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皇国への道中にて
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「いや、そんな」
信じられない、とでも言うように皇子は首を振った。
「……お前、が?帝国の至宝だと?……あのスルタンの、愛妾だと?」
まるで恐ろしい化け物が目の前に形作られていくのを見ているかのように、皇子の顔は次第に歪み、薄い唇からは呻くように呟きが落ちる。
ケイは小さく口角を上げて、まるで秘密を告げるように囁いた。
「ええ。広間にて御手を離されるまで、私の身はこの帝国の主のものでございました。けれど今は、皇子様のモノにございます。なんなりと、ご用命下さいませ」
太陽の下には不似合いなほど、ねっとりと色を含ませた声に、皇子は不愉快そうに眉を顰めた。
「馬鹿馬鹿しい。お前、男ではなかったのか」
理解できないとばかりに美しい顔を歪めて、皇子は吐き棄てる。
「おほほ、ご覧の通り。少々帝国の女に比べて胸元は足りませぬが、れっきとした女にございます。その節は、紛らわしい格好で失礼申し上げました」
口元は片手で隠しながらも、愉快そうに細めた目元で、ケイが面白がっていることは丸わかりだ。
「……なんのつもりだ。どうして潜入し、私を探っていた」
「おやまぁ、また異な事を」
いっそ憎々しげな皇子の表情すらも、人の目を奪うほどの魅力に満ちていて、ケイはときめきのままに舌舐めずりでもしたい気分だった。
「あなたのお好みのどのような女性か知りたくて、あなたのお気に召したくて……という、わたくしの哀れな女心でございますのに」
「ふざけた女め。私を揶揄って楽しいか!?」
激昂する皇子にコロコロと笑い、ケイは優美に唇を引き上げた。
「お美しく、お可愛らしい皇子様。簡単な話です。私にあなた様のひと時をお与え下さいませ。そうすれば」
一つ小さく呼吸をして、ケイは蕩けた瞳に煽情的な熱を灯して囁く。
「あなた様が知りもせぬ快楽を、わたくしは捧げてみせましょう」
「っ、要らんわ!」
語気荒く言い放つ皇子様は、ガンッとテーブル叩きつけた。
慌てて近寄ってこようとする周囲を片手で押さえて、皇子は燃えるような瞳で睨みつけた。
「哀れな娘がスルタンに捨てられたものかと同情していたら……馬鹿馬鹿しい!」
「おや、同情してくださっていたのですか」
きょとんと首を傾げるケイに、皇子は歯軋りせんばかりの顔で吐き捨てた。
「こんな奴と知っていれば、近づかなんだわ!」
「あら、仲良く致しましょうよ」
「寄るな!数多の獣物と交わった毒婦め!穢れがうつるわ!」
最大限の侮辱を込めた罵倒に、けれどケイは高らかに笑い飛ばした。
「おほほほっ、それは後宮の花としては誉れでこそあれ、恥じることではございませんもの。高貴な方々が私の前でケダモノに成り下がる様は、大層心地ようございました。皆様とってもご満足下さいましたのよ?」
「やめよ、聞きたくないわっ」
ケイの直截的な言葉に、皇子は心底忌々しそうに拒絶を吐き捨てた。若さゆえか潔癖な皇子に、ケイはふわりと花が綻ぶように笑ってみせた。
「あら、潔癖なお方ですのね」
「お前と帝国の価値観は、俺には向かん。黙って口を閉じていろ、この穢らわしい者め」
押し殺した声で告げる皇子に、ケイは冷え冷えとした笑みを返した。
「おほほ……帝国に媚びるため、奴隷を差し出した御国に、私の勤めを貶めることが出来るのでしょうか」
信じられない、とでも言うように皇子は首を振った。
「……お前、が?帝国の至宝だと?……あのスルタンの、愛妾だと?」
まるで恐ろしい化け物が目の前に形作られていくのを見ているかのように、皇子の顔は次第に歪み、薄い唇からは呻くように呟きが落ちる。
ケイは小さく口角を上げて、まるで秘密を告げるように囁いた。
「ええ。広間にて御手を離されるまで、私の身はこの帝国の主のものでございました。けれど今は、皇子様のモノにございます。なんなりと、ご用命下さいませ」
太陽の下には不似合いなほど、ねっとりと色を含ませた声に、皇子は不愉快そうに眉を顰めた。
「馬鹿馬鹿しい。お前、男ではなかったのか」
理解できないとばかりに美しい顔を歪めて、皇子は吐き棄てる。
「おほほ、ご覧の通り。少々帝国の女に比べて胸元は足りませぬが、れっきとした女にございます。その節は、紛らわしい格好で失礼申し上げました」
口元は片手で隠しながらも、愉快そうに細めた目元で、ケイが面白がっていることは丸わかりだ。
「……なんのつもりだ。どうして潜入し、私を探っていた」
「おやまぁ、また異な事を」
いっそ憎々しげな皇子の表情すらも、人の目を奪うほどの魅力に満ちていて、ケイはときめきのままに舌舐めずりでもしたい気分だった。
「あなたのお好みのどのような女性か知りたくて、あなたのお気に召したくて……という、わたくしの哀れな女心でございますのに」
「ふざけた女め。私を揶揄って楽しいか!?」
激昂する皇子にコロコロと笑い、ケイは優美に唇を引き上げた。
「お美しく、お可愛らしい皇子様。簡単な話です。私にあなた様のひと時をお与え下さいませ。そうすれば」
一つ小さく呼吸をして、ケイは蕩けた瞳に煽情的な熱を灯して囁く。
「あなた様が知りもせぬ快楽を、わたくしは捧げてみせましょう」
「っ、要らんわ!」
語気荒く言い放つ皇子様は、ガンッとテーブル叩きつけた。
慌てて近寄ってこようとする周囲を片手で押さえて、皇子は燃えるような瞳で睨みつけた。
「哀れな娘がスルタンに捨てられたものかと同情していたら……馬鹿馬鹿しい!」
「おや、同情してくださっていたのですか」
きょとんと首を傾げるケイに、皇子は歯軋りせんばかりの顔で吐き捨てた。
「こんな奴と知っていれば、近づかなんだわ!」
「あら、仲良く致しましょうよ」
「寄るな!数多の獣物と交わった毒婦め!穢れがうつるわ!」
最大限の侮辱を込めた罵倒に、けれどケイは高らかに笑い飛ばした。
「おほほほっ、それは後宮の花としては誉れでこそあれ、恥じることではございませんもの。高貴な方々が私の前でケダモノに成り下がる様は、大層心地ようございました。皆様とってもご満足下さいましたのよ?」
「やめよ、聞きたくないわっ」
ケイの直截的な言葉に、皇子は心底忌々しそうに拒絶を吐き捨てた。若さゆえか潔癖な皇子に、ケイはふわりと花が綻ぶように笑ってみせた。
「あら、潔癖なお方ですのね」
「お前と帝国の価値観は、俺には向かん。黙って口を閉じていろ、この穢らわしい者め」
押し殺した声で告げる皇子に、ケイは冷え冷えとした笑みを返した。
「おほほ……帝国に媚びるため、奴隷を差し出した御国に、私の勤めを貶めることが出来るのでしょうか」
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