小犬令嬢、いびり戦線異状アリ!

大友珠希

文字の大きさ
8 / 24

男たちの黒歴史ノート ※別視点

しおりを挟む
 「――これは愛だと思うんだ」
 
 「寝言か。目ぇ開けたまま寝るとドライアイになるぞ」

 王子(笑)のうわ言を間髪入れずに斬って捨てる。
が、こたえた様子もなく王子(笑)はまたうわ言をこぼし続けてきた。どこかの広場にこんな形の噴水口があっただろうか。据え付けてきてやろうか。

 「オマエが学園に来てから、オレとずっと一緒にいるだろ?」
 
 「不幸にもな」
 
 「オマエに遠慮して、リアはそばに寄ってこない。もともと、慎ましくて控えめなリアはオレが他の誰かといると、邪魔しないようにと遠慮して離れてたんだ。淑女のたしなみとしてな」
 
 「誰だ、リアって」
 
 「『婚約者のわたくしがおりましたら、他の方も気がねなさいますもの』って言って微笑む彼女は、でも本当は気持ちをぐっとこらえてたんだよ――それに気づかなかった以前のオレは本当に愚かだった」
 
 「ああ、グロリア嬢な。大丈夫。今のオマエはもっと馬鹿みたいになってるから」

 「リアは、本当はオレの側にいたい、でも殿下はいずれこの国の王として重責を負う身、せめて学園にいる間だけでもご自由に過ごさせてさし上げたい――」
 
 なんで途中からなりきってるんだよ。やめろ、目じりをぬぐうな。そっと口元をおさえるな。

 「ああ、でも、あの方はどなた?王妃様のご縁者というけれど、なぜあんなに殿下とお親しそうなの?なぜ、いつもいつもおそばにいらっしゃるの?本当は、そこはわたくしの居場所のはずなのに――」

 「ハンカチ噛んで引っ張んなよ。伸びるぞ」

 「ああ、リア。『あまり親し気に振舞われては』なんて、あれが君の精一杯だったんだよね。わかってたのに、オレとしたことが、ついつい意地悪な返しをしてしまって――
 違うんだ、気を悪くしたんじゃない。そんなことを言う君があんまり愛らしくて」

 「なあ、まだ続くのか」

 「でも、オレに嫌われてしまったんじゃないか、と不安になったリアは胸を痛めて一人はらはらと涙をこぼし――そこでその姿を物陰から見守っていたのが、リアを姉とも慕うレイチェル嬢だ」

 「誰だ」

 「オマエいうところの小犬令嬢ちびワンコだよ。前に名前、聞いたよな?」

 「……ああそうだったかな。いいだろ、ワンコで。いつも噛みついてくるし」

 「そう言いながら、オマエいっつもかまってるじゃないか。で、レイチェル嬢がな」

 「おい」

 「ん?」

 「名前呼びするな」

 「は?」

 「――別の呼び方にしろよ。令嬢とか、苗字とか」

 「ワンコが」

 「それもダメだ」

 「えー」

 「……」

 「あー、わかった。睨むな。
 ――で、ランド伯爵令嬢はな、憤慨したわけだ。『お姉さまをイジメる悪いやつらめ、許せない!!』
って突撃してきてるわけだ、オマエに」

 「まあ、そんなとこだろうな」

 「だから、すべては愛のせいなんだよ。令嬢の突撃から、オレはリアの愛情が伝わってくる気がするんだ。政略結婚なオレたちだけど、愛は確かに育まれてるんだ――」

  ――頭がいい湯加減な感じの結論に、オレは真剣にこの国の将来を案じた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

処理中です...