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番外編
お花の日SS
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8/7はバナナの日だけじゃなくてお花の日でもあるんです。
という事で、こちらもバナナの日と一緒にTwitterに上げたやつです。
打って変わっていたしてませんw
我ながら落差がすごいな……と、思うなど……
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
「フェリクス様! 覗いて行きませんか」
レオンだけを伴って少し離れた農村地に視察を兼ねて出かけていたフェリクスが町の大通りを抜けていた時、通り沿いの店からそんな声がかかった。
見ればラザロが「おやっさん」と呼んで頼りにしている花屋の主人だ。
「何だ、珍しいモンでも入ったのか?」
食料品や衣料品の店主から声を掛けられることはあれど、この主人から声を掛けられるのは初めてだ。
フェリクスは首を傾げながら馬の背から降りると、主人はイヤイヤと笑う。
「今日はほら、奥方様の誕生日でしょう?」
❊❊❊ ✽ ❊❊❊
屋敷へ戻ったフェリクスは、供をしていたレオンからも、庭で遭遇したハンスとラザロからも、出迎えたリシャールとエーリクからも、ニヤニヤとした笑いを向けられた。
「リィナ様ならお部屋ですよ」
ニヤニヤしたままリシャールから言われて、フェリクスは顔を顰めておう、とだけ返すと屋敷の二階へ──リィナの部屋へ向かう。
「リィナ、いるか? ──っと」
ドアを開けて、真っ先に最近リィナが気に入っている窓辺に置かれたロッキングチェアに目を向けたフェリクスは慌てて口を噤んだ。
「お帰りなさいませ、フェリクス様」
声を抑えているアンネに手を挙げて応えて、そっとロッキングチェアに近づく。
もう随分と大きくなったお腹に手を添えて、リィナがすやすやと気持ち良さそうに眠っていた。
リィナの頬をそぉっと撫でてから、フェリクスは手にしていた花束をこれ幸いとアンネに渡す。
「もう匂いは大丈夫なんだよな? あんまり強いもんは入れてねぇっつってたが、アンネが気になるもんがあれば省いてくれ」
「……奥様が目を覚まされてから、フェリクス様がお渡しした方が宜しいかと」
僅かに首を傾げたアンネに、フェリクスはいや良いと首を振る。
「俺が花束なんざ、似合わねーだろ。どう渡したもんかと思ってたが……アンネの方で適当に飾っておいてくれ」
「ですが、直接お渡しした方が奥様は喜ばれると──」
「フェリクスさま……?」
ふいにかかった小さな声に、フェリクスはロッキングチェアに視線を向ける。
まだ寝惚けているのか、とろんとしていた顔のリィナは目が合った瞬間にふにゃりと微笑んだ。
アンネはその隙にフェリクスの手に花束を強引に戻すと、何かお飲み物でもお持ちしますとさっさと部屋を出ていってしまった。
フェリクスはアンネの背中に向けてくそっと内心で悪態づくと、花束を手にリィナの傍まで足を運ぶ。
リィナはフェリクスの手の中の花束に気付いて、驚いたように目をまぁるくした。
淡いピンクのガーベラをメインに、スイートピーやカスミソウで彩られたリィナ好みのふんわりとした雰囲気でまとめられた可愛らしい花束だ。
それを手にしているフェリクスの姿にぱちぱちと瞬いているリィナに、フェリクスはずいっと花束を差し出す。
「今日は、誕生日だろう」
眉間にシワを寄せて、令嬢方は卒倒して、子供は号泣してしまいそうなくらいに不機嫌そうで恐い顔になっているフェリクスに、リィナは花束を受け取って、ふふっと笑う。
だってリィナはその表情が機嫌が悪いわけでも怒っているわけでも無いことを知っている──ただひたすらに、照れているのだ。
「ありがとうございます、すごく可愛いです」
どんな顔をしてこんなに可愛らしい花束を頼んでくれたのかしらと想像したリィナは、またくすくす笑うと、テーブルに花束を置いてフェリクスに向かって腕を伸ばす。
フェリクスがゆっくりとリィナを抱き上げると、リィナはすぐにフェリクスの首に腕を回した。
「とっても嬉しいです。誕生日を知って下さっていた事も、素敵なプレゼントを頂けた事も」
「いや、これは………花屋の主人が、勝手に選んでだな………」
誕生日は分かっていたが、ともごもごと言っているフェリクスに、リィナはなるほどと頷いた。
花屋の主人はラザロが庭の相談をしていると言うし、アンネたちが部屋に飾る花を頼んだりもしているから、リィナの好みはばっちりと把握されている。
こんなにふんわり可愛らしい花束をフェリクスに持たせた花屋の主人にも感謝しかないけれど──
リィナはフェリクスに抱きついている腕に力を込める。
「持って帰ってきて下さって、ありがとうございます」
こんなもん持って帰れるか、と捨てられてしまってもおかしくないくらいフェリクスが持つと異彩を放ってしまうその花束を、花屋から屋敷まで──かなりの人に目撃される大通りを通って持って帰ってきたのかと思うと、嬉しくてくすぐったくて、リィナはぎゅうぎゅうとフェリクスに抱きつく。
「分かったから──あんまり腹を圧迫するな」
リィナを引き剥がそうとするフェリクスに、リィナは嫌ですと更に腕に力を込めてフェリクスに口付ける。
「本当に本当に、ありがとうございます」
嬉しそうに笑っているリィナに、フェリクスはふっと苦笑を零すとリィナの頬を撫でる。
「気の利いたもんやれなくて、わりぃな」
「そんな事ありません、充分ですわ──それに今年はもう、素敵な贈り物を頂いてますもの」
「?」
首を傾げたフェリクスに、リィナは自分のお腹に手を当てる。
「この子、です。フェリクス様からしか頂けない、宝物です」
ね、と微笑んだリィナに、フェリクスは居心地悪そうに口をむぐむぐさせると、あ゛ーーーっと唸ってリィナの頭を抱え込んでしまった。
「フェリクス様………?」
「………少し黙ってろ」
これはきっと照れとか嬉しさとか色々なものが混ぜ混ぜになっていて、そのお顔を見られたくないのねと、リィナはフェリクスにバレないように小さく小さく笑って、そしてフェリクスの肩にぐりぐりと額を押し付ける。
「───あ!」
「……どうした?」
突然驚いたような声を上げたリィナに、リィナの頭を押さえるようにしていたフェリクスの手が緩む。
「フェリクス様フェリクス様! 今ぽこんって……!」
「何?」
「ここ……この辺です……っ」
自分のお腹を一生懸命さすっているリィナにつられて、フェリクスはリィナのお腹に手を当ててみた。
けれど、何も感じない。
暫く二人でじぃっとしてみたけれど、ぽこんどころかぐにぐにする事もなかった。
リィナが慌てたようにトントンとお腹を叩く。
その上「赤ちゃんさん赤ちゃんさん、フェリクス様ですよ、お父様ですよ~~」などと必死で自分のお腹に向かって呼びかけているものだから、フェリクスは苦笑を零す。
「まぁ、そのうちまた動くだろ」
「それは、そうでしょうけど……」
フェリクスは唇を尖らせているリィナの頬を緩くつねって、そのままむにむにと揉む。
「焦んなくて良い。俺はそうやって嬉しそうにしてるリィナを見てるだけで充分だ」
「フェリクス様………」
何だかしょげてしまったリィナの頬に口付けて、フェリクスはリィナの頬を撫でる。
「今日は誕生日だろ? そんな顔してねーで、笑ってろ」
「……はい……そうですね、可愛いお花も頂きましたし」
テーブルの上の花束に目をやったリィナが気を取り直したように微笑む。
「改めまして、可愛いお花をありがとうございます、フェリクス様」
ちゅっと頬に唇を寄せられて、フェリクスはそのままリィナの頭を引き寄せて──
「おめでとう、リィナ」
唇が触れ合う直前にそう囁かれてすぐに塞がれてしまったから、リィナは返事の代わりにフェリクスの首に腕を回してぎゅうっと抱き着いた。
~おしまい~
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
私だって!書けるんですよ!!いたしてないお話!!!(大声)
『以前書いたのを上げて書いた気になろうキャンペーン』これにて終了です!
突然の過去作更新にお付き合い頂きまして、ありがとうございました(。ᵕᴗᵕ。)
という事で、こちらもバナナの日と一緒にTwitterに上げたやつです。
打って変わっていたしてませんw
我ながら落差がすごいな……と、思うなど……
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
「フェリクス様! 覗いて行きませんか」
レオンだけを伴って少し離れた農村地に視察を兼ねて出かけていたフェリクスが町の大通りを抜けていた時、通り沿いの店からそんな声がかかった。
見ればラザロが「おやっさん」と呼んで頼りにしている花屋の主人だ。
「何だ、珍しいモンでも入ったのか?」
食料品や衣料品の店主から声を掛けられることはあれど、この主人から声を掛けられるのは初めてだ。
フェリクスは首を傾げながら馬の背から降りると、主人はイヤイヤと笑う。
「今日はほら、奥方様の誕生日でしょう?」
❊❊❊ ✽ ❊❊❊
屋敷へ戻ったフェリクスは、供をしていたレオンからも、庭で遭遇したハンスとラザロからも、出迎えたリシャールとエーリクからも、ニヤニヤとした笑いを向けられた。
「リィナ様ならお部屋ですよ」
ニヤニヤしたままリシャールから言われて、フェリクスは顔を顰めておう、とだけ返すと屋敷の二階へ──リィナの部屋へ向かう。
「リィナ、いるか? ──っと」
ドアを開けて、真っ先に最近リィナが気に入っている窓辺に置かれたロッキングチェアに目を向けたフェリクスは慌てて口を噤んだ。
「お帰りなさいませ、フェリクス様」
声を抑えているアンネに手を挙げて応えて、そっとロッキングチェアに近づく。
もう随分と大きくなったお腹に手を添えて、リィナがすやすやと気持ち良さそうに眠っていた。
リィナの頬をそぉっと撫でてから、フェリクスは手にしていた花束をこれ幸いとアンネに渡す。
「もう匂いは大丈夫なんだよな? あんまり強いもんは入れてねぇっつってたが、アンネが気になるもんがあれば省いてくれ」
「……奥様が目を覚まされてから、フェリクス様がお渡しした方が宜しいかと」
僅かに首を傾げたアンネに、フェリクスはいや良いと首を振る。
「俺が花束なんざ、似合わねーだろ。どう渡したもんかと思ってたが……アンネの方で適当に飾っておいてくれ」
「ですが、直接お渡しした方が奥様は喜ばれると──」
「フェリクスさま……?」
ふいにかかった小さな声に、フェリクスはロッキングチェアに視線を向ける。
まだ寝惚けているのか、とろんとしていた顔のリィナは目が合った瞬間にふにゃりと微笑んだ。
アンネはその隙にフェリクスの手に花束を強引に戻すと、何かお飲み物でもお持ちしますとさっさと部屋を出ていってしまった。
フェリクスはアンネの背中に向けてくそっと内心で悪態づくと、花束を手にリィナの傍まで足を運ぶ。
リィナはフェリクスの手の中の花束に気付いて、驚いたように目をまぁるくした。
淡いピンクのガーベラをメインに、スイートピーやカスミソウで彩られたリィナ好みのふんわりとした雰囲気でまとめられた可愛らしい花束だ。
それを手にしているフェリクスの姿にぱちぱちと瞬いているリィナに、フェリクスはずいっと花束を差し出す。
「今日は、誕生日だろう」
眉間にシワを寄せて、令嬢方は卒倒して、子供は号泣してしまいそうなくらいに不機嫌そうで恐い顔になっているフェリクスに、リィナは花束を受け取って、ふふっと笑う。
だってリィナはその表情が機嫌が悪いわけでも怒っているわけでも無いことを知っている──ただひたすらに、照れているのだ。
「ありがとうございます、すごく可愛いです」
どんな顔をしてこんなに可愛らしい花束を頼んでくれたのかしらと想像したリィナは、またくすくす笑うと、テーブルに花束を置いてフェリクスに向かって腕を伸ばす。
フェリクスがゆっくりとリィナを抱き上げると、リィナはすぐにフェリクスの首に腕を回した。
「とっても嬉しいです。誕生日を知って下さっていた事も、素敵なプレゼントを頂けた事も」
「いや、これは………花屋の主人が、勝手に選んでだな………」
誕生日は分かっていたが、ともごもごと言っているフェリクスに、リィナはなるほどと頷いた。
花屋の主人はラザロが庭の相談をしていると言うし、アンネたちが部屋に飾る花を頼んだりもしているから、リィナの好みはばっちりと把握されている。
こんなにふんわり可愛らしい花束をフェリクスに持たせた花屋の主人にも感謝しかないけれど──
リィナはフェリクスに抱きついている腕に力を込める。
「持って帰ってきて下さって、ありがとうございます」
こんなもん持って帰れるか、と捨てられてしまってもおかしくないくらいフェリクスが持つと異彩を放ってしまうその花束を、花屋から屋敷まで──かなりの人に目撃される大通りを通って持って帰ってきたのかと思うと、嬉しくてくすぐったくて、リィナはぎゅうぎゅうとフェリクスに抱きつく。
「分かったから──あんまり腹を圧迫するな」
リィナを引き剥がそうとするフェリクスに、リィナは嫌ですと更に腕に力を込めてフェリクスに口付ける。
「本当に本当に、ありがとうございます」
嬉しそうに笑っているリィナに、フェリクスはふっと苦笑を零すとリィナの頬を撫でる。
「気の利いたもんやれなくて、わりぃな」
「そんな事ありません、充分ですわ──それに今年はもう、素敵な贈り物を頂いてますもの」
「?」
首を傾げたフェリクスに、リィナは自分のお腹に手を当てる。
「この子、です。フェリクス様からしか頂けない、宝物です」
ね、と微笑んだリィナに、フェリクスは居心地悪そうに口をむぐむぐさせると、あ゛ーーーっと唸ってリィナの頭を抱え込んでしまった。
「フェリクス様………?」
「………少し黙ってろ」
これはきっと照れとか嬉しさとか色々なものが混ぜ混ぜになっていて、そのお顔を見られたくないのねと、リィナはフェリクスにバレないように小さく小さく笑って、そしてフェリクスの肩にぐりぐりと額を押し付ける。
「───あ!」
「……どうした?」
突然驚いたような声を上げたリィナに、リィナの頭を押さえるようにしていたフェリクスの手が緩む。
「フェリクス様フェリクス様! 今ぽこんって……!」
「何?」
「ここ……この辺です……っ」
自分のお腹を一生懸命さすっているリィナにつられて、フェリクスはリィナのお腹に手を当ててみた。
けれど、何も感じない。
暫く二人でじぃっとしてみたけれど、ぽこんどころかぐにぐにする事もなかった。
リィナが慌てたようにトントンとお腹を叩く。
その上「赤ちゃんさん赤ちゃんさん、フェリクス様ですよ、お父様ですよ~~」などと必死で自分のお腹に向かって呼びかけているものだから、フェリクスは苦笑を零す。
「まぁ、そのうちまた動くだろ」
「それは、そうでしょうけど……」
フェリクスは唇を尖らせているリィナの頬を緩くつねって、そのままむにむにと揉む。
「焦んなくて良い。俺はそうやって嬉しそうにしてるリィナを見てるだけで充分だ」
「フェリクス様………」
何だかしょげてしまったリィナの頬に口付けて、フェリクスはリィナの頬を撫でる。
「今日は誕生日だろ? そんな顔してねーで、笑ってろ」
「……はい……そうですね、可愛いお花も頂きましたし」
テーブルの上の花束に目をやったリィナが気を取り直したように微笑む。
「改めまして、可愛いお花をありがとうございます、フェリクス様」
ちゅっと頬に唇を寄せられて、フェリクスはそのままリィナの頭を引き寄せて──
「おめでとう、リィナ」
唇が触れ合う直前にそう囁かれてすぐに塞がれてしまったから、リィナは返事の代わりにフェリクスの首に腕を回してぎゅうっと抱き着いた。
~おしまい~
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
私だって!書けるんですよ!!いたしてないお話!!!(大声)
『以前書いたのを上げて書いた気になろうキャンペーン』これにて終了です!
突然の過去作更新にお付き合い頂きまして、ありがとうございました(。ᵕᴗᵕ。)
応援ありがとうございます!
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