人狼坊ちゃんの世話係

Tsubaki aquo

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エピソード21

麗しき僧服の男(7)

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 よくよく話を聞けば、オレがユリアに教わった言語は、
 現在では古典文学でしか見掛けることがないものらしい。

「あー……そういうことか」

 オレは1人、納得した。
 話し言葉と読み言葉がここまで違うのかと何度も挫折しかけたが、
 そもそも口語ではなかったのだ。

 ユリアも気付いていなかったらしく、
 スヴェンの話を聞いて、目を丸くしている。

 そんな話をしていると、受付の男が戻ってきた。

「お待たせいたしました。こちらになりますね」

 差し出されたのは、見覚えのある革張りの本だった。

「良かったですね、バンさん」

「ああ、うん……」

 嬉しそうにするユリアに、オレは曖昧に頷いた。と――

「それでは、一等市民以上の住民票を確認させてください」

 受付の男の言葉にスヴェンがえっと声を上げた。

「滞在許可証ではダメなんですか?」

「街外の方ですか?
 それでしたら、所属する支部名を教えてください」

 オレたちは顔を見合わせた。

「支部名?」

「洗礼を受けた教会の名前が必要なんですよ」

「あー……」

 言葉を探して口籠もると、察してくれたのかスヴェンが続けてくれた。

「すみません、彼らは教会の人間ではなくて……」

「でしたら、こちらの本はお貸しすることは出来ません。
 貴重本ですから」

「館内で読むのもダメですか?」

「申し訳ございません」

「そこをなんとか……」

「スヴェン、もういいって。ありがとな」

 更に食い下がろうとしてくれたスヴェンを、オレは止めた。

「ですが……せっかくここまで来たのに」

「まあ、仕方ねぇよ」

 500年も前の本ならば、残っている冊数も少ないだろう。
 身分の保障か出来ない相手に貸し出しを断るのは、
 紛失や盗難のことを考えると当たり前だった。

「……そうですか。本当にすみません。お役に立てず。
 僕の名義で借りられたら良かったんですけど……僕は二等市民だから……」

「ここまで案内してくれただけで十分だって」

 そもそも読み終えるまでこの街に滞在は出来ないだろう。
 それに、本が無かったとなれば、
 この街を早めに出て行く理由になる。

「縁があれば、どっかでまた読めるだろ」

 肩を落とすスヴェンに笑ってみせる。
 するとユリアが目を輝かせて口を開いた。

「あの、それじゃあ、街の案内をお願いしてもいいですか?」

「ユリア?」

「お祭りなんでしょう?
 せっかくここまで来たんです。楽しんでから帰りましょうよ」

「……それもそうだな」

 一瞬、不安が過ったが、
 明日、朝一で街を出るなら問題ないだろうと考え直す。

「案内なら任せてください! 得意ですから!」

 スヴェンが小声で頷いた。
 ーーその時だ。

「どうかしたんですか?」

 凜とした美しい声が耳に届いて、オレたちは振り返った。
 見れば、白い僧服をまとった美しい男がこちらへ向かって歩いてくる。

 白銀の髪をなびかせるその姿は、
 どんな賞賛も色褪せてしまうほど、神々しい。
 
「ジルベール様!」

 今にも跪く勢いで、スヴェンが声を上げた。
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