1 / 1
掌編 人魚姫とヲトメ(堕天使)
しおりを挟む
わたくしは海の底で、日々を淡く夢みておりました。
けれどもある日のこと、きらめく波間に、あのお方のお姿を見つけてしまったのです。
王子様……そして、いつも傍らに寄り添う従者殿。
おふたりの視線がふと絡み合う、そのひととき。
胸の奥が甘く震え、わたくしは海の泡よりも儚く身をよじらせました。
――ああ、これこそ乙女の夢、乙女のときめき。
どうしてわたくしは、この光景を前にして涙がこぼれてしまうのでしょう。
わたくしは決意いたしました。
この胸の高鳴りに殉じるためならば、声を失おうと、痛みに苛まれようと、陸へ上がりましょう。
だって、乙女ですもの。
けれども……。
けれどもですわ。
そのお方が、あろうことか隣国の姫君との婚約をなさると聞いたとき、
わたくしの胸は張り裂けるようでございました。
「野郎、日和りやがった…!」(by人魚姫)
その一言が、ひび割れた唇からこぼれ落ちたとき、わたくしは自らの心の真実を知ったのです。
これは恋などではございません。萌え、でございます。
裏切りに傷つき、わたくしはついに王子様の命を奪わんと刃を手にしました。
けれども――ああ、できません。
この胸を震わせた「萌えの片割れ」を、どうしてわたくしが手にかけられましょう。
わたくしは泡となる運命を選びました。
けれど、その瞬間に叫びました。
「萌えに殉じた我が生涯に、一片の悔いなし!」
誰も知らぬ叫び。
けれど、わたくしの胸は満ち足りておりました。
――そして天上に召されたわたくしは、そこで再び夢を見ました。
あらまあ、なんて素敵な地上の殿方たち(のふれあい)。天使様方の無垢なお心に、ほんのりと花咲くときめきの芽……。
この熱いときめきを説いて(布教)まわった結果――
「まあ、羽が黒く? うふふ、もうヲトメでいらっしゃいますのね♡」
堕天使、と書いて、ヲトメ、と読むのでございます。
めでたしめでたし。
けれどもある日のこと、きらめく波間に、あのお方のお姿を見つけてしまったのです。
王子様……そして、いつも傍らに寄り添う従者殿。
おふたりの視線がふと絡み合う、そのひととき。
胸の奥が甘く震え、わたくしは海の泡よりも儚く身をよじらせました。
――ああ、これこそ乙女の夢、乙女のときめき。
どうしてわたくしは、この光景を前にして涙がこぼれてしまうのでしょう。
わたくしは決意いたしました。
この胸の高鳴りに殉じるためならば、声を失おうと、痛みに苛まれようと、陸へ上がりましょう。
だって、乙女ですもの。
けれども……。
けれどもですわ。
そのお方が、あろうことか隣国の姫君との婚約をなさると聞いたとき、
わたくしの胸は張り裂けるようでございました。
「野郎、日和りやがった…!」(by人魚姫)
その一言が、ひび割れた唇からこぼれ落ちたとき、わたくしは自らの心の真実を知ったのです。
これは恋などではございません。萌え、でございます。
裏切りに傷つき、わたくしはついに王子様の命を奪わんと刃を手にしました。
けれども――ああ、できません。
この胸を震わせた「萌えの片割れ」を、どうしてわたくしが手にかけられましょう。
わたくしは泡となる運命を選びました。
けれど、その瞬間に叫びました。
「萌えに殉じた我が生涯に、一片の悔いなし!」
誰も知らぬ叫び。
けれど、わたくしの胸は満ち足りておりました。
――そして天上に召されたわたくしは、そこで再び夢を見ました。
あらまあ、なんて素敵な地上の殿方たち(のふれあい)。天使様方の無垢なお心に、ほんのりと花咲くときめきの芽……。
この熱いときめきを説いて(布教)まわった結果――
「まあ、羽が黒く? うふふ、もうヲトメでいらっしゃいますのね♡」
堕天使、と書いて、ヲトメ、と読むのでございます。
めでたしめでたし。
8
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる