転生を繰り返した私。今世も穏やかな人生を希望します。

吉井あん

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第3章:乱れ飛ぶプロポーズ。

45.無関心よりも憎まれた方がいい。思ってもらえるのならば。

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 ネイサンさんをふっちゃう女性ってどんな人なのでしょう。
 しかも鉄壁な条件至上主義だったのに、そんなことどうでも良いと思わさせるほど必死にさせるなんて。
 きっと素敵な女性でしょうね。

 でも、この作戦はいただけません。


「私を当て馬にしても上手くいかないと思うけど」

「そうかな。今まで熱心にアプローチしてたのに急に素っ気なくなれば、気になるんじゃないか? しかも婚約とかまでしてしまうと、焦るだろう?」

「えーっと……」


 何だろう。既視感というか。
 私これと似たようなことをしたことあります。


 ――イーディス様に。

 
 イーディス様は好きが過ぎて、ドン引きするほどにカイル殿下限定粘着体質ストーカーになってしまっていました。
 好き好き過剰とでも言いましょうか。

 性質? を変えなくてもいいですが(そもそも性質は変えることはできません)、外に出すのは少し抑えましょうということで、結果うまく行き、カイル殿下の気持ちはイーディス様に向かうことになりました。

 けれども、これは婚約していて、しかも破談は不可能という前提があったからです。
 婚約もしていない、する予定もない、さらには一度フラれているっていう条件では難易度が高過ぎではないですか。

 ネイサンさんの場合は、無理案件では?


「ねぇネイサンさん。私がもしネイサンさんの好きな人だとして、別の人と婚約するって言われても何も感じないけどな。ちょっとモヤるかもしれないけど」

「そうかな?」

「むしろ、さらに無理ってなるんだけど。あれほど自分に言い寄ってきてて、すぐに他の女性と婚約とか、なんていい加減な人なんだろうって幻滅すると思うわ」

「幻滅……彼女に嫌われたくはないな。あぁでも無関心よりも憎まれる方がいい。彼女の中に僕への気持ちがあるってことだからね」

「そんなに好きなのね……」


 かなり歪んでいますが、ネイサンさんの想いは強いようです。
 ただ、もうすでにフラれているのです。フった相手がいまだに自分を思っているなんて、怖すぎませんか。
 勘違い危険男一直線ってとこでしょうか。


「とても言いづらいけど、そんな叶わない思いを持ち続けるよりも、別の恋を探した方がいいんじゃない?」

「それができればこんなことしないさ。僕は彼女がいいんだ」

「……じゃあ、待つしかないわね」


 私は指先を見つめながら、ゆっくりと言葉を選びます。


「何もせずに遠くから穏やかに見守りながら、時が来るのを待つの。いつか振り向いてくれるかもしれないし、ネイサンさんの気持ちが落ち着いて、他の女性を好きになるかもしれない。どっちになるかは分からないけど、時間に任せるしかないわ」


 待つしかない。
 可能性が少なくても、待つと自分で決めたのなら。

 自分が放ったその言葉に、胃がズンっと重くなります。

 そう。
 好きなら連絡がなくても待つしかないんです。

 ネイサンさんに大きいこと言いながら、実は自分は不安でいっぱいです。
 オーウェンとの仲はあまり進展しないまま、あまり便りは来ませんし。将来に確信が持てないというのに、このままでいいのだろうかと焦る気持ちばかりが育ちます。


「ダイナさんは、やっぱりすごいね。僕よりもずっと若いのに、どれだけ恋愛を経験してきているの? まるで手練てだれの姐さんと話しているようだ」

「そ、そうかな……??」


 私は苦笑いしました。

 6回(内1回は鹿)も人生送っていますからね(ちなみに今は7回目です)。
 どの人生も、6回目のお姫様以外は庶民でしたので、恋愛もドラマティックなのものではありませんが、人並みに酸いも甘いも体験しています。

 ただ18歳のダイナには分不相応。
 決して口には出せませんが。

 だって人生ごとの恋愛回数は多くないですけど、まとめて言っちゃうとどんなビッチですか……となりますし。
 この国では女性は自由奔放よりも貞淑であることが好まれます。未婚の女性では特に。迂闊なことはできません。


「言うほど経験はないわ。本からの受け売りだったり、侯爵家には長く勤めている先輩がいるから、耳年増というだけ」

「へぇ。にわかには信じられないけど。じゃあ、今思っている人が初めての彼ってこと?」

「……うん、まぁそうなるかな」


 運命の彼であったらいいんですけどね!
 最近は放置されっぱなしですけど。


「初恋は叶わないものとはいうけれど、まぁダイナさんも幸せになってほしいよ」

「ネイサンさん。何で上から目線なの? 私が不幸になりそうな提案してきたのは誰でしたっけ」

「ははは、申し訳ない」

「……私、言われなくても幸せになるよ。この人生も幸せに過ごすの。死ぬ時にいい人生だったって笑うのが目標よ」

「面白いね! それはいい。僕もそうしよう」






 ティールームを出ると、すでに薄暗くなっていました。
 侯爵邸を出たときは降っていなかったのに、いつの間にやら牡丹雪が舞っています。
 私はケープの胸元を寄せ、駆け出しました。


 本格的な冬も、もうすぐです。
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