ブラウンは魔法研究員に仕返ししたい

桜月みやこ

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04.

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「はぁ……すごく良かったです、ブラウン様……♡ でも今日はあんまり可愛いお声が聞けませんでしたね」

 ブラウンと自分の身体や服、それにベッドの汚れを魔法であっさりと清めながら、マーシャがぶつぶつと呟いている。
 簡易ベッドに、主に精神的な疲れでぐったりと沈んでいたブラウンはのっそりと起き上がる。

「あれは何だ……」

 自分の股に貼り付けたままのバルディーアをいい子いい子とばかりに撫でながら「次は硬化の魔法をかけてみましょうか」などと言っていたマーシャは、その低い声に顔を上げる。

「あれ?」

 こてんと首を傾げたマーシャに、ブラウンはぎろりと視線を向けた。

「出しただろう! 何か! 液体を!!」
「あぁ」

 ぽん、と手を叩いたマーシャは大丈夫ですよ、と満面の笑みを浮かべる。

「あれはバルディーアの生成する粘液を噴射させただけです。ほら、私さすがに吐精は出来ませんから、それっぽくて良いかなぁって」

 頑張って練習したのよね、とマーシャの細い指がバルディーアをつんと突くと、バルディーアがまるで答えるようにうねうねと動く。
 マーシャの余計な気遣い(?)と、女人の股間でうごめく植物型魔物というシュールな絵面に、ブラウンは思い切り顔を顰めた。 
 
「……本当に、生殖機能は……」
「ありません。大丈夫です」

 きっぱりと言い切ったマーシャに、ブラウンはとりあえずほっと息を落とす。
 臀を掘られている時点で相当のダメージだというのに、うっかり種子を植え付けられたりしたらたまったものではない。
 そんな事になってはブラウンの精神はきっと女神・シャーティーの御許へ旅立ってしまう。

 はー、と大きく息を落としたブラウンは、バルディーアに向かってお疲れ様でした、なんて微笑んでいるマーシャを横目で見ながら自身の上着のポケットに手をやった。
 そうして出番を待っていた借り物をそっと取り出す。

「今回も随分と愉しんだようで、何よりだ」

 低いブラウンの声に、マーシャが顔を上げる。

「あっ……え?」

 突然ブラウンに腕を引かれたと思ったら、マーシャの左手首に何かがカチリとはめられた。

「――――っ!?」

 途端に自身の中の魔力が乱された感覚がして、マーシャは息を飲む。
 魔力を通して股に付けていたバルディーアが、ぼとりとベッドの上に落ちた。

「ブ、ラウンさ、ま……?」
「魔法が使えない、か?」

 確かめるように言われて、マーシャはこくこくと頷く。

「な、なんですか、これ……取って……」

 取って下さい、と言おうとしたけれど、ぐるりと視界が回ったせいでその言葉は途切れてしまった。

 ブラウンが笑っている。
 マーシャの華奢な手首を簡易ベッドに押さえつけながら、
 威圧するような、でもどこか楽しそうな、そんな顔で。

「あの後、お前の事を聞きに行った」
 
 ブラウンには魔力がほとんどない。ゼロというわけではないが、せいぜい小さな火を灯すとか、少し物を浮かせるとか、そんな程度だ。
 だが幼少期から騎士になるべく、騎士になってからはより一層、鍛錬に鍛錬を重ねてきた身。
 魔法など使えずとも、そこらの魔法士の拘束魔法から逃れるくらいの事は出来る。
 ――普通は力技で魔法に抵抗するなんて出来ないらしいが、ブラウンの筋力をもってすれば出来る。筋肉は全てを打ち破れるのだ。

 ところがあの日、その自慢の筋肉をもってしてもマーシャの拘束からはどうしたって逃れる事が出来なかった。
 屈辱でもあった。これまでの鍛錬は無駄だったのだろうかと落ち込んだりもした。
 だからあの日の翌日、ブラウンはマーシャがどんな魔法士なのかを探りに行った。

 前の晩に行われた騎士団と魔法士団の交流会で、マーシャがブラウンの隣りに座っていた事は魔法士団長のガルーシュも見ていたらしい。
 随分飲ませすぎてしまったようだが大丈夫そうか、と心配するふりをして、出てきているようなら様子をみたいと言えば、ガルーシュは「あれは研究棟にいる」と教えてくれた。
 研究棟と聞いて驚いた顔を見せたブラウンに、ガルーシュは無理もないと苦笑を零す。

 「研究棟」とは、魔法や魔法具を研究・研鑽・開発する部門の事だ。
 魔法士団の中でも特に優秀な者しか入る事の出来ない部門。
 その棟自体、研究員以外は国のお偉方や魔法士団の上層部しか立ち入る事が出来ないらしい。

「あれはなぁ。優秀なんだよ。魔力も、魔力の扱いも、とてつもなく」

 ガルーシュはだがなぁ、と疲れたように息を落とした。

「困った事に、自分の興味のある事しかやらない」
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