殺された女伯爵が再び全てを取り戻すまでの話。

吉井あん

文字の大きさ
75 / 102

75話 愛情と執着。

しおりを挟む
 きみが好きだ。

 レオンはこともなげに言う。
 そういえば以前も同じようなことがあったっけ。


(レオンってほんと強心臓よね。言い慣れてるのかしら……)


 それとも心の中で確信があるから堂々としてるのだろうか。
 でもどちらにしろ、これではっきりした。

 私は救われたのだ。

 あれほどに不安で仕方がなかったのに。レオンの一言で一気にネガティブな感情が消え失せてしまうなんて。


「事故に遭う前はフェリシアを利用するだけで良いと思っていたんだ。前も言ったけど、フェリシアにはヨレンテの落とし子であること以外に魅力はなかったからね」


 レオンはやや目線を落としてはにかんだ。


「でも今は違うよ。全てが愛おしいんだ。きみはマンティーノスの女主人になる身。これからも僕と一緒にいてもらうことは難しいかもしれないけれど、きみを諦めるつもりはない。フィリィが他の男を選ぶことも嫌だ」


 これは愛されているのでは?

(もしかしてすごく大切にされているのね、私……)


 エリアナ身体フェリシアもここまで熱烈に告白をされたことはなかったのだ。
 素直に嬉しい。喜んでいいのではないか。


「えっと……ありがとう?」
「フィリィ」


 レオンは両手で自らの顔を覆う。


「僕もそれなりに勇気をもって話したんだけどなぁ。こんなこと女性に話したの初めてなんだけど。ねぇ、ありがとうって何?」
「べ……別に意味はないわ」


 異性からの告白は初めてだ。
 いや、他人からの裏のない好意を受けるなんて初めてだ。

 エリアナは生馬の目を抜くかのような世界で生きていた。
 自分に近づいてくる輩に裏心のない人物などいなかった。実のお父様でさえもエリアナを陥れるために策を企てていたのだ。

 フェリシアもそうだ。
 ルーゴの私生児として疎まれ虐げられて育ったのだ。

 どう答えればいいのか正解経験則から導き出すこともできない。


「あの……一応、礼は言っておくべきだと思っただけよ」と私はなんとか冷静を装った。


 ただ顔は熱い。
 熱いどころかものすごく熱い。日焼けでもしているかのようだ。
 きっと真っ赤になっているはず。

 レオンがにやにやしてこっちを見ている。


(そんな風に見ないで……。恥ずかしい……)


 好きな人に心を見透かされるのはどうしてこんなに恥ずかしいんだろう。
 きっと気づいているはずだ。


「レオン、あの……」
「フィリィ、無理しなくてもいい」
「え、何が無理しなくていいの? ちょっ……」


 レオンは私の手首を掴み顔を寄せ額をつける。
 鼻の先が擦れ合うほど近い。
 ヘーゼルの瞳にヨレンテの碧眼が映り複雑に混ざり合う。


「きみも僕とは離れられないさ。契約があろうがなかろうが。きみはもう僕の一部なんだから」
「一部?」
「僕の秘密を知っただろう? どっちにしろ死ぬまでそばにいてもらうつもりだよ。身も心も僕に縛られるんだ」
「え?」


 背中に粟が立つ。

(これは愛情……なのかな?)

 戸惑う私をせせら笑うかのような狂気じみた言葉を吐くとレオンは体を離した。


「さて。僕はそろそろ法廷に戻らなきゃいけないんだけど、きみはどうする?」
「裁判……」


 いなくてもいいとは言っていたが、実のところはそうでもなかったようだ。私のことを案じて抜けてきてくれたのか。

 私は首を振った。


「……私はタウンハウスに戻るわ。オヴィリオさんの裁判にセナイダ様そっくりな私が現れたら大騒ぎになっちゃうだろうし」


 フェリシアと亡くなったお母様の容姿はよく似ている。
 お父様と後妻そして前妻そっくりな私が揃うと、スーパーゴシックだ。裁判どころか最高のメロドラマになってしまう。


(それに人間は感情に引き摺られちゃうものよ)


 裁判官も然り、だ。

 私はオヴィリオに、実の父に厳刑を望んでいる。
 フェリシアが現れることで裁判官の判断に影響があってはならない。
 エリアナへのケジメをつけるために。


「どうなったか教えてね。気をつけて行ってね。レオン」
「うん。で?」


 レオンは誘うように右の口角を上げる。何かが聞きたいらしい。
 私はとても正面を向くことができずうつむいた。


「私もす……好きよ。レオン。一生そばにいてね」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

本当に現実を生きていないのは?

朝樹 四季
恋愛
ある日、ヒロインと悪役令嬢が言い争っている場面を見た。ヒロインによる攻略はもう随分と進んでいるらしい。 だけど、その言い争いを見ている攻略対象者である王子の顔を見て、俺はヒロインの攻略をぶち壊す暗躍をすることを決意した。 だって、ここは現実だ。 ※番外編はリクエスト頂いたものです。もしかしたらまたひょっこり増えるかもしれません。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?

水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。 私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。

処理中です...