4 / 24
敵を知り己を知れば、割といやになります。いろいろ。
しおりを挟む
さて。「令嬢いびり作戦」実行部隊隊長レイチェル・ランドです。ほかに隊員はいません。以上(泣)。
まずは本作戦の概要の確認です。まったく気は進みませんが。
作戦の標的は隣国から今年の春、留学生として王立学園に編入してきたアレクサ・モールトン嬢。
自国ではそこそこの貴族の出だという話ですが、我が国での後見人は王家の執事が勤めているという体裁で、それもなんと同じ隣国出身の王妃様のひそかなコネによるというのが確かな筋からの話だとか……
予想外に大物でした。聞かされた時には、白目をむくかと思いましたよ。それ知ってたら、引き受けてません!と。
慌てて侯爵閣下が言い訳がましくなだめてきて、隣国王室の周辺にはそれらしい貴族令嬢はいないので、王妃様の関係者といってもそんなに重要人物のはずがない、末端だろうというのです。
いやいや。王妃様のお声がかりって時点で、自他ともに認める元祖・末端貴族令嬢のわたしに勝ち目はありませんが?
王妃様の名前が出てきても気にならないって、侯爵家ってそんなに偉いんですか!?――あ、偉いんですか。そうですか。
というか、それって王妃様をないがし……あわあわあわ。
やめましょう。貴族社会の深淵を覗き込んではいけないのです。足元が滑って落ちるのが関の山なのです。
それはさておき。アレクサ・モールトン嬢についての情報は、あまり多くはありませんでした。
学園の高等部に編入して、ロバート殿下とグロリア様と同じクラスに在籍していること。
成績は優秀ですが、体が弱いということで運動系の授業は免除され、社交にもあまり積極的ではなく、ひっそりと学園の片隅で過ごしていることが多い――ただし、ロバート殿下のおまけつきで。
アレクサ嬢と殿下のツーショットは編入初日から目撃され、時に二人で、時に殿下の親しいご学友のグループと連れだって誰はばかることなく学園生活を謳歌しているのが明らかだというのです。その光景の中にグロリア様の姿はないというのに。腹立つことに。
――この辺りから作戦会議がおかしなテンションになっていったのは憶えています。まるで街角の酔っ払いのようでした。お酒なんて口にしているはずもないのに。解せぬ。
「おうかしている?どうかしてるの間違いでしょう。
『可憐な風情のアレクサ嬢と眉目秀麗な殿下が談笑を交わしている姿は、流行りの恋物語の挿絵のようだと学園ではもっぱら評判』?なんの妄想ですか?視力検査した方がいいのでは?
アレクサ嬢の天使の微笑?それを言うならグロリア様は女神ですが、なにか?しかも美と慈愛の女神ですが。次元が違います。
幼少期に、すでにグロリア様の美貌も人格も完成してましたからね!
小さなわたしが転ばないよう、やさしく手を握ってくださったその笑顔――幼心にもどこの宗教画かとその尊さにぼうっと見とれたのも懐かしいことですよ。」
「おお、わかってくれるか!?
その上、近頃では親の目にも眩いばかりに美しくも思慮深く育っているというのに、殿下ときたら――これ見よがしにあんな令嬢を連れ歩いて、娘には目もくれない始末だとか――」
「はああ!?
なんですか、それ。」
「しかも一度だけ『身分のある年頃の男女が、あまり人前で親し気にふるまうと誤解を与えることもある』とリアがそっとたしなめたら――」
リアって、グロリア様のことですよね。ふむふむ。それで?
「『アレクサ嬢は知人もいない他国で心細い思いをされている。それを気遣うのは迎え入れた側の義務だ。――まさか、あなたはそんな邪推などしないだろう?』と――」
そ・う・い・う・も・ん・だ・い・じゃ・な・く・て・
思わず、絶句してしばしの沈黙の後、わたしと侯爵閣下は重々しく頷きあいました。心は一つです。
――目にもの見せねば、気がすまぬ。
殿下、誅すべし。(※個人の意見です)
(――いや、ホントに標的は令嬢じゃなくて殿下にすべきでは――?)
こうして。
具体的なことは何一つ決めることのないまま、作戦決行のGOサインだけが出されてしまったのです。
流されるがままの自分がコワい……
まずは本作戦の概要の確認です。まったく気は進みませんが。
作戦の標的は隣国から今年の春、留学生として王立学園に編入してきたアレクサ・モールトン嬢。
自国ではそこそこの貴族の出だという話ですが、我が国での後見人は王家の執事が勤めているという体裁で、それもなんと同じ隣国出身の王妃様のひそかなコネによるというのが確かな筋からの話だとか……
予想外に大物でした。聞かされた時には、白目をむくかと思いましたよ。それ知ってたら、引き受けてません!と。
慌てて侯爵閣下が言い訳がましくなだめてきて、隣国王室の周辺にはそれらしい貴族令嬢はいないので、王妃様の関係者といってもそんなに重要人物のはずがない、末端だろうというのです。
いやいや。王妃様のお声がかりって時点で、自他ともに認める元祖・末端貴族令嬢のわたしに勝ち目はありませんが?
王妃様の名前が出てきても気にならないって、侯爵家ってそんなに偉いんですか!?――あ、偉いんですか。そうですか。
というか、それって王妃様をないがし……あわあわあわ。
やめましょう。貴族社会の深淵を覗き込んではいけないのです。足元が滑って落ちるのが関の山なのです。
それはさておき。アレクサ・モールトン嬢についての情報は、あまり多くはありませんでした。
学園の高等部に編入して、ロバート殿下とグロリア様と同じクラスに在籍していること。
成績は優秀ですが、体が弱いということで運動系の授業は免除され、社交にもあまり積極的ではなく、ひっそりと学園の片隅で過ごしていることが多い――ただし、ロバート殿下のおまけつきで。
アレクサ嬢と殿下のツーショットは編入初日から目撃され、時に二人で、時に殿下の親しいご学友のグループと連れだって誰はばかることなく学園生活を謳歌しているのが明らかだというのです。その光景の中にグロリア様の姿はないというのに。腹立つことに。
――この辺りから作戦会議がおかしなテンションになっていったのは憶えています。まるで街角の酔っ払いのようでした。お酒なんて口にしているはずもないのに。解せぬ。
「おうかしている?どうかしてるの間違いでしょう。
『可憐な風情のアレクサ嬢と眉目秀麗な殿下が談笑を交わしている姿は、流行りの恋物語の挿絵のようだと学園ではもっぱら評判』?なんの妄想ですか?視力検査した方がいいのでは?
アレクサ嬢の天使の微笑?それを言うならグロリア様は女神ですが、なにか?しかも美と慈愛の女神ですが。次元が違います。
幼少期に、すでにグロリア様の美貌も人格も完成してましたからね!
小さなわたしが転ばないよう、やさしく手を握ってくださったその笑顔――幼心にもどこの宗教画かとその尊さにぼうっと見とれたのも懐かしいことですよ。」
「おお、わかってくれるか!?
その上、近頃では親の目にも眩いばかりに美しくも思慮深く育っているというのに、殿下ときたら――これ見よがしにあんな令嬢を連れ歩いて、娘には目もくれない始末だとか――」
「はああ!?
なんですか、それ。」
「しかも一度だけ『身分のある年頃の男女が、あまり人前で親し気にふるまうと誤解を与えることもある』とリアがそっとたしなめたら――」
リアって、グロリア様のことですよね。ふむふむ。それで?
「『アレクサ嬢は知人もいない他国で心細い思いをされている。それを気遣うのは迎え入れた側の義務だ。――まさか、あなたはそんな邪推などしないだろう?』と――」
そ・う・い・う・も・ん・だ・い・じゃ・な・く・て・
思わず、絶句してしばしの沈黙の後、わたしと侯爵閣下は重々しく頷きあいました。心は一つです。
――目にもの見せねば、気がすまぬ。
殿下、誅すべし。(※個人の意見です)
(――いや、ホントに標的は令嬢じゃなくて殿下にすべきでは――?)
こうして。
具体的なことは何一つ決めることのないまま、作戦決行のGOサインだけが出されてしまったのです。
流されるがままの自分がコワい……
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる