腐れ縁の公爵令息に契約結婚を迫られていますが、離婚してくれなさそうだから嫌です

トウ子

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番外編

うちの坊ちゃんはちょっとおかしい(1)侍女

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「うちの坊ちゃんはちょっとおかしい」

それは、公爵家使用人の共通認識だった。



「……はぁ」

うちの坊ちゃま……コーリー様の乳母であり、「コーリーの世話ができるのはあなたしかいない」と奥様に泣きつかれて現在は専属侍女をしている私も、その意見には心から賛成する。なんなら、今まさに私はそう思っているところだ。

「アイラ、この魔法をどう思う?学校の発表会に出す予定なのだが」

無邪気に尋ねてくる坊ちゃまは、天の使いもかくやというほど可愛らしくお美しい。けれど手に持っているがいただけない。

「そちらはどのようなご用途に?」
「可愛いだろう?カミラの好きな兎をモチーフにしたんだ」
「……なるほど」

坊ちゃまが片手に握りしめている黒い靄のようなものは、兎もどきなのか。

「これは闇の使い魔を模していてな。呪いたい相手の背中に張り付くんだ!そして朝から晩まで、人間には聞こえない高音で叫び続けるんだよ。人の耳には聞こえないからわかりにくいが、魔力干渉を起こすからじわじわ精神負荷がかかって、そのうち寝込むことになる。平和的で可愛らしく、とてもカミラ好みだと思わないかい?」
「……学園の研究発表には不適切かと存じますが。もう少し明るくて楽しくて呑気なテーマの方が好まれるかと」

なんと返事するか迷って、私は淡々と事実のみをお答えした。至極真っ当な価値観をお持ちのカミラ様のお好みでも無いと思うが、私ごときがカミラ様を語ってはお怒りを買ってしまうので、そこについては何も言及しない。

「あー、まぁ教師受けは悪いかもしれないね。仕方ない。でも画期的に平和思考な呪いだし良いと思うんだけどなぁ……試しにカミラに見せてみるよ」
「それがようございますね。カミラ様のご意見をお聞きくださいませ」

申し訳ないが、私にこれ以上の助言……つまり軌道修正は出来かねる。後はカミラ様に丸投げさせて頂くので、どうか良い感じに事を納めて欲しい。公爵家の嫡男が呪いの兎、という名の薄気味悪い黒靄の塊を飼っていると思われたら大変面倒だ。呪いの兎という名称だけで十分に外聞が悪いが。

「それでは失礼いたします。坊ちゃま、もう今日が昨日になるお時間なのですから、お願いですから早く寝てくださいね」
「そうだね!もう少し兎ちゃんを遊ばせてから寝るよ」
「……そのウサギサンをどうかこのお部屋から出さないでくださいませね、怖がりの使用人たちが気絶しそうなので」
「はははっ、こんなに可愛いのに、みんな臆病者だなぁ。でもきっとカミラは気にいると思うんだ」
「そうですね、どうかカミラ様と二人きりの時に見せて差し上げてくださいませ」

そんなおどろおどろしい謎物体……いや物体ではないか。固体というより液体?気体?……考えるのはやめよう。

「ええ、そうですわ。是非とも確実にふたりっきりの時にご披露なさいませ、きっと驚いてくださいますわ」
「そうだね!それがきっとロマンチックだ!」

ルンルンウキウキで仰っているが、坊ちゃまの喜びに合わせるように黒靄も伸びたり縮んだりしていて不気味だ。そして残念ながら、そこはかとなく私も気が滅入ってきたので、しっかり効果がありそうである。変なものを押し付けてすみません、カミラ様。でも。

「カミラ様のお言葉であれば、坊ちゃんのお耳には入るようでございますからね」

私が何を言っても聞いてらっしゃらないけれど。

「申し訳ありません、カミラ様。あなたに全てお任せさせてください……」

色んな謎物体が浮遊もしくは鎮座する坊ちゃんの私室を辞して、私はしみじみと呟いて神に祈るように手を組んだ。



そして数日後、案の定カミラ様に大いに叱責された坊ちゃまが落ち込んで使用人一同に頭を下げにきた。

「ここ数日の皆の体調不良は僕のせいかもしれない。本当にすまなかった」
「いえいえ、大したことにはなっておりませんので大丈夫ですよ」

生温い苦笑もしくは諦めの微笑とともに謝罪を受け入れながら、使用人一同でホッと安堵の息を吐く。
部屋の掃除に入ったメイドをはじめ、部屋からふらふら抜け出した黒靄兎に数多の使用人たちが心身の不調を訴えていたので、ご自覚頂けて良かった。

「カミラに叱られたよ。普通の人たちは魔力が少ないんだから、こんな塊がいたらすぐに具合が悪くなってしまうと。気がつかなくてごめんね」

しょげ返っている坊ちゃまは、素直に反省していらっしゃるようだ。
坊ちゃまは優秀すぎて下々の普通の感覚がお分かりにならず、突飛なことやとんでもないことをしがちなのだ。カミラ様は坊ちゃまと同じくらい優秀だとお聞きするが、男爵家のご出身ゆえか、その辺のバランス感覚が素晴らしい。今回も本当に助かった。

「本当に良い方とのご縁がありようございました」

どうにかカミラ様には、末永く坊ちゃまの管理をお願いしたいものである。




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