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第1章:7度目の人生は侍女でした!
9.恋の矢印は右へ左へ!
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「俺は何も知らない。ダイナ、君が勝手についてきたことだ。いいね?」
オーウェンは念を押しました。
私を密会の場に連れていくこと。カイル殿下の侍従として、大きな裏切りです。
バレたらクビは確実です。
この国では、特に侍従などの貴族の召使いは人気職です。侍従職につくには色々な条件が課されます。
特に重視されるのが出自と経歴。
その証明になるのが雇い主が書く紹介状です。
召使いたちが離職する時は、元の雇い主が紹介状を出します。紹介状があれば身分と職歴が保証され、次の職場にスムーズに移ることができるのです。
ただ不祥事を起こしての退職となると紹介状もらうことは不可能。
紹介状無くして次の職を見つけることは容易ではありません。
だからここははっきりさせておかないといけないのです。
「そう。オーウェンは無関係よ」
私は真っ直ぐにオーウェンの目を真っ直ぐに見据え宣言しました。
責任は全部私だけにあるのですから。
オーウェンは頷いて、
「じゃあ、俺は仕事に戻るよ。給仕室との扉、カーテンの隙間から中が見えるかもしれない。でも僕は気づかなかった。君が勝手についてきて見つけたんだからね」
と、主人が待つ部屋へ戻って行きました。
私は給仕室に忍び込みゆっくりと扉に近づきました。
何を言ってるのかは分かりませんが、男女の話し声が漏れ聞こえます。
私はカーテンをそっと寄せ、こっそり中を覗いてみました。
若い男性と女性が一人づつ、ソファに並んで座っています。
男性は見覚えのある顔、カイル殿下です。
あれ? なんか鼻の下が伸びてませんか?
もう一人は……
(まさか。メリッサ・ウォード様?)
今年の社交界の話題の中心、ウォード伯爵令嬢メリッサ様ではないですか!
なぜ話題になったのかというと、メリッサ様は婚約をなさったのですが、その相手が、ヒューズ侯爵の跡取りであったからです。
ヒューズ子爵バージル・ヒューズ。
ヒューズ家の莫大な財産の後継者であり、社交界一の美男子。なかなかのおモテになられるお方です。
さらに付け加えると結婚相手として最高の条件を備えている紳士なのです。
富、地位、美貌。完璧です。
そんな男性などそういません。ですのでここ数年、貴族や富裕層女子の花婿候補、不動のナンバーワンでした。
その最高の優良物件が、突然、金満家ウォード伯爵家の一人娘メリッサ様との婚約を発表したのは春先のこと。
噂されるところだと、メリッサ様の熱烈な要望で実現された婚約とのことでした。
あ、ちなみにバージル・ヒューズ氏はオーウェンの異母兄です。
イケメン兄弟ですが、個人的にはオーウェンの方がかっこいいと思います。
「メリッサ。君が婚約をしてがっかりしたよ。私の気持ちに応えてくれると思っていたから。何年も伝えてきていたのに、どうしてだ?」
カイル殿下はとろんとした眼差しでメリッサ様を見つめます。
どうやら昼間から盛大に酔っぱらっているようです。
殿下はグラスを一気に空にすると、部屋の隅のオーウェンを手招きし、新たにワインを注がせました。
「殿下。お戯れはおやめ下さい。そもそも殿下には婚約者イーディス様がいらっしゃるではありませんか。それなのに、私を誘うだなんて。気でも狂われたのですか」
あら。
メリッサ様はえらく冷たい口調です。目も合わせようとはしません。
カイル殿下のことは、割とどうでもいいのかも?
「冷たいなメリッサ。ひどいじゃないか。私のことを好きだと……」
「一度たりとも、そのようなことを申し上げたことはございません」
メリッサ様、一刀両断じゃないですか。
メリッサ様のことはイーディス様のお付きで出かけた晩餐会やら舞踏会でお見かけした程度。
どのような方かは詳しくはわかりません。
ただとても美しく、イーディス様が薔薇のような華やかな方だとするとメリッサ様はマーガレットのような清楚な方だということだけ。
でも中身は、かなりな男前なのかもしれません。
「というか、うざいのよ。カイル。私とあなたは従兄弟同士で、親しくしていたのは認めるわ。でも子供の頃のお話でしょう? 今は互いに婚約者がいるのだから、しつこくつきまとうの、いい加減やめてくれないかしら。迷惑よ」
「メリッサ、なぜそんなことを言うのだ。…私はずっと……」
「しつこいわよ。私はバージル様を愛しているのよ。カイルのことなど、どうでもいいの。私にとってあなたなんてその辺の埃と一緒よ」
埃!
一国の王子を埃扱いするだなんて!
なんて辛辣なのでしょうか。
もしかしてカイル殿下、メリッサ様に完全に嫌われていませんか?
「二度と、二度とこのような事はなさらないでくださいませ。ていうか、絶対に話しかけないでくださいね!」
メリッサ様は捨て台詞を残して、部屋を出て行きました。
これって、もしかして、でなくとも確実に、カイル殿下の片想いじゃないですか!
オーウェンは念を押しました。
私を密会の場に連れていくこと。カイル殿下の侍従として、大きな裏切りです。
バレたらクビは確実です。
この国では、特に侍従などの貴族の召使いは人気職です。侍従職につくには色々な条件が課されます。
特に重視されるのが出自と経歴。
その証明になるのが雇い主が書く紹介状です。
召使いたちが離職する時は、元の雇い主が紹介状を出します。紹介状があれば身分と職歴が保証され、次の職場にスムーズに移ることができるのです。
ただ不祥事を起こしての退職となると紹介状もらうことは不可能。
紹介状無くして次の職を見つけることは容易ではありません。
だからここははっきりさせておかないといけないのです。
「そう。オーウェンは無関係よ」
私は真っ直ぐにオーウェンの目を真っ直ぐに見据え宣言しました。
責任は全部私だけにあるのですから。
オーウェンは頷いて、
「じゃあ、俺は仕事に戻るよ。給仕室との扉、カーテンの隙間から中が見えるかもしれない。でも僕は気づかなかった。君が勝手についてきて見つけたんだからね」
と、主人が待つ部屋へ戻って行きました。
私は給仕室に忍び込みゆっくりと扉に近づきました。
何を言ってるのかは分かりませんが、男女の話し声が漏れ聞こえます。
私はカーテンをそっと寄せ、こっそり中を覗いてみました。
若い男性と女性が一人づつ、ソファに並んで座っています。
男性は見覚えのある顔、カイル殿下です。
あれ? なんか鼻の下が伸びてませんか?
もう一人は……
(まさか。メリッサ・ウォード様?)
今年の社交界の話題の中心、ウォード伯爵令嬢メリッサ様ではないですか!
なぜ話題になったのかというと、メリッサ様は婚約をなさったのですが、その相手が、ヒューズ侯爵の跡取りであったからです。
ヒューズ子爵バージル・ヒューズ。
ヒューズ家の莫大な財産の後継者であり、社交界一の美男子。なかなかのおモテになられるお方です。
さらに付け加えると結婚相手として最高の条件を備えている紳士なのです。
富、地位、美貌。完璧です。
そんな男性などそういません。ですのでここ数年、貴族や富裕層女子の花婿候補、不動のナンバーワンでした。
その最高の優良物件が、突然、金満家ウォード伯爵家の一人娘メリッサ様との婚約を発表したのは春先のこと。
噂されるところだと、メリッサ様の熱烈な要望で実現された婚約とのことでした。
あ、ちなみにバージル・ヒューズ氏はオーウェンの異母兄です。
イケメン兄弟ですが、個人的にはオーウェンの方がかっこいいと思います。
「メリッサ。君が婚約をしてがっかりしたよ。私の気持ちに応えてくれると思っていたから。何年も伝えてきていたのに、どうしてだ?」
カイル殿下はとろんとした眼差しでメリッサ様を見つめます。
どうやら昼間から盛大に酔っぱらっているようです。
殿下はグラスを一気に空にすると、部屋の隅のオーウェンを手招きし、新たにワインを注がせました。
「殿下。お戯れはおやめ下さい。そもそも殿下には婚約者イーディス様がいらっしゃるではありませんか。それなのに、私を誘うだなんて。気でも狂われたのですか」
あら。
メリッサ様はえらく冷たい口調です。目も合わせようとはしません。
カイル殿下のことは、割とどうでもいいのかも?
「冷たいなメリッサ。ひどいじゃないか。私のことを好きだと……」
「一度たりとも、そのようなことを申し上げたことはございません」
メリッサ様、一刀両断じゃないですか。
メリッサ様のことはイーディス様のお付きで出かけた晩餐会やら舞踏会でお見かけした程度。
どのような方かは詳しくはわかりません。
ただとても美しく、イーディス様が薔薇のような華やかな方だとするとメリッサ様はマーガレットのような清楚な方だということだけ。
でも中身は、かなりな男前なのかもしれません。
「というか、うざいのよ。カイル。私とあなたは従兄弟同士で、親しくしていたのは認めるわ。でも子供の頃のお話でしょう? 今は互いに婚約者がいるのだから、しつこくつきまとうの、いい加減やめてくれないかしら。迷惑よ」
「メリッサ、なぜそんなことを言うのだ。…私はずっと……」
「しつこいわよ。私はバージル様を愛しているのよ。カイルのことなど、どうでもいいの。私にとってあなたなんてその辺の埃と一緒よ」
埃!
一国の王子を埃扱いするだなんて!
なんて辛辣なのでしょうか。
もしかしてカイル殿下、メリッサ様に完全に嫌われていませんか?
「二度と、二度とこのような事はなさらないでくださいませ。ていうか、絶対に話しかけないでくださいね!」
メリッサ様は捨て台詞を残して、部屋を出て行きました。
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