生まれる前から一緒の僕らが、離れられるわけもないのに

トウ子

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僕たちがオメガで、なんで君たちは喜ぶの?不思議だね。

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十五歳になる少し前。
僕たちのバース性が判明した。
大方の予想通り、二人ともオメガだ。

検査結果に「ふぅん」「そうかぁ」と呟いて、僕らは帰ってきた。
その日のうちに事務所から『重大発表!』と銘打たれた記者会見が開かれて、僕らの性別が発表された。
随分大ごとだなと思ったら、ついでに僕らのファーストコンサートツアーの日程も発表された。
やっぱり社長は、商売が上手だと思った。





「ファンの子達、喜んでたね」
「二人ともΩでね」

明け方にやっと帰った自宅の、暗い寝室。
いつも通りにベッドの中で向き合って、僕らはクスクスと笑い合う。
楽しそうに赤らんだ頬も、笑いすぎた後のように潤んだ瞳も、見えないけれど知っている。
だっていつもそうだから。

「不思議だよね」
「僕たちがオメガ同士で、何が嬉しいのかな」
「おそろいってところが良いんだろうね」
「それにしても喜びすぎだよね」

はぁ、と熱いため息をこぼしながら、僕、…… 時野瞬はふふふと笑う。

「あぁ、おかしい」
「本当だねぇ」

あまりの愉快さに、どうしようもなく口角が自然と上がっていく。
目の前の悠も、同じ顔をしているだろう。
まるで熱に浮かされたような顔で、けれど冷め切った目をしていると知っている。
僕と同じ顔で、僕よりも暗くて深い夜色の瞳を細めて、唇を笑みに似た形に歪めているんだ。

「ねぇ、読んだ?ファンが喜ぶ一番の理由ってやつ」
「あぁ、あれ?『アルファとオメガの組み合わせじゃなくて良かった、だって』」
「『アルファとオメガの組み合わせだと、あいつらヤッてんじゃね?て思っちゃうもんね』」
「『わかるー!』ってやつ」
「そうそれ」
「ヤラシイねぇ」
「どんな目で僕たちを見てるんだろうねぇ」

まぁ、少年の儚い色気、とかいったテーマの写真集を販売している身なのだから、あまり偉そうなことは言えないけれど。
お互いの考えていることを察し合い、声変わり前の高い声で笑い合う。

「僕ら、清純さが売りのアイドルらしいもんねぇ」
「ファンを見てると、最近は父親くらいの年齢のベータや、あと、アルファも結構いるよね」
「本当にびっくりしちゃうよ、オメガを見て涎たらしてるくせに、何が清純だか」
「オメガ関係なく、王子様だぁって言ってる子もいるよね」
「あれでしょ?『彼らは私の理想のだ』って」
「ふふ、そうそう」
「なんにせよ、理想の押し付けは嫌だねぇ」
「だよねぇ。でも、不思議じゃない?」
「ん?」
「なんでオメガ同士だと、ヤッてないと思うんだろうなって」
「……ふふ、だねぇ?」

熱に溶けた目を見合わせて、喉の奥で笑う。
互いのモノを握る手も、互いの疼きを埋める指も、たっぷりと互いの蜜を纏っている。

「まったく、不思議なアタマだよね」
「運命の番は、アルファとオメガの組み合わせしかないけどさ」
「オメガはアルファとしか無理ってわけじゃないのにね?」

くすくすと笑いながら、同時にひたひたと忍び寄る暗闇の気配を察する。

運命の番。
そんなものが、いつか互いの前に現れたらどうしようか。

「性別、アルファとオメガでも、悪くなかったのにね」
「ふふ、そうだよね」

諦め混じりに言い合って、僕らはそっと目を閉じる。
いっそどちらかがアルファだったなら、僕らは迷うことなく番っただろう。
たとえ運命ではなかったとしても。

いつか現れるかもしれない、運命の番。
そんなおぞましいモノに怯えながら、日々暮らすなんて、冗談じゃない。
僕らの完璧な幸福と平穏を崩さないために、きっと迷わずに傷一つないうなじを差し出し、そして真っ白な頸を噛んだだろう。

「運命のアルファ、現れたらどうしよ」
「怖いよねぇ。母さんみたいになっちゃったら、って思うと」

うんざりとした絶望感の中で、僕らはため息をつく。
どちらかに運命の番が現れたらきっと失われる、僕らの幸福。
考えたら怖くて仕方がなくなる。
僕らは、永遠に続くはずの平穏な日常が、一瞬で壊れるのを、経験しているから。

芸能界は、異常にアルファとオメガの比率が高い。
そして、芸能界以上に、アルファとオメガが集まっている政財界、いわゆる上流階級との繋がりも多い。
僕らのが国内にいる限り、この界隈ほど「出会ってしまいやすい」場所もないだろう。
本当は、とても恐ろしい。
けれど。

「ここ以外、行き場もないし」

産む性、孕む性、アルファを誑かすふしだらで動物のような性。
そう蔑まれるオメガが、マトモな人権と、人生の選択権を持てる場所。
『支配する側』に立ち、強者として存在することができる場所。
それは、ここ、芸能界しかありえない。
僕らのような、なんの後ろ盾もないオメガが人間らしく生きるためには、この世界にいるしか……この世界で力を示し続けるしかないのだ。
人気という力を。
二人を己の夢や妄想や欲望のために消費しようとする、有象無象から与えられる力を。
オメガを喰らい尽くそうとする世界で。

「でも、僕たちはこの世界に食われる気はないもの」
「うん、そうだね」

二人だけの世界の中でトロトロの甘い蜜に塗れて、暗い闇の中で僕らはうっそりと微笑み、目を閉じる。
現実から目を背け、まるで悪魔に祈るかのように。

「喰われるくらいなら、この世界を喰ってやろう」

牙とも言えないこの小さな八重歯で、この不条理な世界に噛み付いてやると。
決して、理不尽な権力や、運命なんて力に押し流されてやるものかと。

僕たちは、宣戦布告を誓ったのだ。
たとえ、敵うはずがないと分かっていても。


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