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神殿送りになった転生ヒロイン、隣国の皇太子のMっ気を開花させてしまったので責任を取ります

まさかの超ヌルゲー展開?1

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結論から言えば、帝位簒奪は全然余裕だった。

知力の限りを尽くして回避する毒殺者の罠や、暗闇から飛び出てくる暗殺者、大量の凄腕傭兵などなど、命の危険があるイベントは多数あった。私の覚えていないものも幾つかあった。しかし。



「……私の治癒魔法、チートすぎる。我ながらドン引きしちゃう」

死なない限り生かせる『私』というスーパーチートアイテムを持つアルベルトが、負けるはずがないのだ。どんな時でも「死なないように」するだけでいいのだから。どこまでも勇敢で、どこまでも命知らずになれてしまう。

「致死毒も致命傷も、ほぼ効かないもんね。即死しなけりゃオッケーってすごいわよねぇ」

女連れで反乱軍の先陣を切って突っ走っていたため、私はアルベルトの溺愛する恋人だと勘違いされていた。そして戦場に女を連れてくるほど恋に目がくらんだアルベルトなら、私が弱味になるに違いないと狙われることが多かった。

しかし、アルベルトの周りは頭がおかしい奴らばかりだった。

「聖女様を守れぇええええ!!」
「聖女様さえ生きてりゃ何とかなるッ!!」
「腕でも脚でも持ってけぇえええ!!」
「やめてやめてやめっ、あーーーッなんか飛んできたぁあああ!?」

彼らは私を守るために、代わりに斬られ撃たれ捥がれ裂かれてくれたのだ。捨て身の攻撃に捨て身の防御である。
つまり腕が千切れ、足が飛び去り、下半身が潰れて……思い出したくもない。

「アルベルト様より聖女様を守れぇえええ!!」
「何でそうなる馬鹿野郎どもっ!?ぐわっ!」
「わぁあああ皆で矢ガモじゃないの!?」

自ら降り注ぐ矢の中へ突っ込む馬鹿野郎軍団の先頭で、私は必死で己に防御魔法をかけつつ、周囲で血まみれになっている狂人達を治癒しまくった。

「アルベルト様ッ、ちゃんと聖女様の前に立ってて下さいよ!」
「お前ら堂々と俺を盾役にするなぁあああ!」
「刺さってる刺さってる!!」

忠誠と剣を捧げた主人に堂々と盾役を言いつける部下達と、なんだかんだ言いながら私の盾に徹しているアルベルト。降りしきる血の雨の中で治癒魔法と回復魔法をかけまくる私。
謎の状況に私はひたすらブチ切れていた。

「何なのこれ!?なんで攻略キャラが串刺し血まみれになりながら進軍してんのよ!」
「死なないなら問題ない!勝つのが先だ!」
「「「死ぬこと以外かすり傷ーッ!!」」」
「マジかよぉおおお!?」

アルベルトも、アルベルトの配下の者達も、大層現実主義な脳筋だった。

アルベルトに矢が当たっても私が治せる。だからアルベルトより私が優先。
私が生きている限りアルベルトも死なない。だから、私だけは完璧な状態で生かさねばならない。

気持ちはわかる。
しかし彼らは、だと思って動いているのだ。アルベルトを含めて。

「各自ッ、頭と心臓だけは守れぇえええ!!」
「うぎゃああああ心臓は守っぐふっ……ッ」
「ぐぉおおおおお腰から下が潰れッガハッ」
「いやぁあああ無茶するなぁあああ!?」

目の前で死にかける奴らに全力で治癒魔法と回復魔法を重ねがけする。奴らは動けるようになるとまた走っていった。マジか。

「痛みは普通にあるのに、あいつらの脳と神経はどうなってるのよ!?」
「心頭滅却すれば痛みなどない」
「あるわ!!」

目の前のアルベルトは達観した顔で淡々と私と会話をしつつ、剣を振るい敵を倒しながら、ついでに己も背中に矢を受けまくってる。どんな攻略キャラだ。こんなスチルは前世でも見てないぞ。

「死ぬこと以外はかすり傷だ」
「うっかり死んだらどうすんのよ!!」
「それもまた天命だろう」
「馬鹿者がーーッ!」

たしかに私と言うチートアイテムがいる以上、彼らの方針はある意味で理にかなっているが、普通は机上の空論だ。実行するのが馬鹿すぎる。

「もういやぁああああ!!どれだけ死にかけてんのよぉおおお!?」

私は死ぬ気で四方八方に治癒魔法を放ち、回復魔法をかけまくった。敵も味方も無関係である。判別している暇はない。うっかり死んでしまう。
心臓が潰れたり首が飛んだら流石にどうにもならないので、とりあえず味方側のみんなには、胸から上だけは死守してもらった。おかげで死者はいない。よくもまぁあんな無茶をして、誰も死なずに済んだものである。奇跡だ。

「暴虐帝を追い詰めたぞぉおおおお!!いけぇええええ!!」
「えっ、もう王宮なの!?」

私が生きていれば死なないと確信している彼らは恐ろしいほど強かった。
脅威の進軍速度で都を駆け上り、王宮を攻め上がり、皇帝の寝室へと雪崩れ込み、突然の展開に目を白黒させながら秘密通路に逃げ込もうとしていた皇帝をあっさり捕らえた。

そして先ほど、暴虐帝と呼ばれたアルベルトの父は、首を刎ねられたのである。




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