136 / 224
エピソード23
眠れる、熱い毒(6)
しおりを挟む
* * *
「どぅわぁぁぁあああ…………ッッ!」
叫び声が尾を引き、風景が矢のように流れていく。
瞬きする間もなく、眼前へと迫る民家の屋根が迫った。
体を丸めることでなんとか無傷でそこへ飛び乗ることに成功したが、
勢いまでは殺すことは出来ない。
そのままゴロゴロと屋根を転がり、
オレは真下にあった木箱の上に落下する。
「ンのやろ……殺す気かよ……っ!」
「あの辺りに落ちたぞ!!」
耳に届いた怒声に、オレは素早く身体を起こした。
続いて、すぐさま空を見上げると、
路地の間から見える塔の位置を確認し、狼野郎と合流すべく地を蹴った。
「くそ……」
投げられるとは思わなかったが、投げられた理由は分かる。
オレがあそこに居ては、まともに戦うことができないからだ。
流石のあいつでも、あの数を相手にしながら、
心臓を持つオレのことを守るのは難しいだろう。
ヤツはヤツなりに、信用してくれている。
……たぶん。
そう思うことにして、俺は身を屈めながら路地裏をひた走った。
「こっちだ!!」
声と共に、四方から金属がこすれる音が響いてくる。
このままでは袋小路に追いつめられ、捕まえられるのも時間の問題だ。
しかし、あいつが作ってくれたチャンスを、
ここでオレが無に帰すわけにはいかない。
オレは道の端に転がっていたゴミ箱を踏み台に壁へ跳ねると、
三角飛びの要領で向かいの家の屋根の端に掴まった。
「上に登っちまえば、追いかけて来られねぇだろ……」
そのまま、屋根へと上がろうとして──
「ッ!?」
視界の端に映った金属のきらめきに、
オレは体を持ち上げた勢いのまま屋根の上を前転する。
そんなオレを追うように、数本の矢が飛んできた。
「あっちに登ったぞ!」
「避けなかったら、顔に当たってたぞ今の……」
向こうも余裕がなくなってきたのか、それとも目的を忘れているのか、
明確な殺意を持って弓矢を放っている。
オレは屋根の上を走り抜け、通りの向こうの家へと飛び移った。
そして、そのまま別の路地裏へと降り立つ。
ヤツらと追いかけっこを続けたところで、時間を引き延ばすことにしかならない。
一刻も早く、狼がいるであろう見張り塔の前へ辿り着かなければ。
「ユリア、ここから絶対一緒に逃げるからな」
そう独りごちり、オレは再び闇の中を駆けた。
* * *
その姿は、まさに人狼だった。
ユリアさんが、人狼へと変貌してしまった……
僕が、その事実をどう受け止めたらいいのかと迷っていると、
人狼はバンさんの首根っこを掴み、信じられないことに遠くへ投げ飛ばした。
「どぅわぁぁぁあああ…………ッッ!」
悲鳴が遠ざかっていくと同時に、
人狼は武装した神官たちへ向かって真っ直ぐに突進していく。
一瞬見えた人狼の表情は、
何処か満足したかのような笑みを口元に笑みを浮かべていた。
そして、
「ぎゃあああああっ!」
幾人もの悲痛な叫び声が静かな夜に響き渡る。
松明に照らし出された黒い影たちが、
無造作に地面に叩きつけられ、そして投げ飛ばされていく。
それでも、僕らを包囲していた男たちは次々に人狼へ立ち向かった。
バンさんの指示に従って物陰に滑り込んでいなかったら、
僕は彼らに踏み潰されていたかもしれない。
「弱いな。 こんなものでは準備運動にもならないぞ?」
「化け物め……」
「銀が効かないなんて、どうしたらいいんですか……!?」
「ええい、怯むな! 回復するよりも早く切り刻んでやるまでだ!」
僕は震える足に力を入れると、教会の人間の意識が完全に人狼へと向いた隙に、
彼らとは逆方向へと逃げ出した。
今、僕にやれることはない。
……今は、まだ。
「どぅわぁぁぁあああ…………ッッ!」
叫び声が尾を引き、風景が矢のように流れていく。
瞬きする間もなく、眼前へと迫る民家の屋根が迫った。
体を丸めることでなんとか無傷でそこへ飛び乗ることに成功したが、
勢いまでは殺すことは出来ない。
そのままゴロゴロと屋根を転がり、
オレは真下にあった木箱の上に落下する。
「ンのやろ……殺す気かよ……っ!」
「あの辺りに落ちたぞ!!」
耳に届いた怒声に、オレは素早く身体を起こした。
続いて、すぐさま空を見上げると、
路地の間から見える塔の位置を確認し、狼野郎と合流すべく地を蹴った。
「くそ……」
投げられるとは思わなかったが、投げられた理由は分かる。
オレがあそこに居ては、まともに戦うことができないからだ。
流石のあいつでも、あの数を相手にしながら、
心臓を持つオレのことを守るのは難しいだろう。
ヤツはヤツなりに、信用してくれている。
……たぶん。
そう思うことにして、俺は身を屈めながら路地裏をひた走った。
「こっちだ!!」
声と共に、四方から金属がこすれる音が響いてくる。
このままでは袋小路に追いつめられ、捕まえられるのも時間の問題だ。
しかし、あいつが作ってくれたチャンスを、
ここでオレが無に帰すわけにはいかない。
オレは道の端に転がっていたゴミ箱を踏み台に壁へ跳ねると、
三角飛びの要領で向かいの家の屋根の端に掴まった。
「上に登っちまえば、追いかけて来られねぇだろ……」
そのまま、屋根へと上がろうとして──
「ッ!?」
視界の端に映った金属のきらめきに、
オレは体を持ち上げた勢いのまま屋根の上を前転する。
そんなオレを追うように、数本の矢が飛んできた。
「あっちに登ったぞ!」
「避けなかったら、顔に当たってたぞ今の……」
向こうも余裕がなくなってきたのか、それとも目的を忘れているのか、
明確な殺意を持って弓矢を放っている。
オレは屋根の上を走り抜け、通りの向こうの家へと飛び移った。
そして、そのまま別の路地裏へと降り立つ。
ヤツらと追いかけっこを続けたところで、時間を引き延ばすことにしかならない。
一刻も早く、狼がいるであろう見張り塔の前へ辿り着かなければ。
「ユリア、ここから絶対一緒に逃げるからな」
そう独りごちり、オレは再び闇の中を駆けた。
* * *
その姿は、まさに人狼だった。
ユリアさんが、人狼へと変貌してしまった……
僕が、その事実をどう受け止めたらいいのかと迷っていると、
人狼はバンさんの首根っこを掴み、信じられないことに遠くへ投げ飛ばした。
「どぅわぁぁぁあああ…………ッッ!」
悲鳴が遠ざかっていくと同時に、
人狼は武装した神官たちへ向かって真っ直ぐに突進していく。
一瞬見えた人狼の表情は、
何処か満足したかのような笑みを口元に笑みを浮かべていた。
そして、
「ぎゃあああああっ!」
幾人もの悲痛な叫び声が静かな夜に響き渡る。
松明に照らし出された黒い影たちが、
無造作に地面に叩きつけられ、そして投げ飛ばされていく。
それでも、僕らを包囲していた男たちは次々に人狼へ立ち向かった。
バンさんの指示に従って物陰に滑り込んでいなかったら、
僕は彼らに踏み潰されていたかもしれない。
「弱いな。 こんなものでは準備運動にもならないぞ?」
「化け物め……」
「銀が効かないなんて、どうしたらいいんですか……!?」
「ええい、怯むな! 回復するよりも早く切り刻んでやるまでだ!」
僕は震える足に力を入れると、教会の人間の意識が完全に人狼へと向いた隙に、
彼らとは逆方向へと逃げ出した。
今、僕にやれることはない。
……今は、まだ。
0
あなたにおすすめの小説
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
もう一度言って欲しいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?
藍音
BL
ある日、親友の壮介はおれたちの友情をぶち壊すようなことを言い出したんだ。
なんで?どうして?
そんな二人の出会いから、二人の想いを綴るラブストーリーです。
片想い進行中の方、失恋経験のある方に是非読んでもらいたい、切ないお話です。
勇太と壮介の視点が交互に入れ替わりながら進みます。
お話の重複は可能な限り避けながら、ストーリーは進行していきます。
少しでもお楽しみいただけたら、嬉しいです。
(R4.11.3 全体に手を入れました)
【ちょこっとネタバレ】
番外編にて二人の想いが通じた後日譚を進行中。
BL大賞期間内に番外編も完結予定です。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる