転生を繰り返した私。今世も穏やかな人生を希望します。

吉井あん

文字の大きさ
7 / 73
第1章:7度目の人生は侍女でした!

7.やられたらやり返します!

しおりを挟む
 私はインク壺を掴み取り、アンナさんの足元めがけて投げつけました。
 派手な音を立てて、瓶が砕け散ります。


「まぁ大変! なんてことかしら。インク壺を移動させようとしただけなのに……」


 私は両手を頬に添えて狼狽えました。


「ダイナ! なんて事してくれたの!」


 アンナさんはヒステリックに叫びます。

 美しいサテン地のドレスに黒インク製ドット模様が数えきれないほど散りばめられているではありませんか。

 ナイス、黒インク。


「ラファイエットの特注品なのよ。なかなか手に入らない貴重なドレスなのに、あんた、どうしてくれるのよ!」


 アンナさんが着ているデイドレスは確かに素敵です。
 さらりとしたサテンと大胆にカットされたデザインがとても上品。
 さすが最近富裕層に大人気のお店『ラファイエット衣料店』の最新デザインです。

 うん。その事は、もちろん知っています。
 耳にタコができるほど聞かされていましたもの。

 ちなみに侍女の給金で賄いきれる価格ではありません。裕福なご実家からのプレゼントなのだそうです(アンナさんがイヤミったらしく自慢していたのでよく覚えています)。

 この目玉が飛び出るほどお高いドレスは、イーディス様に随行して王宮を訪問する時用に作らせたと言うことも、たびたび耳にしています。
 王宮には血統の良い貴公子達が山ほどいますもんね。

 だからといって、私の大切なドレスをぐちゃぐちゃにして良いものではありません。
 爪の先に火を灯すようにして節約して貯めたお金で買ったドレス。
 ラファイエットの物には到底敵いませんが、でも私にとっては唯一無二のものだったのです。

 ちょっといい気味!


 アンナさんは私の顔を見て、さらに逆上しました。


「下民のくせに生意気な事して!!」

「アンナさん、私の実家は一応男爵家なので下民ではありません。身分だけで言えば、アンナさんのご実家よりも上なのですが。それに民を卑しめるだなんて、お里が知れますよ?」


 ちょっと煽ってみます。
 アンナさんのこめかみがビクつきました。


「ダイナ!!」


 釣れた!
 喚き散らしながらアンナさんは私に飛びかかってきました。


「アンナお嬢様、なりません!!」


 お付きの人達が(自分が侍女といえど、行儀見習いの方は自分の世話を自分ですることはしません。わざわざ実家から自分専属の侍女を連れてきているのです!私にはいないですけどね)、大慌てで取り囲みます。

 こんな姿、イーディス様やイーディス様のお父上レアード侯爵にでも見られたら、アンナさんもアンナさんのご実家の評判も落としかねません。

 イーディスお嬢様にお仕えるする侍女アンナさんに使える侍女さん達は、必死に暴挙を止めようとしました。



 でも、もう遅かったりします。
 私はゆっくりと振り返ります。


 そこには衝撃のあまり立ち尽くしたイーディスお嬢様が……。


「アンナ、乱暴はいけないわ。弱いものいじめなんて、とてもはしたなくてよ」


 アンナはハッとして、急いでイーディス様の足元に跪きます。


「申し訳ございません。このようなつもりは一切ありませんで……」

「言い訳はいらないわ。アンナ。私は騒がしいのが好きではないのよ。前々から言っておいたはずだけど? 明日の王宮への参内には侍女は全員連れて行くつもりだったけれど、それでは無理ね。アンナへは明日1日、暇を言い渡します」


 イーディス様は躊躇する様子もありませんでした。
 基本はおっとりですが、侯爵家の娘です。決断するのはとても早いのです。
 
 こうなると分かっていて仕掛けた私も褒められませんが、いじめはダメだと思うんです。

 目には目を、なんて言ったのはどなただったでしょうか。
 やり返される覚悟がないなら、意地悪なんてするもんじゃありません。

『ごめんなさい』の一言でもあれば、汚されたドレスの弁償だけで済ませるつもりでした。

 こんなことをするつもりはなかったのですけどね。
 人に親切に、が平穏無事に過ごす秘訣ですもの。



 しかしさっきは最高に良いフォームでした。
 ものすごく素晴らしい腕の振りに自分自身惚れ惚れします。最高のフォームだと褒めていただきたいくらいです。
 クリケットが好きな男性陣からは大賞賛の拍手がいただけたと思います。

 もっともインク壺投げなんて淑女の技ではありませんけどね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~

紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。 ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。 邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。 「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」 そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

『龍の生け贄婚』令嬢、夫に溺愛されながら、自分を捨てた家族にざまぁします

卯月八花
恋愛
公爵令嬢ルディーナは、親戚に家を乗っ取られ虐げられていた。 ある日、妹に魔物を統べる龍の皇帝グラルシオから結婚が申し込まれる。 泣いて嫌がる妹の身代わりとして、ルディーナはグラルシオに嫁ぐことになるが――。 「だからお前なのだ、ルディーナ。俺はお前が欲しかった」 グラルシオは実はルディーナの曾祖父が書いたミステリー小説の熱狂的なファンであり、直系の子孫でありながら虐げられる彼女を救い出すために、結婚という名目で呼び寄せたのだ。 敬愛する作家のひ孫に眼を輝かせるグラルシオ。 二人は、強欲な親戚に奪われたフォーコン公爵家を取り戻すため、奇妙な共犯関係を結んで反撃を開始する。 これは不遇な令嬢が最強の龍皇帝に溺愛され、捨てた家族に復讐を果たす大逆転サクセスストーリーです。 (ハッピーエンド確約/ざまぁ要素あり/他サイト様にも掲載中) もし面白いと思っていただけましたら、お気に入り登録・いいねなどしていただけましたら、作者の大変なモチベーション向上になりますので、ぜひお願いします!

婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」  枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。  土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。  「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」  あなた誰!?  やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!  虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。

処理中です...