転生を繰り返した私。今世も穏やかな人生を希望します。

吉井あん

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第1章:7度目の人生は侍女でした!

11.恋は難しいですね。

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 カイル殿下の恋心、しかもものすごい片恋。
 イーディス様にはお知らせしないということにしました。

 幼馴染の従妹にずっと恋をしている(おそらくこれがカイル殿下の初恋でしょう)ことを、妻となる人が知ったとしても何の益もありません。

 お優しいイーディス様ですから、ひどく落ち込まれるだけではないかと思いますし。

 だって誰にとっても初恋は特別で、綺麗な思い出じゃないですか?
 美化された記憶に勝つのは困難です。

 そんなことを他人から教えられたとしたら……。
 イーディス様がお可哀想でなりません。

 しかもカイル様の様子だとメリッサ様にこっぴどく拒否されていたようでした。
 初恋を拗らせたまま失恋、婚約者には冷たい反応とか。
 目も当てられません。


「いや、俺はチャンスだと思うけどね。失恋は新しい恋でしか癒せない。これを機会にイーディス様の参内回数が増えれば、カイル殿下の気持ちもイーディス様へ向かうんじゃないかな」


 なんてオーウェンは言います。
 もっともなことです。過去の私もそうでしたし。

 でもオーウェンからそんな話を聞くと、少しもやっとするのは何故でしょうか。
 私とそう年が違わないのに、当たり前のことのように語るのはどういうことなのでしょう。

 語りきれないほどに経験があるのでしょうか。
 イケメンなだけに恋愛遍歴が気になります。


「何、ダイナ。なんか疑ってる?」


 オーウェンはいぶかります。


「オーウェンは若いのに経験豊富だなって感心した」

「バージル様のようにモテはしないけど、そりゃ20年生きてるんだから、恋愛や失恋の経験くらいあるよ。ダイナもでしょ?」

「私は無いわ。……恋愛なんてしたことないもの」


 6回も転移転生しているので、過去ではそれなりにありますが。

 ダイナとしては残念ながら一度もありません。
 実家にいる頃もたまに見かける異性にときめくことはありましたが、前世の記憶がある分、テンション高ぁ! とはなりませんでした。

 慎重でした。いいえ、臆病でしたね。
 過去の人生で失恋の痛みは嫌というほど体験しましたから。

 そして働きだしてからも、仕事は忙しいし出会いはないしで、恋愛どころではありませんでした……。

 黙り込んでしまった私を慰めるように、オーウェンは優しく肩をさすりました。


「これから探せばいいよ。ダイナは可愛いから、恋人なんてすぐ見つかるさ」

「慰めてくれてありがとう。ねぇ今、可愛いって言ったよね。どういうこと? オーウェンは私が可愛いと思うの?」

「うん。可愛いと思うよ」

「どこが? どこにでもある顔だわ。可愛いや綺麗って言うのはイーディス様やメリッサ様のことを言うのよ。適当に言わないで欲しい」


 コミュ力の高いイケメンに可愛いって言われても、お世辞としか思えません。
 傷つくだけです。

 自分で言うのもアレですけど、ダイナは特に目立つところのない地味な顔立ちです。
 前世のお姫様を知っている分、採点は厳しくなってしまいますが、目立つ容姿ではないことは確かです。
 10人が10人、普通っていう顔です。


「ダイナはイーディス様とメリッサ様と比べてるの? あの方々は別格でしょ。貴族の中でもトップクラスの美人だよ」

「間近で見ている分、イーディス様が基準になっちゃうの。理想が高くなるのは仕方ないじゃん。それに、これはどうしても譲れないの。私は10人並みでその他大勢な人間なんだから」

「そういうもんなの?」

「そういうものです」


 わかったような、わからないような返答です。
 オーウェンはそっと両手を伸ばし、私の髪に触れました。


「好みは人によって違うもんだと思うけどな。俺はダイナみたいな人が好みだから、可愛くて仕方ないんだけど」

「え、ちょっと。あー……」


 この距離感の無さは何なのでしょう。
 女子に対しておかしくないですか。
 自然に出来ちゃうイケメンって怖い。


「面白いね。ダイナ、そんなに狼狽えなくてもいいのに」


 その時、給仕室の壁に吊るされたベルが鳴りました。
 カイル殿下がオーウェンを呼んでいるようです。

 私は息をつぎます。
 よかった。助かった。

 オーウェンは残念そうに、肩を少し落としました。


「カイル殿下が呼んでいる。仕事に戻らなくちゃ。ダイナもイーディス様に頼まれた仕事あるんじゃなかった?」


 そうでした。
 お使いの途中だったのです。
 失念していました。


「そうだったわ。急いで下僕の控室に行かないと。ありがとう、オーウェン。またね!」


 私は後ろも振り返らず給仕室から逃げ出しました。
 イーディス様の恋のお手伝いをしようとして、なぜか私が捕らえられたような感覚になるのはどうしてでしょう。
 イケメン恐るべし、です。
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