねてみた。
だから実際のところは、1人目の時と比べると空いているわけではない。

それでもやはり気を遣わずにリィナの身体を堪能出来たのは随分と久しぶりなこの日、フェリクスはついつい無理をさせてしまって、くったりとベッドに沈み込んでいるリィナをすまんと抱き寄せる羽目になった。
あまりにも情けない声が出たせいか腕の中でリィナが笑ったのが分かって、フェリクスがもう一度すまんとリィナの頭を撫でると、腕の中でもぞもぞと身じろいでからリィナが顔を上げて、そしてフェリクスの頬を包み込むとふにゃりと笑う。

「フェリクス様、幸せですか?」

1人目が産まれた頃から、リィナは時々この質問を口にするようになった。
普段はフェリクスが望んだ通りにふわふわと微笑んでいるリィナは、その質問をする時だけ、少しだけ哀しそうな瞳をする。

 ──まだ、赦せませんか?
 ──まだ、憂いは晴れませんか?

声にならないリィナの想いに、フェリクスもこの時ばかりは少しだけ申し訳なさそうに笑って、そして今回も同じ答えを口にする。

「──そうだな」

リィナは頑固ですねと苦笑を零すと、フェリクスの首に腕を回す。

「フェリクス様、好きです。大好きです──愛しています」
「あぁ、俺もだ」
「ずるいです。ちゃんと言って下さい」

ぷっと膨らんだリィナの頬をつっついて、フェリクスが笑う。

「──リィナ、愛してる」

くしゃりと前髪を掻き上げられて、頬を包まれて、
そうしてゆっくりと落ちて来た口付けを、リィナは瞳を閉じて受け止めた。


─ Fin. ─





*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
《あとがきっぽいもの》

お読みいただきましてありがとうございました!
これにて完結、とさせて頂きます(m*_ _)m

当初はお嬢様が貴族界で評判の良くないおっさん伯爵の家に「妻にしてください」と押しかけて来て、
パクリ・あん♡のあとにちょっとわちゃっとしてゴールイン!な30話程度で終わるコメディっぽい話のつもりでした。
今から読み返すと、だから最初の方はかなりぶっ飛ばして書いているのが丸わかりですが……

途中でちょっと欲が出て過去話をぶっ込んでしまった為に、こんな事に……


めげずにお付き合い頂いた皆様、本当に本当にありがとうございました。
最後をどの時点にしようかとってもとっても迷ったのですが、この辺りが良い頃合いかな、と……。



この後に人物紹介 兼 本編後の各キャラがどうなるかを書いたものを上げさせて頂いております。
特に考えてない人たちは紹介だけになりますが(^_^;
アンネの旦那さんは、まぁバレバレな気もしますが…
そこで答え合わせをしてみて下さいませ(笑)


宜しければ感想とまで行かずともTwitterでの読了報告、拍手ぽち等して頂けると喜びます。活力になります(´ω`*)
身バレはやだわ、という方はマシュマロから匿名メッセージを飛ばして頂いても構いませんです。
(作者ページにリンク貼ってあります。「Webサイト」がマシュマロ飛ばすリンク、「SNS」がTwitterアカウントです)


それでは最後になりますが──
またお目に触れる機会がございましたら嬉しく思います。

改めまして、お読みいただきまして本当に本当にありがとうございました!


2019.11.28 桜月みやこ 拝
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