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しおりを挟む「流石に忙しいねぇ」
「そうだねぇ」
迎えの車の中で身を寄せ合いながら、僕らはぼんやりと呟く。
「眠いねぇ」
「睡眠時間足りないもんねぇ」
そして、うとうとと目を瞬かせる片割れの声に、あくびまじりに返すのだ。
「移動、三十分だっけ」
「うん。ちょっとでも、寝なきゃねぇ……」
人気が出てから僕らのスケジュールは、ずっと分刻み、秒刻みだ。
学校を一時間目で早退して、ドラマの打ち合わせに駆けつける。
台詞の読み合わせを終えれば、次は歌とダンスのレッスンだ。
車の中で食事を取ったらスタジオに到着、CM撮影の準備の合間に一つ目のインタビューを受ける。
二人で呼吸を合わせて声を揃えるタイプのよくあるCM撮影が終わったら、二つ目のインタビューだ。
ふたり交互に雑誌取材と撮影が入り、最後は揃ってくっついた写真を撮って終わり。
事務所に戻る移動車の中で三つ目のインタビューを受け、事務所に着けばコンサートとやらについての会議がある。
全てが終わって帰宅した後は、ドラマの台本を覚え、明日のテストの勉強がある。
我ながらドン引きの多忙さだ。
「平均身長って、どれくらい?」
「僕らより、七センチくらい大きいらしいよ」
「みんな大きいねぇ」
「学校でも僕ら、小さいもんね」
いくら成長期でもこんな生活では背が伸びるはずもない、と僕らは苦笑し合う。
「父さんは大きかったけどね」
「母さんは小さかったしね」
父の高身長に憧れていた僕らだが、小柄だった母と同じくらいにしか伸びていない。
それに、十四歳になっても、まだ二次性徴も遅く、バース性もなかなか判明しなかった。
それもまた、ファンの人たちは、謎めいていて神秘的だと喜んでいたらしい。
「ユーとシュンは天使だから、性別がないんだ!」
「彼らに関してだけは納得できる」
「神様この時代に天使を遣わせてくれてありがとう!」
なんて、ありえない妄言がSNSでは飛び交っていた。
みんな面白半分で、バース性が判明するまでの暇つぶしに過ぎなかったのだろうけれども。
『今話題の双子ユニット、時野悠&時野瞬
彼らの繋がりの深さ。そして噂の無性について、秘密に迫る』
僕らは生まれた時から、ううん、生まれる前から一緒だったので。
二卵性双生児ですけど、二人で一つって感覚が強いんですよね。
僕らの考えは大体同じだから、どっちの名前で書いてくれてもいいですよ。
え?頭の中がわかるのかって?
わかりませんけど、でも同じなんです。
だって同じ環境で育って、同じ考え方と趣味嗜好を持っているんだから、同じに決まっているじゃないですか。
兄弟なんてそんなものじゃないんですか?
あ、違うんですか。
へぇ。
僕らは、違うのなんて、髪と目の色と、名前くらいですけどね。
で、性別の秘密、でしたっけ。
僕らもわかってないんです。
まだ判明していなくて。
背が低いからですかね?
親は高かったんですけど……忙しすぎる?
あはは、おかげさまで。
ありがたいことです。
二人の性別ですか?
うん、同じだといいなと思いますし、……まぁきっと同じだと思ってますけれどね。ふふ。
そうですね、ちょっと楽しみですね。
二人の性別が違ったらどうするか?
どうしましょうね。
大パニックになりそうです、……社長とファンの方たちが、特に。あはは。
僕らは変わりませんよ。
ずっと一緒にいたんだから、これからもそのままです。
ずっと隣に立って、背中を守って、抱きしめあって生きていきます。
ええ、二人ともそのつもりです。
あはは、聞かなくったって分かります。
だって僕らは、生まれる前から一緒なんだから。
死ぬまで一緒に決まっているじゃないですか。
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