泥まみれの宝石〜潔癖皇子に恋した奴隷〜

トウ子

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帝国の後宮にて

皇子との出逢い1

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鏡を見て、ケイはニコリと微笑んだ。

「今日も、綺麗に出来た」

真っ黒な艶のある髪を緩く編み、ひとつに垂らす。シンプルな髪型は、ケイの生まれ持った美貌を鮮やかに引き立てた。

「せっかくのお髪ですのに……」
「これで良いのよ」

ため息混じりの侍女の声に、あっさりと声を返す。侍女は腕を振るえず残念そうだが、知ったことではなかった。

ケイは、複雑な編み上げは好まなかった。
きつく結えば頭痛がするし、あまり手を加えない方が少女好きのスルタンの意に沿ったからだ。
素のままに近い姿で、美しい身体を伸びやかに動かして、ケイはいつも緩やかに日々を生きていた。

「あなたはもう下がっていいわ」
「承知いたしました。御用があればお呼びくださいませ」

最近つけられた侍女を下がらせ、ケイは静かに鏡台の下から化粧道具と幅広の布を取り出した。眉毛をキリリと描き、顔に陰をつけ、唇の色を薄くする。

「これで良いかしら」

日中用の服を躊躇いなく脱ぎ捨て、生まれたままの姿になる。くるくると布を広げ、そのまま胸を潰すように己の体に巻きつけた。その上から男性用の官服を身に纏い、鏡に向き合う。

「ふふっ、愉快なこと」

鏡の中にいるのは、清婉な美少年だ。

帝国生まれの女達と違って、ケイは華奢で体の凹凸が少ない。後宮には入ってからも、それなりに動いていたから、四肢はしなやかだ。柔らかな肢体は、胸を潰して仕舞えば、まるで思春期の少年のようである。

くるりと上を向く量の多い睫毛は瞬きのたびに音を立て、くりっとした二重の瞳はまるで幼気な少年のような無邪気さを纏う。
ふっくらとした薔薇色の頬と、紅をさしたように赤くぷるんと潤った唇はまるで十代半ばのような瑞々しさだ。

帝国の人間に比べて一回りは小柄で、幼い顔立ちのケイは、稚い娘を好んで愛でるスルタンに愛された。そして、スルタンとよく似たの者達にも、大層受けが良かった。

あどけなく瑞々しい容姿と、成熟した閨房の手管。
相反するはずの二つをケイは微笑みながら共存させていた。
若さを好むスルタンも、ケイへの寵愛は十代を終えてもなお深く、また、多くの人間にケイを見せびらかし、そして夜伽におけるケイの具合の良さ・・を自慢していた。
歴代でも図抜けた好色で名を轟かすスルタンの寵を長きに渡って独占してやまないケイは、欲望に塗れた高貴な者たちにとって一度は触れ、手折りたいと願う花だった。
スルタンは、己を満足させる貢物を献上した者たちに、一晩に限り、飾り立てたケイに触れる権利を与えた。
ケイを与えられることは「スルタンを最も喜ばせた」ことと同義であり、最高の栄誉であると同時に、事実最高の褒賞でもあった。
天上の夢とも形容される快楽を求め、スルタンに目の眩むような宝石を捧げてケイとの一夜を願う者は、老若男女を問わなかった。
そして一夜を過ごした男女は、揃ってケイを褒めそやしてスルタンを羨み、かくも極上の妾妃を囲うスルタンの力を讃えた。
それは、多少はスルタンへの媚を含んだ過剰の賛辞であったのかもしれないが、全くの嘘ではなかった。

誰もがケイとの夜を、「これまで経験した中で最良の夜だった」と口にする。
男であろうと女であろうと、ケイは全身全霊をかけて、極上の夜を提供する。
それがケイの存在意義だからだ。
何も持たないケイには、それが出来なくなることは、即ち死を意味する。
なんとしても生きていたいとは思わなくても、わざわざ死にたくはないから、ケイは、命じられるままに夢のような夜をあらゆる者たちに捧げた。

それが、少し変化するだけだ。
帝国から隣の皇国へ、老いてなお欲深いスルタンから若く美しく皇子へ、変わるだけの話。

それだけのことだ。
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