人狼坊ちゃんの世話係

Tsubaki aquo

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エピソード21

麗しき僧服の男(8)

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 スヴェンは、探していた本が借りられないことを、
 切々と、男――ジルベールに訴えた。

「……なるほど。そういうことだったんですね」

 彼は神妙に頷くと、カウンターに近付いた。

「彼にその本を貸してあげてはくれませんか?」

「し、しかし、ジルベール様。規則で禁止されておりまして……」

「彼らはその本を読むために、
 わざわざメティスまで来たと言うではありませんか。
 それを無碍にするというのは、いかがなものでしょう?
 そもそも本というものは、万人に知識を与えるためのものであり、
 崇めたり、奥深くにしまい込んだりするものではありませんよ」

 受付の男が困り切った顔をする。
 ジルベールは優しげに目を細めると続けた。

「もちろん、このことに関して私が全て責任を持ちます。
 ですから、どうか彼らに貸してあげてください」

「……ジルベール様が、そこまでおっしゃるのでしたら」

「ありがとう。
 神は全ての行いを見ていて下さいます。あなたに祝福のあらんことを」

 本を受け取ると、
 ジルベールはそれをオレに差し出した。

「さあ、どうぞ」

「あ、ありがとう……ございます」

 オレは躊躇いがちに本を掴む。
 すると、彼は手を離さなかった。

 訝しみ顔を持ち上げれば、
 澄んだ蒼い瞳がこちらをひたと見つめていた。

「あの?」

「あなたは、不思議な目の色をしていますね」

「は……?」

「月の色だ。
 どちらからいらしたんですか?」

 オレはユリアと顔を見合わせてから、適当な地方の名前を告げた。

「そうですか。そんな遠いところから……」

 ジルベールは小さく目を見開くと、
 何処か思案げに目線を足元に落とす。

 その時、外から爆竹の鳴る音が聞こえてきた。

「……すみませんね、騒がしくて。
 メティスの祭りは後3日で終わります。
 普段は静かな街ですので、ゆっくり読書も楽しめると思いますよ」

 そう言うと、彼は優雅に頭を下げた。

「……それでは、私はここで。
 どうぞ、この街を楽しんでくださいね」

 銀髪を揺らし、踵を返す。

 オレたちは息を詰めて歩み去る彼の背中を見送った。

「すげー、綺麗な男だな」

「ええ、絵の中の人みたいです……」

 声を発するのも憚られるような、厳粛さを覚えていると、
 スヴェンがソワソワしながら、口を開いた。

「……バンさん、ユリアさん。
 あの、すみません。街を案内するというお話なんですが……
 お二人で行って貰ってもいいですか?」

「構いませんけど……どうかし――」

「本当にごめんなさい!」

 勢いよく頭を下げ、彼はジルベールの背を負った。

「あのっ、ジルベール様!
 お話ししたいことが……っ!!」

 足を止めたジルベールの横に、スヴェンが恐縮した様子で並ぶ。
 やがて、2人の姿は見えなくなった。

「偉い人なんでしょうか?」

「たぶん?」

 オレは手渡された本を丁寧にリュックに詰め込む。
 すると、ユリアの方から、ぐきゅるるっと腹の虫の音が聞こえてきた。

「なんだ、お腹空いたのか?」

「実は、さっきからペコペコで……」

「そか。じゃあ街の方に行ってみようぜ。
 祭りも気になるしさ」

 明日の朝には街を出る。
 そう決めて、オレはユリアと一緒に図書館を後にした。
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