泥まみれの宝石〜潔癖皇子に恋した奴隷〜

トウ子

文字の大きさ
2 / 16
帝国の後宮にて

しおりを挟む
ケイは、両親は知らない。
生まれ持った名前もない。
気づいた時には、もう貴族の屋敷にいた。

きっと、酷く幼いうちに、奴隷として売られたのだろう。
物心ついた最初の役目は、幼い少女の玩具だった。
美しい絹で何重にも縛り付けられて着飾られたり、犬のように芸をしたり、首に縄をつけて庭を散歩をしたり。
決して飼い主を傷つけない生き物として、重宝された。
少女がケイに飽きてが不要になると、その父親のモノになった。
様々な手管を教え込まれ、男の体に奉仕することを学んだ。
奴隷の身には過ぎた教養を拷問のように叩き込まれ、旅芸人の楽器弾きや踊り子のような真似まで教え込まれた。
ある程度形になった後は、新しい奴隷に気を取られる主人に放り出されるように、その男の妻のところへ遣られた。
そこでは礼儀作法と妖艶な身のこなし、そしてを悦ばせる術を叩き込まれた。

男よりも余程容赦のない指導に、母親や女に対する幻影は一気に消え失せた。
もとより、男に対する夢も、見てはいなかったのだが。

けれど、その時の技術は確実にケイの力となり、今の立場を築く礎となったのだから、むしろ感謝している。
最初の家では、良くしてもらえた、と思う。

それは考えてみれば当然だった。
彼らは、そのうちケイを「上の者」へ貢ぐ心算だったのだ。
心証の良い贈り物というのは難しい。
この成熟しすぎて腐敗した暑い国で、最も簡単なのは愛玩用の美しい人間だ。
異国人であれば、尚更珍重されて好まれる。

ケイは、黒髪黒目の、異邦人でもあった。
それは、きっと、奴隷に堕ちた人間としては、とても幸運なことだったのだろう。

貢物として用意する人間を、貴族は粗末には扱わない。
貢物は贈った先で気に入られることが第一であるし、気に入られれば望みを聞いてもらえる。
そこで、貢物の口から自分の家の引き立てを願ってもらわねばならないからだ。
反対に「あの男達には酷い目に遭わされました、どうか倒して下さい」などと言われれば、お仕舞いだ。
貢ぐ先は、自分よりも高位の貴族だと、相場は決まっているのだから。

ケイはどんどんと「贈られ」ていった。
新しい場所で新たな技を覚えて、新たな知恵を得て、高貴な者たちの愛玩動物として、さらなる高みへと昇っていった。

そして少しずつ、少しずつ。
ケイは帝国で最高権力を持つ男の元へ、近づいていった。

行き着いた至上の場所は、たいそう居心地が良かった。
スルタンの後宮は、皆平等だ。
皆が、スルタンの奴隷だからだ。
生まれも出自も関係ない。
必要なのは容姿の美しさと、男を悦ばせる手管と、魅惑的な肉体だけだ。
完全な実力主義だった。
ケイは、後宮におさめられてから、ずっと一番のお気に入りであり続けた。
少女から女へ羽化する途中の危うい美しさが好みだとほざく老いたスルタンの要望に応え続けた。

十二から、十年間。

肉体は多少は年を取ろうとも、ほとんど変わることのない瞳とあどけない表情が、スルタンに愛された。
この国の人間に比べて驚くほど老けにくい自分の容姿と、帝国の女達に比べれば華奢で少女めいた薄い肉体に感謝した。

この後宮では、女達は歳をとることを酷く恐れた。それこそ死よりも老いを恐れた。
後宮に入った時は美しく可憐だった元少女達は、スルタンに愛されるために、戯れの愛を失わないために、妖術師やあやしげな薬師に頼った。そして毒のようなを煽って命を散らしていったのだ。

美しかった人間達の末路を見ていたから、そんなことをしなくても済む、そしてスルタンから勧められなくても済む己のカラダに、ケイは深く感謝していた。

けれど。

十年、だ。
スルタンのすぐ側に侍り、各地の要人やその妻をもてなし、程よい我儘と程よい欲と程よい愚かさを見せ、暗殺されぬよう必死に生きてきた。

確かにそろそろ、頃合いだろう。
次代のスルタンは女よりも少年を好む人間だ。
自分の地位は危うくなる。
それならば、安全なうちに、自分もまだ美しいうちに、新しい場所で立場を固めるのが賢い。

「我が君の仰せのままに、寒い北の国へも参りましょう。そして我が国の華やかに雅な我らの文化を、知らしめてみせましょう」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

処理中です...