王命で冷徹非情と言われる英雄に嫁いだけれど、何だか違うようです

桜月みやこ

文字の大きさ
1 / 7

01.

しおりを挟む
勢いだけで書いたので、細かい事はお気になさらず勢いだけで読んで下さいm(_ _)m
Rはとても控え目なので怒らないで下さい。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*



「ユリアナ、お前に縁談が来た」

 お父様のその一言に、私はついにその時が来たと手を握りしめた。

 私ユリアナ・クラーセンは、公爵家の娘として生を受けた。
 優秀なお兄様がいらっしゃるから家督どうこうは何の問題もなく、となると娘の私の役割は良縁を得る事。
 政治利用どんと来い! と、どんな嫁ぎ先でも受け入れる心構えは出来ていたものの、隣国との関係悪化によって勃発してしまった戦の影響で国中が混乱している間に私ももう二十二。
 行き遅れに片足を突っ込んでいる年齢となってしまった。
 といってもその戦の影響で適齢期を迎えているにも関わらず嫁ぐことの出来ていない令嬢はそこそこ多いので、今なら「まだまだ適齢期」で通用するのだけれど。

「お相手は、どのような方でしょうか?」

 私の婚約者はどなたかしら? どんな方かしら?
 心構えは出来ているとはいえ、やはりお相手はどんな方かしらとドキドキはするもので。

 もしも望みを言っても良いのだとすれば、出来ればあんまり年は離れていない方が良いし、出来ればお肉のたっぷりついた身体よりも細身の方が良いし、出来れば髪もふさふさの方が良い。
 一番の望みを言っても良いのだとすれば、出来れば男女間の恋情はなくとも、互いを思い合える穏やかな情愛を育める相手であれば最高に嬉しいのだけれど……と思いながらお父様に問いかけた私は、お父様から告げられたお名前に三拍ほどの間固まってしまった。

「……申し訳ありません、お父様。もう一度、仰って頂いても……?」
「カイゼル侯爵――先だっての戦において、救国の英雄と呼ばれるようになったエーヴァウト・カイゼルだ」
「エーヴァウト・カイゼル様……」

 呆然とその名を繰り返した私に、お父様は目頭を揉みながら息を落とした。

「私としても、お前が嫌であれば断りたいところではあるのだが……」
「……お断り、出来るのですか……?」

 恐る恐る確認してみると、お父様は小さく唸った。

「これは、王命だ」

 ――詰んだ。

「それは……お断り出来ませんね……」
「……いや、二十二年前のあのネタを持ち出して脅せば……それとも二十六年前のあれの方が……」

 真剣な表情でブツブツとそんな事を呟くお父様に、私は思わずぱちりと瞬く。

「国王陛下を脅せるほどのネタというのは、とても興味がありますが」

 お若い頃は親友として過ごされたという国王陛下とお父様。
 もしも私が本気で嫌がれば、お父様は国王陛下に対してそこまでして下さるおつもりなのだと思えばくすぐったい気持ちになる。

 エーヴァウト・カイゼル様は、先の戦において最前線で指揮を執り、自らも剣を振るい、劣勢と思われていた我が国を勝利へと導いて「救国の英雄」と呼ばれるようになった御方。
 そんな英雄と、公爵家の娘わたくしとの王命による婚姻。
 それは国を救った英雄への褒賞、なのでしょうか。
 公爵家の娘と言えど、行き遅れに片足を突っ込んでいる私が褒賞に成り得るのかは、よく分からないけれど。
 何にしろ私には勿体なさすぎる程の縁談だという事は分かっているし、ただの「救国の英雄」であれば、そんな方に嫁げるなんて名誉な事だと胸を高鳴らせる事が出来たに違いない。

「救国の英雄」の前に「冷徹非情の」なんて冠が付かなければ。

 戦場でのエーヴァウト様は、それはもう恐ろしかったのだそう。
 隣国の兵士たちを一切の情け容赦なく斬り捨てまくり、その様には味方でさえも震え上がったとか。

 侯爵であるがゆえ、また隣国とも長らく緊張状態にあった為にあまり領地からお出にならず、現カイゼル侯爵の人となりはあまり知られていない。
 戦場においてのみ人柄ががらりと変わる、という事もないだろうから、恐らくは日頃からそのような――冷徹で非情な方なのだろう。

 あぁ、憧れの結婚生活よ、さようなら。

 ――いいえ、エーヴァウト様は御年二十八。私とはたったの六歳差。
 凱旋の時に遠目に拝見しただけだけれど、丸くはなかったように思う。剣を振るうのならその身についているのはぷよぷよのお肉ではなく、がっしりとした筋肉に違いない。
 そして遠目に拝見しただけだけれど、頭髪にも何ら問題はなかったように思う。 

 こんなに好条件なのだから、何の文句もない。
 ただ私の一番の望み――互いを思い合える穏やかな情愛を育める相手であれば良いな、という点だけがどうやら絶望的だというだけで。

「救国の英雄様の元へ嫁ぐのが私で良いのかは分かりませんが……」

 私はすっと息を吸うと、スカートを持ち上げてお父様に向けて頭を下げた。

「陛下からのお話、謹んでお受けいたします」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

銀の騎士アルベルト・サーズードと婚約した令嬢は王様の指令で追放される羽目になる。

アリヘアM
恋愛
メイド「お嬢様また新しいドレスをかったのですね。」 ルナ「これはね婚約者のアルベルトに貰ったものなの。だから特別よ」 メイド「まぁなんて素敵なの。さすがお嬢様」 ルナ「オホホホホ全てはアルベルトの為に」 ◆◇◆◇◆◇ 「ルナ・クラウディア!お前を国外追放する!」 エドワード王太子殿下にそう言われてクラウディア公爵家の長女は青ざめた表情を浮かべていた。 ルナ「嫌ですわ、なんで私が国外追放なんかにされなきゃならないのですか」 アルベルト「ルナ、君のワガママには付き合ってられないよ。おかげで目が覚めた。貴方の品格は王室に迎えるにあたってふさわしくないと。よって君との婚約は延期させてもらう」 私はわかってました。 そう遠くない未来、こうなるであろうと言うことはわかってたのです。 私は一人っ子で愛情をふんだんにうけた結果傲慢になったのだと。

男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~

花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。  だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。  エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。  そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。 「やっと、あなたに復讐できる」 歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。  彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。 過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。 ※ムーンライトノベルにも掲載しております。

溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~

紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。 ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。 邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。 「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」 そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

侯爵様の懺悔

宇野 肇
恋愛
 女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。  そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。  侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。  その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。  おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。  ――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。

真面目な王子様と私の話

谷絵 ちぐり
恋愛
 婚約者として王子と顔合わせをした時に自分が小説の世界に転生したと気づいたエレーナ。  小説の中での自分の役どころは、婚約解消されてしまう台詞がたった一言の令嬢だった。  真面目で堅物と評される王子に小説通り婚約解消されることを信じて可もなく不可もなくな関係をエレーナは築こうとするが…。 ※Rシーンはあっさりです。 ※別サイトにも掲載しています。

処理中です...