人狼坊ちゃんの世話係

Tsubaki aquo

文字の大きさ
76 / 224
エピソード17

終わりなき行く末(6)

しおりを挟む
* * *

 馬車の中で、ボクは涙を手の甲で拭った。
 座席が揺れて尻が跳ねる。それに、しゃくりあげる声が重なる。

 隣に座ったヴィンセントが、ハンカチを差し出してくれた。
 ボクは受け取ったそれに顔を埋めて、声を押し殺した。

「……セシル」

 ヴィンセントに呼ばれて、ボクは鼻をすすると顔を持ち上げる。

「なに」

「しばらく俺の旅に付き合って欲しい」

「旅?」

「この体を治す方法を探したい」

 思わぬ言葉に、ボクはポカンとしてヴィンセントを見た。

「……ユリアに聞いたの?」

「ああ」

「……そう。
 い、良いんじゃないかな。
 ボクはか弱いから、荷物持ちがいないと困るし。
 長生きしてくれるなら、それが一番――」

「お前と一緒に生きたいのは、俺も同じだ」

「……っ」

 息を飲んで、ボクはヴィンセントから後退る。
 ガコンッと壁にぶつかって、馬車が揺れた。

「な、なんだよ、急に。
 ボクは、ボクは……お前と生きたいだなんて……そんなこと……」

 口から出そうになった言葉を無理やり飲み込む。

 本音を言ったら、ヴィンセントを困らせるからだ。
 彼は人間で、ボクはそうじゃなくて……

『ヴィンセントさんは、人として生きて
 死にたいんじゃないんですか』

 ユリアに言われて、ハッとしたんだ。
 ボクが取り戻したくても叶わない、生活。
 人として生きて、死ぬこと。
 それを取り上げるだなんて、
 ボクは、ボクをこんな体にしたアイツと同じことをしようとしてたって気付いた。

 だから、諦めようと思った。
 ヴィンセントを最期まで見守って、
 それでサヨナラしようと思った。それなのに。

 なんで今、言うんだよ。
 お前、タイミング悪すぎるよ。

「……嫌だと、思ったんだ」

 押し黙るボクに、ヴィンセントは言った。

「……イヤ? 何が?」

「自分が死んだ後のことを、考えてみた。
 オレはお前みたいに想像力が豊かじゃないから、
 今まで考えたこともなかったんだが……」

「やっとお守りから解放されて、嬉しいんじゃないの」

「嬉しくなる予定だったんだがな。実際は逆だった。
 お前が1人で泣いている時、
 何もできないと思うと、酷く苛立った」

 ヴィンセントが苦笑いを浮かべる。

「……別にお前がいなくたって、ボクは何不自由なくやれるよ。
 泣くようなことがあっても平気だ。子供じゃあるまいし」

「ああ。それも嫌なんだ」

「……はあ?」

 ヴィンセントらしからぬ曖昧な言い草に、気の抜けた声が漏れ出る。
 彼はふい、と暗い窓の外に目線を移した。
 そんな彼にボクは問う。

「……なんで、イヤなんだよ」

「さあな」

「何それ。キモい。いいから、言えよ」

「断る」

「言えってば!」

 腕を引っ張れば、彼はボクを振り返り顔を綻ばせた。

「いいのか? 言って。本当に?」

 ボクはギクリとして唇を引き結んだ。

 なんとなく、続きを聞いてはいけない気がする。
 聞いてしまったら最後、何かがガラリと変わってしまいそうで……
 
「……やっぱり、いい。聞かない」

「もう手遅れだ」

 逆に抱き寄せられて、頬にカッと熱が集まった。

「きっ、聞かないって言ってるだろ!」

 ヴィンセントが唇を寄せてくる。

「おい……ちょ、離せってば……」

 予想以上に彼の精悍な顔が近くにあって、体が強張った。
 そして、ヴィンセントは唇を開いた。

「――――――っ」

 ふぅっと耳たぶに吐息が吹き掛かる。
 唖然として唇を開閉させれば、ヴィンセントが声を出して笑った。

「はっ、はは」

「な、な、なっ……おま、お前っ、ボクをからかったな!?」

「ははっ、はははは……っ!」

 ボクは拳を握り締めると、彼の筋肉質な腕を思い切り殴った。

「バカ! バーーーーーーカ! ヴィンセントのバカ!!」

 ……舗装のされていない道を、大きく揺れながら馬車は進んでいく。

 次にユリアに会う時も、ヴィンセントが一緒だといい。
 ……そうじゃなきゃ、イヤだ。

 ボクは思いつく限りの罵詈雑言を並べ立てながら、
 心の中で強く祈った。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

処理中です...