383 / 387
それは一輪の花のように
元凶
しおりを挟む
「――――ようやくか」
低く、頭に直接響くような声で、『それ』は言った。不定形の黒い体。闇に包まれた、その正体。
全ての、元凶――。
「待っていたんだ、私は。ずっとずっと」
僕はじっと、それを見据えた。この手には、力がある。Unfinishedから、個性の塊'sから、受け取った力が。だから、きっと大丈夫。
「ようやく会えたな――女神に愛された子よ」
『それ』と目があった。間違いなく、『それ』はこの世のものではないなにかだった。
魔王――そういうのにふさわしい面持ちで、それはそこに立っていた。今までの敵とはまるで違う。誰よりもまがまがしく、なによりも落ち着いていた。その『瞳』の奥に見えるゆらめきは闇を映しているようで、ちかちかと揺れている。
敵である僕らを、歓迎するように、魔王は僕らを出迎えた。
「今お前に問う、『自己犠牲の勇気』よ。お前は私に勝てるとでも思っているのか?」
「…………」
僕はじっと前を見据え、うなずく。
勝てる、絶対勝てる。勝たなきゃいけない。
「ほう……? 根拠は」
「……ないです」
「無様な。……お前はどうだ、マルティネス・アリア。私に勝てると思うか?」
魔王は僕の後ろに立つ、アリアさんにも問いかける。アリアさんがほんの少しだけ後退り、そして、一歩前に出たのを感じだ。
「……勝てる。だって、私たちは二人じゃないんだ。たくさんの命を背負ってここに立っている。負けるわけには……いかない」
「そうか。……愚かな人間よ、貴様らは憐れだ。魔王が生まれ、争い憎み恨みあい、それで何が生まれた? ……さらに強い魔王が生まれた。
平和を保つために払われた犠牲を忘れのうのうと生きている間に、私はこうして育ち、復活した」
魔王は僕らの奥を覗き込むように、じっと見透かす。そして、アリアさんに目をやれば、忌々しそうに舌打ちをした。
「……くそ、マルティネス……お前がいなければ、もっと早く、確実に、この世界を滅ぼせていたというのに」
「……どういうことだ」
「お前の母親――マルティネス・マリアだよ。彼女はその命を犠牲に、私をここへ封印し直した。……たいした時間ではなかったが、勇者を集めるための時間稼ぎにはなっただろう」
マルティネス・マリア…………その名前は、久しぶりに聞いた。アリアさんのお母さん……アリアさんの、大切な人は……世界のために、命を落としていた。
「母上…………」
「だがしかし……私にとっても、この八年は有意義なものだった。なにせ、私を封印したマルティネス・マリアに、ささやかな復讐をする支度が整ったのだから」
「……あなたは、何をしようとしているんですか…………」
「愚問だな。なんのために幼い魔王を生み出したと思っている? 全てはこのためだったのさ」
ドクリ、と、嫌な予感がした。背筋を冷や汗が伝う。僕はまた――判断を、誤ったのではないだろうか。
「私がこの八年でやったことを教えてやろう。
一つ、新しい魔王を産み出した。分かりやすい、巨大な力としてな。
二つ、それに力を集めさせた。人が人として『生きようとする力』を、自己防衛の勇気として。そうすれば神々もこの動きに気づき、勇者を用意するだろう。そして勇者は魔王を討伐しに動く。一見終わったように見える。
……三つ。ここで、ドラゴンを操る。原因が私だわからないようにな。そう、ディラン・キャンベルを利用して、だ。
ちょっとした催眠をかけさせてもらったよ。無理矢理にでも街を出て、『自己防衛』に手を出させるようにね。
四つ。彼を『建前の黒幕』に仕立てあげた。ディラン・キャンベルが黒幕だと分かれば、マルティネス・アリアは必ず動き出す。そしてそれを見守る『女神』も……必ず、マルティネス・アリアを支える人間を寄越す。転生者とは意外だったがな」
……魔王の口から語られる言葉が、冷たく、頭を満たしていく。全ては予想されていたことで、計算されていたことで、そのレールの上を僕らは……走っていただけ、なのか。
「五つ、ディラン・キャンベルを追って、マルティネス・アリアは必ずここに来る。そこで、マルティネス・アリアを絶望に落とす。……それが、マルティネス・マリアにたいしての、何よりもの復讐になるだろう?」
「……あなたは、一体、なにを……」
僕が呟けば、ふと、背後で大きな気配を感じ取った。ぞわりと背筋を撫でる感覚。振り向くのが……怖い。
「……あ、う…………た……」
「…………アリア、さん……?」
ゆっくりと振り向けば……そこには、今まさに闇に飲み込まれようとしているアリアさんがいた。その表情は……怯えきっていた。体はガクガクと震え、目に涙をため、すがるように僕を見ていた。
「アリアさんっ……! 待って、止めてください!」
「やめる? ここに来てやめると思うか? ようやく復讐を果たし、この世界を征服できるというのに。
見せかけだけの勇気なんてこんなもんさ。圧倒的な闇には決して敵わない」
アリアさんは闇の中から僕に手を伸ばし――。
…………。
――笑っていた。
低く、頭に直接響くような声で、『それ』は言った。不定形の黒い体。闇に包まれた、その正体。
全ての、元凶――。
「待っていたんだ、私は。ずっとずっと」
僕はじっと、それを見据えた。この手には、力がある。Unfinishedから、個性の塊'sから、受け取った力が。だから、きっと大丈夫。
「ようやく会えたな――女神に愛された子よ」
『それ』と目があった。間違いなく、『それ』はこの世のものではないなにかだった。
魔王――そういうのにふさわしい面持ちで、それはそこに立っていた。今までの敵とはまるで違う。誰よりもまがまがしく、なによりも落ち着いていた。その『瞳』の奥に見えるゆらめきは闇を映しているようで、ちかちかと揺れている。
敵である僕らを、歓迎するように、魔王は僕らを出迎えた。
「今お前に問う、『自己犠牲の勇気』よ。お前は私に勝てるとでも思っているのか?」
「…………」
僕はじっと前を見据え、うなずく。
勝てる、絶対勝てる。勝たなきゃいけない。
「ほう……? 根拠は」
「……ないです」
「無様な。……お前はどうだ、マルティネス・アリア。私に勝てると思うか?」
魔王は僕の後ろに立つ、アリアさんにも問いかける。アリアさんがほんの少しだけ後退り、そして、一歩前に出たのを感じだ。
「……勝てる。だって、私たちは二人じゃないんだ。たくさんの命を背負ってここに立っている。負けるわけには……いかない」
「そうか。……愚かな人間よ、貴様らは憐れだ。魔王が生まれ、争い憎み恨みあい、それで何が生まれた? ……さらに強い魔王が生まれた。
平和を保つために払われた犠牲を忘れのうのうと生きている間に、私はこうして育ち、復活した」
魔王は僕らの奥を覗き込むように、じっと見透かす。そして、アリアさんに目をやれば、忌々しそうに舌打ちをした。
「……くそ、マルティネス……お前がいなければ、もっと早く、確実に、この世界を滅ぼせていたというのに」
「……どういうことだ」
「お前の母親――マルティネス・マリアだよ。彼女はその命を犠牲に、私をここへ封印し直した。……たいした時間ではなかったが、勇者を集めるための時間稼ぎにはなっただろう」
マルティネス・マリア…………その名前は、久しぶりに聞いた。アリアさんのお母さん……アリアさんの、大切な人は……世界のために、命を落としていた。
「母上…………」
「だがしかし……私にとっても、この八年は有意義なものだった。なにせ、私を封印したマルティネス・マリアに、ささやかな復讐をする支度が整ったのだから」
「……あなたは、何をしようとしているんですか…………」
「愚問だな。なんのために幼い魔王を生み出したと思っている? 全てはこのためだったのさ」
ドクリ、と、嫌な予感がした。背筋を冷や汗が伝う。僕はまた――判断を、誤ったのではないだろうか。
「私がこの八年でやったことを教えてやろう。
一つ、新しい魔王を産み出した。分かりやすい、巨大な力としてな。
二つ、それに力を集めさせた。人が人として『生きようとする力』を、自己防衛の勇気として。そうすれば神々もこの動きに気づき、勇者を用意するだろう。そして勇者は魔王を討伐しに動く。一見終わったように見える。
……三つ。ここで、ドラゴンを操る。原因が私だわからないようにな。そう、ディラン・キャンベルを利用して、だ。
ちょっとした催眠をかけさせてもらったよ。無理矢理にでも街を出て、『自己防衛』に手を出させるようにね。
四つ。彼を『建前の黒幕』に仕立てあげた。ディラン・キャンベルが黒幕だと分かれば、マルティネス・アリアは必ず動き出す。そしてそれを見守る『女神』も……必ず、マルティネス・アリアを支える人間を寄越す。転生者とは意外だったがな」
……魔王の口から語られる言葉が、冷たく、頭を満たしていく。全ては予想されていたことで、計算されていたことで、そのレールの上を僕らは……走っていただけ、なのか。
「五つ、ディラン・キャンベルを追って、マルティネス・アリアは必ずここに来る。そこで、マルティネス・アリアを絶望に落とす。……それが、マルティネス・マリアにたいしての、何よりもの復讐になるだろう?」
「……あなたは、一体、なにを……」
僕が呟けば、ふと、背後で大きな気配を感じ取った。ぞわりと背筋を撫でる感覚。振り向くのが……怖い。
「……あ、う…………た……」
「…………アリア、さん……?」
ゆっくりと振り向けば……そこには、今まさに闇に飲み込まれようとしているアリアさんがいた。その表情は……怯えきっていた。体はガクガクと震え、目に涙をため、すがるように僕を見ていた。
「アリアさんっ……! 待って、止めてください!」
「やめる? ここに来てやめると思うか? ようやく復讐を果たし、この世界を征服できるというのに。
見せかけだけの勇気なんてこんなもんさ。圧倒的な闇には決して敵わない」
アリアさんは闇の中から僕に手を伸ばし――。
…………。
――笑っていた。
0
あなたにおすすめの小説
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
悪徳領主の息子に転生しました
アルト
ファンタジー
悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。
領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。
そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。
「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」
こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。
一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。
これなんて無理ゲー??
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる