泥まみれの宝石〜潔癖皇子に恋した奴隷〜

トウ子

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帝国の後宮にて

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「ふふ、さぁて、参りますか」

敵情視察と久々の冒険を兼ねて、ケイは、彼らが滞在している離宮の一つに、様子を伺いに行くことにしたのだ。

あの北の国の皇子は、五日後に帰国する。
それに合わせて、ケイは飾り立てられ、送り出されることになっていた。

「この国で最も美しいもの」として、帝国の威信をかけて。

帝国最高の技術の集う後宮の者たちの手にかかれば、どうしたって美しくはなるだろう。
けれど、相手の好みであるに越したことはないから、皇国の人間の趣味を探るのはとても有意義なことだ。
皇国の人間達が、下賜される自分をどう考え、感じているのかにも興味がある。
それに。

「ふふっ、久しぶりに楽しめそうだわ」

変わりばえしない毎日に、ケイはそろそろ暇を持て余していたのだ。

スルタンには王宮内ならばどこを歩いても構わないと、何年も前から許可を取っているから構いやしない。
スルタンは単なる奴隷の一人に過ぎないはずのケイを随分といた。囚われの蝶と喩えられる後宮の妃でありながら、ケイは条件付きとは言え自由を得ていた。いや、むしろスルタンは、ケイに自由にしろと唆した。

「すぐに枯れる花も愛らしいが、そなたは余のであれ」

かつてそう笑ったスルタンは、ケイに特別な証を授けた。それを懐に密かに忍ばせて、ケイは時折スルタンの意を汲んで王宮内を歩き回った。見聞きした情報をケイが寝物語に語ればスルタンは喜び、有意義な情報であれば褒美を取らせることすらあった。

侵入される皇国側からは唾棄したくなるような行動かもしれないが、武器も何も持たずにうろついていた人間に、暗殺や間諜の疑いをかけるほど、皇国も切羽詰まってはいないだろう。

もしそうなったとしても、明後日、皇国へ贈られるまでは、ケイはスルタンの所有物であり、掌中の珠とも言える存在だ。
スルタンを恐れる彼らに、即座に切って捨てられることは考えにくい。それに。

「まぁ、切り捨てられたら、その時はその時ね」

また、たとえそうなったとしても、その時はその時だ、と思ってもいた。

死にたい訳ではなかったけれど、どうしたって人間は不死ではない。
明日まで生きていられるかだって、分からないのだ。
それならば、安全ばかりを追い求めるよりも、いつ終わるか分からない人生を存分に楽しむことの方がケイにとっては大切だった。

矛盾しているようだが、ケイにとっては刹那的な生の積み重ねが今であり、今後もその考えが変わることは考えられなかった。

「ふふっ、ワクワクする」

ケイは鏡に向けてふわりと流し目を送り、反転した自分に笑みを閃かせた。
さも楽しげに輝く瞳に、ケイは我ながら愉快になる。

飾り立てられた布を剥いだ時、理想の姿をした人間が出てきたら、あの綺麗な顔はどれほどの驚愕で彩られるだろうか。
子供のように無邪気で愉快な計画に、ケイはにこりと笑んだ。
侍従のような濃い色の衣に、薄紫の布をふわりと頭へ巻きつけて 、扉を出る。

「昨日も目元しか出てなかったし、見つかっても私だと分かりはしないだろうけど、まぁ」

ケイはくすり、と優雅に口角を上げた。

「きっと、驚くことでしょうね」

危険は感じなかった。
万が一、皇子に見つかって正体が知れたとしても、そのまま自分に堕とすことが出来るだろうと確信できるほど、ケイは今日も充分に美しかった。
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