384 / 387
それは一輪の花のように
起死回生
しおりを挟む
「――――」
アリアさんが、完全に闇に飲み込まれるのを見届けた。僕は結局なにも出来なくて……、伸ばされた手に、触れることすらできなかった。
「くく……。これで、これでようやく終わるのさ。このくだらない世界が! マルティネスの血もここで途絶えた。もうここに、希望なんてありはしない! 世界が救われることなんて、永遠にないっ!」
高笑いする魔王の声なんて、僕の耳には届いていなかった。……ただひたすらに、アリアさんが飲み込まれた闇を見つめていた。
アリアさん……やっと、ディランさんに会えたのに、こんなことになるなんて……そんなの、あんまりだ。
「アリアさん…………出てきてくださいよ、こんな……嘘ですよね?」
「嘘なわけないだろう? 見てみろよ、ほら、そこは完璧な闇だ。吸い込まれて消えてしまいそうなほどの、漆黒だ。そこからマルティネス・アリアが出てくることはない。二度と、永遠に。
あいつはそれほどの力はない。なのにここに来た。私の狙いが自分だとも気づかずに、のうのうとな」
「…………」
僕のミスだ。
例えそれに、今まで誰一人として気づいていなかったとしても、これは、紛れもなく僕のミスだ。
――だから、僕がけりをつける。
「ヤナギハラ・ウタ、今頭を垂れ、私に従うというのなら――」
「セイントエレキテルっ!」
白い雷が魔王に向かって降り注ぐ。魔王はそれを軽く薙げばじっと僕を見据えた。
「……まさかとは思うが、そんなちっぽけな剣一つで私に立ち向かうというのか? 力が込められているとして、それは単なる一振りの剣。お前がするべき、一番賢い判断は、私に従うことだと思うが?」
「嫌だ! 僕は……今まで、色んなものをみてきた。ドラゴンに襲われる人々、人身売買に囚われたり、魔物の幻覚に惑わされたり、大切な人を失ったり、大きな力に怯えながら生きていたり、心に惑わされて苦しんで、そのまま死んでいった人も知っている。
僕はっ、そんな人たちを知っている……ここで諦めるわけにはいかないんだ! 例えそれで敵わなかったとしても、僕がやらなきゃいけないのは、この一本の剣で立ち向かうことだから!」
絶対に諦めない。
この腕が、足が、動くかぎりは、絶対に諦めることは出来ない。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
――――。
――闇、だ。
どこまでも果てしなく続く闇に、私は立ち尽くしていた。手を伸ばしてもその先が見えないような闇。……なるほど、これが、魔王の力なのか。
とまぁ、自分がそれに飲み込まれているというのに、驚くほど私は冷静だった。あまりにも冷静に辺りを見渡して、それから考える。ここから出るにはどうしたらいいだろうか。
「……セイントエレキテルっ!」
雷は起こらない。魔法は使えないみたいだ。それもそうか、相手の力の方が遥かに偉大なのだから。
それならばと剣で切りつけてみる。……無理だ。傷一つつかないどころか、手応えがまるでない。切ったのに切っていないような、おかしな感覚だ。
(……それにしたって、変だな)
闇は、いわゆる闇である。絶望であり、孤独であり、それは人を飲み込み、餌食にして、巨大化していく。そういうものなのだ。
しかし今、闇は私にまるで干渉してこない。こんなところに一人で放り出されたのだから、普通に考えれば絶好の餌のはずだ。それなのにこうして自我を保てているというのはやはり……。
『…………流石、頭がいいですね、アリアは』
響き渡る声に、ハッとした。それから、胸がぐっと熱くなって、思わず表情が緩んだ。……いつの間にか、体が緊張していたのかもしれない。ゆるゆるとほどけた体は駆け登る熱に耐えかねて雫をこぼした。いくつも、いくつも。
……忘れるはずがない声だ。忘れたことなんかない声だ。大好きな声。優しい声。8年ぶりに聞いた……声。
「っ……ここに……ここに、いたんですね、母上…………!」
『アリア、こんなに……こんなに大きく、立派になって』
「母上ぇっ! 会いたい……会いたいです! 少し、ほんの少しでいいから、ここに来てください! ほんの少しでいいから、私に触れてください! 母上……」
『アリア、私はいつも、あなたのそばにいた。今もそばにいるわ』
母上の言葉はそこで一瞬途切れ、次にはもう少し私の近くで響いた。
『アリア……やらなきゃいけないことは、わかってる?』
「……魔王を倒して、世界を、救うこと……」
『そう、つまりね? アリアが今出来る最善のことは……この絶望に抗うことよ』
「…………」
絶望に、抗う。
『不屈の精神、アリアがそんな称号を持ったとき! 私はすごく嬉しかったの。強い子になってくれる。将来、この国を導けるほどの大きな力になれる。そして……一つの心配や不安もなく、「人柱」になれるって、ね』
「母上っ…………」
『アリアにやるつもりがあるなら、私はその「空のスキル」に、新しい力を注いであげましょう』
……そんなの、答えはひとつだ。
だって私は……母上の、子で、マルティネス帝国の、姫だ。
「教えてください、母上。その力を」
『――呪文、「起死回生」』
私は受け取った瞬間、そのスキルを発動させた。
アリアさんが、完全に闇に飲み込まれるのを見届けた。僕は結局なにも出来なくて……、伸ばされた手に、触れることすらできなかった。
「くく……。これで、これでようやく終わるのさ。このくだらない世界が! マルティネスの血もここで途絶えた。もうここに、希望なんてありはしない! 世界が救われることなんて、永遠にないっ!」
高笑いする魔王の声なんて、僕の耳には届いていなかった。……ただひたすらに、アリアさんが飲み込まれた闇を見つめていた。
アリアさん……やっと、ディランさんに会えたのに、こんなことになるなんて……そんなの、あんまりだ。
「アリアさん…………出てきてくださいよ、こんな……嘘ですよね?」
「嘘なわけないだろう? 見てみろよ、ほら、そこは完璧な闇だ。吸い込まれて消えてしまいそうなほどの、漆黒だ。そこからマルティネス・アリアが出てくることはない。二度と、永遠に。
あいつはそれほどの力はない。なのにここに来た。私の狙いが自分だとも気づかずに、のうのうとな」
「…………」
僕のミスだ。
例えそれに、今まで誰一人として気づいていなかったとしても、これは、紛れもなく僕のミスだ。
――だから、僕がけりをつける。
「ヤナギハラ・ウタ、今頭を垂れ、私に従うというのなら――」
「セイントエレキテルっ!」
白い雷が魔王に向かって降り注ぐ。魔王はそれを軽く薙げばじっと僕を見据えた。
「……まさかとは思うが、そんなちっぽけな剣一つで私に立ち向かうというのか? 力が込められているとして、それは単なる一振りの剣。お前がするべき、一番賢い判断は、私に従うことだと思うが?」
「嫌だ! 僕は……今まで、色んなものをみてきた。ドラゴンに襲われる人々、人身売買に囚われたり、魔物の幻覚に惑わされたり、大切な人を失ったり、大きな力に怯えながら生きていたり、心に惑わされて苦しんで、そのまま死んでいった人も知っている。
僕はっ、そんな人たちを知っている……ここで諦めるわけにはいかないんだ! 例えそれで敵わなかったとしても、僕がやらなきゃいけないのは、この一本の剣で立ち向かうことだから!」
絶対に諦めない。
この腕が、足が、動くかぎりは、絶対に諦めることは出来ない。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
――――。
――闇、だ。
どこまでも果てしなく続く闇に、私は立ち尽くしていた。手を伸ばしてもその先が見えないような闇。……なるほど、これが、魔王の力なのか。
とまぁ、自分がそれに飲み込まれているというのに、驚くほど私は冷静だった。あまりにも冷静に辺りを見渡して、それから考える。ここから出るにはどうしたらいいだろうか。
「……セイントエレキテルっ!」
雷は起こらない。魔法は使えないみたいだ。それもそうか、相手の力の方が遥かに偉大なのだから。
それならばと剣で切りつけてみる。……無理だ。傷一つつかないどころか、手応えがまるでない。切ったのに切っていないような、おかしな感覚だ。
(……それにしたって、変だな)
闇は、いわゆる闇である。絶望であり、孤独であり、それは人を飲み込み、餌食にして、巨大化していく。そういうものなのだ。
しかし今、闇は私にまるで干渉してこない。こんなところに一人で放り出されたのだから、普通に考えれば絶好の餌のはずだ。それなのにこうして自我を保てているというのはやはり……。
『…………流石、頭がいいですね、アリアは』
響き渡る声に、ハッとした。それから、胸がぐっと熱くなって、思わず表情が緩んだ。……いつの間にか、体が緊張していたのかもしれない。ゆるゆるとほどけた体は駆け登る熱に耐えかねて雫をこぼした。いくつも、いくつも。
……忘れるはずがない声だ。忘れたことなんかない声だ。大好きな声。優しい声。8年ぶりに聞いた……声。
「っ……ここに……ここに、いたんですね、母上…………!」
『アリア、こんなに……こんなに大きく、立派になって』
「母上ぇっ! 会いたい……会いたいです! 少し、ほんの少しでいいから、ここに来てください! ほんの少しでいいから、私に触れてください! 母上……」
『アリア、私はいつも、あなたのそばにいた。今もそばにいるわ』
母上の言葉はそこで一瞬途切れ、次にはもう少し私の近くで響いた。
『アリア……やらなきゃいけないことは、わかってる?』
「……魔王を倒して、世界を、救うこと……」
『そう、つまりね? アリアが今出来る最善のことは……この絶望に抗うことよ』
「…………」
絶望に、抗う。
『不屈の精神、アリアがそんな称号を持ったとき! 私はすごく嬉しかったの。強い子になってくれる。将来、この国を導けるほどの大きな力になれる。そして……一つの心配や不安もなく、「人柱」になれるって、ね』
「母上っ…………」
『アリアにやるつもりがあるなら、私はその「空のスキル」に、新しい力を注いであげましょう』
……そんなの、答えはひとつだ。
だって私は……母上の、子で、マルティネス帝国の、姫だ。
「教えてください、母上。その力を」
『――呪文、「起死回生」』
私は受け取った瞬間、そのスキルを発動させた。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?
山咲莉亜
ファンタジー
ある日、高校二年生だった桜井渚は魔法を扱うことができ、世界最強とされる精霊王に転生した。家族で海に遊びに行ったが遊んでいる最中に溺れた幼い弟を助け、代わりに自分が死んでしまったのだ。
だけど正直、俺は精霊王の立場に興味はない。精霊らしく、のんびり気楽に生きてみせるよ。
趣味の寝ることと読書だけをしてマイペースに生きるつもりだったナギサだが、優しく仲間思いな性格が災いして次々とトラブルに巻き込まれていく。果たしてナギサはそれらを乗り越えていくことができるのか。そして彼の行動原理とは……?
ロマンス、コメディ、シリアス───これは物語が進むにつれて露わになるナギサの闇やトラブルを共に乗り越えていく仲間達の物語。
※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
没落領地の転生令嬢ですが、領地を立て直していたら序列一位の騎士に婿入りされました
藤原遊
ファンタジー
魔力不足、財政難、人手不足。
逃げ場のない没落領地を託された転生令嬢は、
“立て直す”以外の選択肢を持たなかった。
領地経営、改革、そして予想外の縁。
没落から始まる再建の先で、彼女が選ぶ未来とは──。
※完結まで予約投稿しました。安心してお読みください。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる