腐れ縁の公爵令息に契約結婚を迫られていますが、離婚してくれなさそうだから嫌です

トウ子

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番外編

うちの息子はかなりおかしい1

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「おぉ、コーリーの寝室の上に花火が上がったぞ!」
「あぁあなた……我が家は救われましたわ!」
「本当に……本当によかった……!」

神殿で挙式をあげた時に打ち上がる花火と同じ桃色の、しかし花ではなくハート型の花火を見て、私は夫に抱きついた。
あれは間違いなくコーリーの仕業だ。うちの息子の発想は理解できないが予想はつく。婚姻契約が結ばれたという宣言だろう。いや、単に浮かれているだけという説も否定できないが。

「カミラさんを捕まえられたんだな……!やるじゃないか!」
「本当によかった……犯罪者になったらどうしようかと思っていましたわ……」

淑女にあるまじきことにぼろぼろと号泣しながら、私は逞しい夫の体に縋り付く。

「うまくいかなければ地下を利用させて頂きますので、とかにこやかに犯行予告してきよったからな。本当にどうしようかと思ったよ……」

夫も安堵のあまり脱力している。私達は抱き合いながら、なんとかソファに座り込んだ。二人して情けないことにふるふると震えている。

「地下……もしや地下牢ではなく拷問室ですか!?」
「あぁ、おそらく」
「まぁ……なんてこと……っ」

くらりと眩暈がした。地下牢に閉じ込めるだけでもかなり狂った真似だが、拷問室を使用する気だったと思うと背筋が凍る。

「……アイツは、媚薬と媚香だけじゃなく、洗脳薬に幻覚剤……大量に仕入れていたよ。ついでに魔法具もイロイロ作っていたようだ。ソッチの才能がありすぎて、私はコーリーが恐ろしいよ」
「おぉ、神よ……」

遠い目をする夫は、私が恐ろしくて足を踏み入れたことのないコーリーのを覗いてしまったのだろう。私は呻いて目を伏せると、そのまま強く手を組み神に感謝を捧げた。

「我が息子が犯罪に手を染める前にカミラさんを与えて下さり感謝いたします……!」
「そうだね」

うっすらと濡れていた目元と額の冷や汗を拭いながら、夫が私を抱いてしみじみと呟く。

「カミラさんくらいの子ならきっとコーリーを抑え込める。私はそんなに信心深くはないのだが、あの子との巡り合わせだけは、本当に心から神に感謝しているよ」
「普通の子では、コーリーと向き合って喧嘩するなんて、不可能ですものね」

魔力量が多すぎて、幼い頃は癇癪を起こすたびに我が家を半壊させたり、領地の城の一角を吹き飛ばしたりしていたコーリーだ。しかも生まれ持っての魔力の強さに加えて、忍耐の足りなさからコーリーは魔力漏れが多い。魔力の少ない者だと当てられて魔力酔いしてしまう。コーリーを怒らせたりしたら、漏れてくる魔力に酔い、一瞬で倒れてしまう者がほとんどだろう。そのため、昔から接触できる人間が少なかった。

「いまだに魔力漏れしてるからなぁ、アイツは」
「あら。カミラさんに『お漏らし』と言われてからは、だいぶマシになったのですよ」

赤ちゃんのお漏らし、と笑われて沽券に関わると思ったらしく、コーリーは一時期必死に精神統一の修行をしていた。魔力量にもよるが、普通は幼少期に終わる訓練だが、コーリーは思春期になってやっと完了したのだ。母親でありながら、コーリーは魔力が多すぎるから仕方ないと指導を諦めていた私は深く反省したものだ。やればできる子なのだ。やらないだけで。

「カミラさんがコーリーに萎縮せずガンガン言ってくれる子でよかった……」

心底から呟く夫を、私はクスリと笑って揶揄うように見上げた。

「私たちではコーリーに敵いませんものねぇ」
「まぁ……あの子は強すぎるからね……」
「子供相手に本気を出せないのは、恥じることじゃありませんわよ。親のあるべき姿かと思いますわ。……おかしいのはあの子ですのよ」

己の不甲斐なさを恥じるように肩を落とす夫の背をさする。夫のせいではない。たしかにコーリーのほうが魔力も多くあらゆる意味で強者だが、どう考えても夫の方が人として上だ。

「あの子、私たちには殺す気で向かってくるじゃないですか。親子喧嘩で死傷事件なんて洒落になりませんわ」
「そうだね……何事もなくここまで来れてよかった」
「ご気性の荒い者同士で気が合っていたお祖父様とも、大喧嘩して城を吹き飛ばしてしまいましたし」
「あーーー、そんなこともあったね!?」

私は「はぁ」と大きなため息を吐きながら過去の惨憺たる事件簿を振り返った。

「はぁ、今後カミラさんは大丈夫だろうか」
「カミラさんにはメロメロだから本気を出せないようなので、夫婦喧嘩をしても安心だと思いますわよ?逆に、カミラさんを傷つけたら親といえども一瞬で灰燼に帰されるかと」
「君は辛辣だね」

本心からカミラさんを心配している夫には悪いが、私はコーリーの危険性をずっと身近で見て、そして尻拭いに追われて生きてきたのだ。あの自滅型破壊魔を、甘い目では見られない。

「私は我が子のことを、よく理解しておりますのよ。あの子は親のことを殺しても死なないと思ってますから、平気で殺傷能力最高峰の火の塊とか投げてきますわ」
「森ひとつ燃やしたやつか。アレ、あの後どうなったんだ?」

我が領地の端にあった森が、ある日唐突に姿を消したのだ。すわ戦争か天変地異か、と大騒ぎになった。大いに慌てて各地への言い訳と謝罪行脚のために奔走した夫は、その後の現地での経過は知らなかったのだろう。私は薄笑いを浮かべながら説明した。

「話を伝え聞いて、国家間情勢だけでなく、そこに住む動植物への配慮があまりにも足りないとカミラさんが激怒してくれまして。反省したあの子が木を一本ずつ手植えして、その後は毎週末倒れるまで発育魔法をかけ続けましたよ。おかげでそこそこのところまで復活しました。動物達も少しずつ戻ってきております。監督が大変でした。もう二度とやりたくありませんわ」

動物達の亡骸を涙目のカミラが一頭一頭丁寧に埋葬しているのを見て、コーリーはやっと激しい罪悪感と後悔を抱いたようだ。何度もカミラと森と生き物達に謝りながら、必死に森を再生させていた。

「あー、カミラさんの耳に届くようにしたわけか。よくやったな」

感心したように言う夫に、私は拗ねたように頬を膨らませた。

「私のいうことなんか、聞いちゃおりませんもの。カミラさんには傷一つ付けたくないくせに」
「ははっ、親の言うことを聞かないのは、子供にはよくあることだろう」

宥めるように言う夫も、コーリーのが、そんな範囲におさまらないことはよく分かっている。
環境が原因か、それとも生来の性質か、コーリーは長じてからも人付き合いが下手で、扱いが難しい子だった。

気性の激しさや極端さから友人どころか知人も少なく、まともに対峙できるのは近しい身内だけという有様だ。
王太子殿下や騎士団長の息子など、国内トップクラスの家柄と能力を併せ持つ者たち相手ならば、と顔合わせさせてみたりもした。コーリーは幸か不幸か能力も極端に高いので、彼らにも興味を持たれたようで、今でも交流は続いている。しかし基本的に他人に興味がないコーリーにとって、彼らも関心を引くほどの存在ではなかったようだ。コーリーの興味は魔法と魔力の方面に偏っており、コーリーよりもその分野に秀でる者はいなかったのだ。総合的に見れば同格以上の相手でも、コーリーにはどうでもいい存在でしかなかったのだ。
そして、彼らも賢い子達だったから、コーリーの興味のなさを察して、それ以上は踏み込んでこなかった。

つまり、コーリーにはそれまで友達がいなかったのだ。

友達というものを知らないままであれば、そのまま孤高の天才として飄々と生きていくことも出来ただろう。
しかし幸か不幸か、あの入学式の日に、コーリーは出会ってしまったのだ。

カミラさんという存在に。

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