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第1章:7度目の人生は侍女でした!
8.波乱のパーティが開幕します。
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そして翌日。
王宮に参内する日です。
今日は“イーディス様とカイル殿下の婚約者同士の親交を深めましょう会“ではなく、王室主催の正式な午餐会なのです。
まぁ、砕いて言うならば、王妃殿下がホステス役の貴族を集めたランチパーティですね。
季節ごとに年4回開かれるこのパーティは、貴族にとってはとても重要な行事です。
そう。
盛大なマウンティング大会(と私が心の中で呼んでいます)なのです!
貴族は階級社会。
爵位で地位も変わってしまいます。
ですが、爵位は代々受け継いでいくもの。
現状ではどうしようもないので、それ以外のことでマウント勝負が始まります。
第一関門はまず王妃殿下に招待されるかどうか。
晩餐会と違って午餐会は昼間の行事。
よって大人数を収容できる王宮の大広間は使用されません。王妃宮のこぢんまりとした庭園で開かれるのです。
人数に限りがあるので、招かれる貴族も厳選され、招待されるために政治的駆け引きが行われます。
そして次は招待状の到着の速さ。
一体、到着の速さを競って何になるんでしょうね。
まだまだありますよ。
当日来ていく服に所作。馬車の格式、召使いの衣装などなど……。
参加者のための参加者たちによる羨望の入り混じったランキング・デスマッチです。
ほんっと、くだらないですね!
生きていくことに精一杯な庶民からしてみれば愚行でしかありません。
お金をたくさん持っている方々は暇で仕方ないんでしょうねって思ってしまいます。
蛇足ですが、私の実家にも年に一度は必ず招待状が届けられていました。
残念なことに新しい衣装をあつらえることができないので(去年と同じものを着ていくなんて、とても出来ません。軽んじて見られるだけですから)、毎年何かしら理由をつけて欠席していました。
そんな私が、こうして侯爵家の御令嬢の侍女職につき、職務として参加することになったのです。
しかもアンナさんのように社交を深めたい方もいるのに、できるだけ温厚に穏やかに暮らしたい私が随行される。
巡り合わせって面白いですね。
人生って分からないものです。
ですが。
「ダイナ、侯爵家の下僕に、王宮にいらっしゃるお父様へ手紙を届けるようにと伝えてきてもらえるかしら? 急ぎよ」
イーディス様は庭園の端っこで茶菓子を齧っていた私を呼び寄せ、一通のメモ紙を折り畳んだものを手渡しました。
「かしこまりました」
良い侍女は口ごたえもしないものです。
食べかけの超美味高級茶菓子が名残惜しいですが、グッと我慢。
侍女の中では最下級の私の仕事は、イーディス様の横でホホホと微笑んでいる役ではありません。
下働き兼使いっ走りの肉体労働者です。
いくらイーディス様からの寵が厚くとも、他の侍女たちはやりたがらないので、どうしても私にお鉢が回るのです。
でも貴族のやりとりには興味がない私には、気が楽でありがたいことですもの。
私は手紙を丁寧にポケットに仕舞い、下僕専用の控室へ急ぎます。
さっさと用事を済ませれば、またあの美味しい茶菓子を愛でることができるのですから!
「ダイナ」
おおっと?
私は足を止めます。
王宮で私のことを名で呼ぶ人は一人しかいません。
「オーウェン・ライト?」
この前よりもちょっぴり豪華な盛装がなかなか似合うオーウェンが、空のグラスの乗った盆を抱えて立っていました。
あぁ、悔しいけど今日もイケメンです。
「ねぇ、そっちは下僕の控室だよ」
「知ってるわ」
そりゃそうです。
お使いに来たんだから。
イケメン侍従はニヤリと笑います。
「もしかして下僕と逢引き?」
イケメン……若干訂正。腹黒口悪侍従です。
「違うわ。仕事よ。イーディス様のお使い。オーウェンは何してるのよ。カイル殿下の侍従がなんでここにいるのよ?」
「俺も仕事」と言いながら、オーウェンは盆を少しばかり持ち上げました。口紅のついたグラスが、陽の光を反射しきらりと光ります。
「カイル殿下が女性を口説き落とそうとしててね。侍従である俺はそのお世話係」
「ちょ……」
口説き落とす??
カイル殿下、何してるんでしょう?!
公式の婚約者であるイーディス様が同じ会場にいるのに、他の女性と密会しているだなんて!
イーディス様はカイル殿下を慕っておられます。
それなのに殿下が女性と……。
もしもイーディス様が知ることになったら、大いに嘆かれるに違いありません。
何をもからもお守りするのが侍女の役目。
これは探っておく必要があります。
「ねぇ、オーウェン。殿下のお相手は一体誰なの?」
「言えない。主人の秘密を話すだなんて、侍従の沽券に関わってくる」
召使い、しかも近くでお世話をする侍従が主人の秘事をペラペラと漏らす訳はありません。でも私も食い下がります。
「オーウェンは何も知らないし、見なかった。私が勝手についてきただけよ」
「……それじゃ仕方ないなぁ。俺は何も知らない。これから新しい飲み物を主人に届けに行くだけさ」
オーウェンが共犯者になった瞬間です。
よし。これからカイル殿下の弱みを握りに行きますよ!
王宮に参内する日です。
今日は“イーディス様とカイル殿下の婚約者同士の親交を深めましょう会“ではなく、王室主催の正式な午餐会なのです。
まぁ、砕いて言うならば、王妃殿下がホステス役の貴族を集めたランチパーティですね。
季節ごとに年4回開かれるこのパーティは、貴族にとってはとても重要な行事です。
そう。
盛大なマウンティング大会(と私が心の中で呼んでいます)なのです!
貴族は階級社会。
爵位で地位も変わってしまいます。
ですが、爵位は代々受け継いでいくもの。
現状ではどうしようもないので、それ以外のことでマウント勝負が始まります。
第一関門はまず王妃殿下に招待されるかどうか。
晩餐会と違って午餐会は昼間の行事。
よって大人数を収容できる王宮の大広間は使用されません。王妃宮のこぢんまりとした庭園で開かれるのです。
人数に限りがあるので、招かれる貴族も厳選され、招待されるために政治的駆け引きが行われます。
そして次は招待状の到着の速さ。
一体、到着の速さを競って何になるんでしょうね。
まだまだありますよ。
当日来ていく服に所作。馬車の格式、召使いの衣装などなど……。
参加者のための参加者たちによる羨望の入り混じったランキング・デスマッチです。
ほんっと、くだらないですね!
生きていくことに精一杯な庶民からしてみれば愚行でしかありません。
お金をたくさん持っている方々は暇で仕方ないんでしょうねって思ってしまいます。
蛇足ですが、私の実家にも年に一度は必ず招待状が届けられていました。
残念なことに新しい衣装をあつらえることができないので(去年と同じものを着ていくなんて、とても出来ません。軽んじて見られるだけですから)、毎年何かしら理由をつけて欠席していました。
そんな私が、こうして侯爵家の御令嬢の侍女職につき、職務として参加することになったのです。
しかもアンナさんのように社交を深めたい方もいるのに、できるだけ温厚に穏やかに暮らしたい私が随行される。
巡り合わせって面白いですね。
人生って分からないものです。
ですが。
「ダイナ、侯爵家の下僕に、王宮にいらっしゃるお父様へ手紙を届けるようにと伝えてきてもらえるかしら? 急ぎよ」
イーディス様は庭園の端っこで茶菓子を齧っていた私を呼び寄せ、一通のメモ紙を折り畳んだものを手渡しました。
「かしこまりました」
良い侍女は口ごたえもしないものです。
食べかけの超美味高級茶菓子が名残惜しいですが、グッと我慢。
侍女の中では最下級の私の仕事は、イーディス様の横でホホホと微笑んでいる役ではありません。
下働き兼使いっ走りの肉体労働者です。
いくらイーディス様からの寵が厚くとも、他の侍女たちはやりたがらないので、どうしても私にお鉢が回るのです。
でも貴族のやりとりには興味がない私には、気が楽でありがたいことですもの。
私は手紙を丁寧にポケットに仕舞い、下僕専用の控室へ急ぎます。
さっさと用事を済ませれば、またあの美味しい茶菓子を愛でることができるのですから!
「ダイナ」
おおっと?
私は足を止めます。
王宮で私のことを名で呼ぶ人は一人しかいません。
「オーウェン・ライト?」
この前よりもちょっぴり豪華な盛装がなかなか似合うオーウェンが、空のグラスの乗った盆を抱えて立っていました。
あぁ、悔しいけど今日もイケメンです。
「ねぇ、そっちは下僕の控室だよ」
「知ってるわ」
そりゃそうです。
お使いに来たんだから。
イケメン侍従はニヤリと笑います。
「もしかして下僕と逢引き?」
イケメン……若干訂正。腹黒口悪侍従です。
「違うわ。仕事よ。イーディス様のお使い。オーウェンは何してるのよ。カイル殿下の侍従がなんでここにいるのよ?」
「俺も仕事」と言いながら、オーウェンは盆を少しばかり持ち上げました。口紅のついたグラスが、陽の光を反射しきらりと光ります。
「カイル殿下が女性を口説き落とそうとしててね。侍従である俺はそのお世話係」
「ちょ……」
口説き落とす??
カイル殿下、何してるんでしょう?!
公式の婚約者であるイーディス様が同じ会場にいるのに、他の女性と密会しているだなんて!
イーディス様はカイル殿下を慕っておられます。
それなのに殿下が女性と……。
もしもイーディス様が知ることになったら、大いに嘆かれるに違いありません。
何をもからもお守りするのが侍女の役目。
これは探っておく必要があります。
「ねぇ、オーウェン。殿下のお相手は一体誰なの?」
「言えない。主人の秘密を話すだなんて、侍従の沽券に関わってくる」
召使い、しかも近くでお世話をする侍従が主人の秘事をペラペラと漏らす訳はありません。でも私も食い下がります。
「オーウェンは何も知らないし、見なかった。私が勝手についてきただけよ」
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