50 / 224
エピソード14
忍び寄る「黒」と赤い過去(6)
ユリアが目覚めるのを待ってから、
オレたちは、客間へと移動した。
オレとユリア、ヴィンセントとセシルで向き合ったソファに腰を下ろす。
すると、メイドの一人が音もなくお茶を運んできてくれた。
セシルは始終俯いたままだ。
「……ごめんなさい」
やがて、メイドが部屋を後にすると、彼はポツリと言った。
続く言葉を待てば、再び押し黙ってしまう。
沈黙。
気まずい空気を破ったのは、ユリアだった。
「頭を上げてください、セシル。
何か……理由があったんでしょう?」
「それは……」
言葉を探すセシルに変わって言ったのは、ヴィンセントだった。
「……セシルは、主人を失った死徒なんだ」
「死徒?」
思わず問い返す。
死徒とは、ヴァンパイアに吸血されたーーいや、ユリアに言わせれば、
ヴァンパイア特有の体液を注入され、意思や感情を奪われた存在ではなかったか?
この屋敷のメイドや、使用人たちのように。
ユリアも同じことを思ったらしく、目を大きく見開いた。
「本当ですか? 君は、自己紹介の時にヴァンパイアだって……」
「……ごめんなさい。
だけど、初めに死徒だって言っても信じてくれないと思ったし、
なにより……正直に告げたら、相手にして貰えないと思って」
「叔父さんとルミールの街で意気投合したというのは……」
「そっ、それは本当だよ! ハルさんと食事もしたし観光もした。
ユリアの友達になってって言われたのもウソじゃない!」
「だけど、お前には他の目的があった。それを聞きたいんだよ」
「う……だから、それは、つまり……」
セシルはちらりとヴィンセントを見た。
それから、何やら苦しげにギュッと服の裾を握り締める。
「端的に言えば――ユリア。あんたに、セシルの保護者になって欲しい」
黙り込んだ彼の代わりに、ヴィンセントが応えた。
「保護者……?」
「ああ。死徒にはヴァンパイアのような力はない。
弱点だけ増えた<人間だったモノ>だ。
本来、死徒にはそれを従えるヴァンパイアがいる。
しかしセシルにはいない。
人間に死徒だとバレれば最後、異端処刑官が即座にやって来て灰にされる。
それか、教会の研究施設送りだ」
「ヴィンセント、待ってよ。ボクは……」
「今までは、俺が守ってきた。
だが、俺は人間だ。命に限りがある。
だから代わりになる保護者を探していた」
「なるほどな」
オレは小さく頷くと、何か言いたげなセシルに視線を移す。
「セシル。ヴィンセントの話は本当か?」
「…………ウソじゃない」
「そうか」
間が気になったが、彼は否定はしなかった。
ユリアはしばらく思案げに目線を落とし、
ついで申し訳なさそうに眉根を寄せる。
「……セシル。君の願いは叶えてあげたい。
だけど、僕には……君を守る力はないと思う」
オレたちは、客間へと移動した。
オレとユリア、ヴィンセントとセシルで向き合ったソファに腰を下ろす。
すると、メイドの一人が音もなくお茶を運んできてくれた。
セシルは始終俯いたままだ。
「……ごめんなさい」
やがて、メイドが部屋を後にすると、彼はポツリと言った。
続く言葉を待てば、再び押し黙ってしまう。
沈黙。
気まずい空気を破ったのは、ユリアだった。
「頭を上げてください、セシル。
何か……理由があったんでしょう?」
「それは……」
言葉を探すセシルに変わって言ったのは、ヴィンセントだった。
「……セシルは、主人を失った死徒なんだ」
「死徒?」
思わず問い返す。
死徒とは、ヴァンパイアに吸血されたーーいや、ユリアに言わせれば、
ヴァンパイア特有の体液を注入され、意思や感情を奪われた存在ではなかったか?
この屋敷のメイドや、使用人たちのように。
ユリアも同じことを思ったらしく、目を大きく見開いた。
「本当ですか? 君は、自己紹介の時にヴァンパイアだって……」
「……ごめんなさい。
だけど、初めに死徒だって言っても信じてくれないと思ったし、
なにより……正直に告げたら、相手にして貰えないと思って」
「叔父さんとルミールの街で意気投合したというのは……」
「そっ、それは本当だよ! ハルさんと食事もしたし観光もした。
ユリアの友達になってって言われたのもウソじゃない!」
「だけど、お前には他の目的があった。それを聞きたいんだよ」
「う……だから、それは、つまり……」
セシルはちらりとヴィンセントを見た。
それから、何やら苦しげにギュッと服の裾を握り締める。
「端的に言えば――ユリア。あんたに、セシルの保護者になって欲しい」
黙り込んだ彼の代わりに、ヴィンセントが応えた。
「保護者……?」
「ああ。死徒にはヴァンパイアのような力はない。
弱点だけ増えた<人間だったモノ>だ。
本来、死徒にはそれを従えるヴァンパイアがいる。
しかしセシルにはいない。
人間に死徒だとバレれば最後、異端処刑官が即座にやって来て灰にされる。
それか、教会の研究施設送りだ」
「ヴィンセント、待ってよ。ボクは……」
「今までは、俺が守ってきた。
だが、俺は人間だ。命に限りがある。
だから代わりになる保護者を探していた」
「なるほどな」
オレは小さく頷くと、何か言いたげなセシルに視線を移す。
「セシル。ヴィンセントの話は本当か?」
「…………ウソじゃない」
「そうか」
間が気になったが、彼は否定はしなかった。
ユリアはしばらく思案げに目線を落とし、
ついで申し訳なさそうに眉根を寄せる。
「……セシル。君の願いは叶えてあげたい。
だけど、僕には……君を守る力はないと思う」
あなたにおすすめの小説
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
夫婦喧嘩したのでダンジョンで生活してみたら思いの外快適だった
ミクリ21 (新)
BL
夫婦喧嘩したアデルは脱走した。
そして、連れ戻されたくないからダンジョン暮らしすることに決めた。
旦那ラグナーと義両親はアデルを探すが当然みつからず、実はアデルが神子という神託があってラグナー達はざまぁされることになる。
アデルはダンジョンで、たまに会う黒いローブ姿の男と惹かれ合う。