186 / 224
エピソード28
シロとユリア(4)
しおりを挟む
* * *
ハルに案内された館に辿り付くと、
屋敷に置いてきていた召使いたちが総出でオレたちを出迎えた。
オレはと言えば、彼らに挨拶する間もなく、部屋に連れていかれ、
ベッドに横になると、すぐに足の手当をされた。
「……安静にしていろ。すぐに、くっつく」
包帯を巻き終えると、シロが言った。
「助かるよ」
気まずい沈黙が落ちる。
ひとまず危機は去った。が、オレたちの間の問題は山積みだ。
ユリアにバレたことを思うと、頭が真っ白になる。
「……」
「……」
「ねえ」
静寂を破ったのは、シロの後ろにいたハルだった。
「君、ちゃんとユリアのこと愛してるの?」
「え……」
問いにオレは目を瞬かせる。
「僕にはそうは見えないんだけど」
気怠げに小首を傾げて、
ハルは黒曜石の瞳でじっとオレを見つめる。
「そ、れは……」
ハルの想定した愛し方なんて知りようもない。
それでも、前ならオレは胸を張って「愛している」と言えただろう。
いや、今だって愛していることに変わりは無い。が……
ハルの目がスッと細くなる。
部屋の気温が下がる気配と同時に、全身から冷や汗が噴き出した。
オレは即答できない自分に衝撃を受けていた。
自分の言動を顧みると、果たして『愛せている』のか、不安になのだ。
そもそも、愛するってどういうことだった?
大事にして、傷つけないようにして、
……なのに、オレはユリアに何をした?
何をしてやれた?
「ハル。心配するな」
押し黙ったオレの代わりに答えたのはシロだった。
「コイツは貴様との約束を守っている。
ちゃんと……ユリアを愛している」
「……そう。ならいいんだけど」
ハルは何か問いかけたそうにシロとオレを見てから、黒いローブを翻した。
「バン。僕は数日の間は此処にいる。
その間に……」
メイドが扉を開くと、彼はオレをチラリと振り返った。
「君の口から、今の質問の答えを聞けることを祈っているよ」
そう告げて、今度こそ部屋を後にする。
部屋にいたメイドたちも、オレたちに気を利かせてくれたのか出て行き、
部屋にはオレとシロだけが残された。
オレは意味もなく髪を掻き上げ、後ろ髪を引っ張る。それから嘆息する。
「ありがとな」
「すまなかった」
口を開いたのは同時だった。
再びの沈黙。オレはシロを見た。
「……何のことだよ?」
「ユリアの記憶についてだ。
アイツは俺の記憶を見えないと言ったのに、見られた」
「どういうことだよ?」
「俺にも分からん。
これまで、アイツが俺の記憶を見たことはなかったというのに」
「なら仕方ないだろ。不測の事態だ。
それとも、何か気付いてたのか」
問うというより、それは確認だった。
シロはオレの横になるベッドに腰掛けると、手を組んで口を開いた。
「俺にはユリアの記憶もあった。
しかし、それが数日前から見えなくなっていた」
「それって……」
表裏一体の関係にある2つの人格には上下があり、シロの方が上だと予想していたが、
逆になったとでも言うのだろうか?
ジルベールとの会話で刺激されーー全ての記憶を取り戻したから?
「今度はユリアがお前の記憶を見ているってことか?」
「……おそらく」
ユリアは今度こそ記憶を手放さないと、不思議と確信した。
それと同時に心が凪いでいく。
「……ユリア」
オレはシロを通して、ユリアに声をかけた。
「聞こえてるか?
……話したいことが、ある」
たぶんオレは、シロを受け入れたあの夜から、
ユリアに全て知られるだろうことを予感していた気がする。
シロの耳がピクリと震えた。
彼は立ち上がると、前を向いたままオレを目だけで一瞥した。
「……オレはお払い箱だな」
そう一言呟くと、シロも出ていった。
扉の閉まる音が部屋に虚しく響いた。
ハルに案内された館に辿り付くと、
屋敷に置いてきていた召使いたちが総出でオレたちを出迎えた。
オレはと言えば、彼らに挨拶する間もなく、部屋に連れていかれ、
ベッドに横になると、すぐに足の手当をされた。
「……安静にしていろ。すぐに、くっつく」
包帯を巻き終えると、シロが言った。
「助かるよ」
気まずい沈黙が落ちる。
ひとまず危機は去った。が、オレたちの間の問題は山積みだ。
ユリアにバレたことを思うと、頭が真っ白になる。
「……」
「……」
「ねえ」
静寂を破ったのは、シロの後ろにいたハルだった。
「君、ちゃんとユリアのこと愛してるの?」
「え……」
問いにオレは目を瞬かせる。
「僕にはそうは見えないんだけど」
気怠げに小首を傾げて、
ハルは黒曜石の瞳でじっとオレを見つめる。
「そ、れは……」
ハルの想定した愛し方なんて知りようもない。
それでも、前ならオレは胸を張って「愛している」と言えただろう。
いや、今だって愛していることに変わりは無い。が……
ハルの目がスッと細くなる。
部屋の気温が下がる気配と同時に、全身から冷や汗が噴き出した。
オレは即答できない自分に衝撃を受けていた。
自分の言動を顧みると、果たして『愛せている』のか、不安になのだ。
そもそも、愛するってどういうことだった?
大事にして、傷つけないようにして、
……なのに、オレはユリアに何をした?
何をしてやれた?
「ハル。心配するな」
押し黙ったオレの代わりに答えたのはシロだった。
「コイツは貴様との約束を守っている。
ちゃんと……ユリアを愛している」
「……そう。ならいいんだけど」
ハルは何か問いかけたそうにシロとオレを見てから、黒いローブを翻した。
「バン。僕は数日の間は此処にいる。
その間に……」
メイドが扉を開くと、彼はオレをチラリと振り返った。
「君の口から、今の質問の答えを聞けることを祈っているよ」
そう告げて、今度こそ部屋を後にする。
部屋にいたメイドたちも、オレたちに気を利かせてくれたのか出て行き、
部屋にはオレとシロだけが残された。
オレは意味もなく髪を掻き上げ、後ろ髪を引っ張る。それから嘆息する。
「ありがとな」
「すまなかった」
口を開いたのは同時だった。
再びの沈黙。オレはシロを見た。
「……何のことだよ?」
「ユリアの記憶についてだ。
アイツは俺の記憶を見えないと言ったのに、見られた」
「どういうことだよ?」
「俺にも分からん。
これまで、アイツが俺の記憶を見たことはなかったというのに」
「なら仕方ないだろ。不測の事態だ。
それとも、何か気付いてたのか」
問うというより、それは確認だった。
シロはオレの横になるベッドに腰掛けると、手を組んで口を開いた。
「俺にはユリアの記憶もあった。
しかし、それが数日前から見えなくなっていた」
「それって……」
表裏一体の関係にある2つの人格には上下があり、シロの方が上だと予想していたが、
逆になったとでも言うのだろうか?
ジルベールとの会話で刺激されーー全ての記憶を取り戻したから?
「今度はユリアがお前の記憶を見ているってことか?」
「……おそらく」
ユリアは今度こそ記憶を手放さないと、不思議と確信した。
それと同時に心が凪いでいく。
「……ユリア」
オレはシロを通して、ユリアに声をかけた。
「聞こえてるか?
……話したいことが、ある」
たぶんオレは、シロを受け入れたあの夜から、
ユリアに全て知られるだろうことを予感していた気がする。
シロの耳がピクリと震えた。
彼は立ち上がると、前を向いたままオレを目だけで一瞥した。
「……オレはお払い箱だな」
そう一言呟くと、シロも出ていった。
扉の閉まる音が部屋に虚しく響いた。
0
あなたにおすすめの小説
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
もう一度言って欲しいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?
藍音
BL
ある日、親友の壮介はおれたちの友情をぶち壊すようなことを言い出したんだ。
なんで?どうして?
そんな二人の出会いから、二人の想いを綴るラブストーリーです。
片想い進行中の方、失恋経験のある方に是非読んでもらいたい、切ないお話です。
勇太と壮介の視点が交互に入れ替わりながら進みます。
お話の重複は可能な限り避けながら、ストーリーは進行していきます。
少しでもお楽しみいただけたら、嬉しいです。
(R4.11.3 全体に手を入れました)
【ちょこっとネタバレ】
番外編にて二人の想いが通じた後日譚を進行中。
BL大賞期間内に番外編も完結予定です。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる