人狼坊ちゃんの世話係

Tsubaki aquo

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エピソード21

麗しき僧服の男(6)

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 何で忘れてたんだよ……!

 オレは自分を殴り飛ばしたい思いに駆られた。

 傭兵時代に1度だけ立ち寄ったことがある。
 とある地方へ向かう途中のことだ。

 何一つ印象に残っていなかったのは、
 当時のオレにとっては、本も、祈りも、興味の対象では無かったからだろう。

 馬から下りると、スヴェンが2枚の羊皮紙を手渡してきた。

「どうぞ。こちらがお二人の滞在許可証です」

 スヴェンの話が、右耳から左耳へと抜けていく。

 どうする?
 今、すぐ、街を出るか? でも、もう入っちまったしな……

「それでは、宿屋に向かいましょう。
 僕の知り合いですから、良くしてくれますよ。
 荷物を置いたら、図書館へ出発です!」

「ありがとうございます!」

 スヴェンが気合いを入れるように、拳を振り上げる。
 ユリアも同じようにした。

 そんな彼らを前に、水を差すようなことは憚られた。

 何か起こってからでは遅いが、
 幸いユリアは銀には反応しないし、昼間も歩き回れるのだ。

 彼が夜の眷属だと、見抜ける輩はいないだろう。

 ……あの屋敷に来た奴らを除いて。

 屋敷を襲撃してきた異端処刑官たちは、
 ユリアをみている。
 しかし、あれほど視界の悪い場所で、
 しかも大きなケガをしながら、
 ユリアに関して、どれほどの情報を得ることが出来たかどうか……

 大したことはないはず、と思うのは希望的観測だろうか?

「それでは、後ほど。
 大通りの噴水広場で落ち合いましょう!」

「はい!」

 スヴェンと別れ、宿で手続きをしながら、
 オレはユリアに話すべきか悩み続け、
 結局、言い出せないまま、噴水広場に到着してしまった。

* * *

 スヴェンと再び合流し向かった先の図書館は、
 賑やかな大通りから外れた、静かな場所にあった。

 隣には、驚くほど立派な礼拝堂があり、
 正午を告げる澄んだ鐘の音が聞こえてきた。
 少し小腹が空く頃合いだ。

「メティスには、20近くの教会がありますが、
 中でもこの礼拝堂はとても歴史的価値が高くてですねっ……」

 噴水広場からの道すがら、スヴェンはずっとしゃべりっぱなしだった。
 ユリアはその一つ一つに大げさに感動し、頷くから、
 彼も話しやすかったのかもしれない。

 オレはと言えば、どう自然な流れで街を出るかしか考えていなかった。

「……と、すみません。色々と話してしまって」

 図書館の入口に辿り付くと、スヴェンは肩を竦めた。

「捜しているのは『デュランダルの詩』ですよね。
 あれは古い作品だから、閉架から出して貰う必要があるかも」

 緻密な細工の施された豪勢な扉を開き、
 図書館へ足を踏み入れる。

 中央には吹き抜けの階段があり、踊場には大きな宗教画が飾られていた。
 想像以上に広いフロアには、所狭しと背の高い本棚が並べられている。

「凄い本ですね……」

「この大陸一の図書館ですから」

 驚き立ち尽くすユリアに、スヴェンが胸を張る。
 それから彼はオレとユリアを連れてカウンターに向かった。

「すみません、『デュランダルの詩』の5巻を捜しているのですが」

「少々お待ちください」

 カウンターの男はオレたちに丁寧に頭を下げてから奥へと引っ込む。
 スヴェンはカウンターに腕を置いて、
 ニコニコしながらオレを振り返った。

「それにしても、バンさんは文学研究か何かをしているんですか?」

「なに?」

「古代スピキア語をわざわざ勉強してるなんて、
 よっぽど本が好きなんだなあって思ったんですけど……
 違うんですか?」

「古代……?」

 小首を傾げると、スヴェンも困った顔をした。
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