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プロローグ
死闘
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不細工な合唱が黒く染まった空に響き渡る。
銃声が、爆発音が、味方が風船のように破裂する音が、断末魔の叫びが、それを形作っていた。
鉛の雨がバケツをひっくり返したように降り注ぎ、穴だらけになりながらも飛んでいた、仲間の翼を無慈悲にも奪っていく。
運悪く燃料タンクに引火したり、片方の翼が吹き飛んで制御不能になり、コックピットを穴だらけにされて、仲間たちが堕ちていく。
助ける余裕もなく、ただ堕ちていく仲間たちを見ることしか出来ない。桐野 司は何度目かの舌打ちをする。
「クソッ! あの能無しバカ上官どもめ! これを見てもまだ作戦を実行し続けるのか聞いてみてえな?!」
ここまで、敵艦隊が見えるまで、二重の壁をくぐり抜けてきた。
ただの壁じゃない。一機一機の性能が格段に上で、化け物のような形をした敵戦闘機の大群だ。
猛攻を必死になって、針を通すように切り抜けても、息をつく暇すらもらえずに、また第二陣の敵戦闘機が襲いかかってくる。
この壁は長年、空を飛んできたベテランでさえも至難を極めるというのに、まだ飛ぶことしか覚えていない、ひよっこパイロットたちにこれを越えろなんて無茶な話だ。
実際、ここに来るまでにたくさんの教え子や後輩、いっしょに空を飛んだ同期の仲間たちが、火を噴いて堕ちていった。泣きながら叫んでいるやつもいたし、悔しげに笑っているやつもいた。少なくとも、こんな戦争がなければ、これからの世界を作っていくであろう若者たちだ。
「すまねえな、みんな。 せめてお前らの分まで飛んでやるからな」
愛機の速度がグンっと上がる。カタカタと小刻みに揺れだしたレバーをしっかり握り、機体を安定させる。
近づけば近づくほど、この特攻という作戦がどれほど狂気に満ちているのかがわかる。
敵艦隊は戦闘機に守られてはいないとは言えど、有り余るほどの機銃やら特殊兵器などで武装されていて、絶えず鉛の雨が浴びせられる。
この鉛の雨を避け続ける事など不可能だ。搭乗員のことを少しも考えていないこの装甲では、数発喰らっただけで即死だ。
それでも、やるしかない。
「ろくな人生じゃなえな、ちくしょう」
司は凄腕のパイロットとして戦争の中期から空を飛んでいた。その頃から戦況は芳しくはなかったが、隊の中でも撃墜数でトップを争い、敵味方問わず恐れられていた。
後々、司はデビルなんて呼ばれるようになる。神出鬼没で獰猛な狼のごとく敵を狩り殺すその姿はまさに悪魔にふさわしいだろう。
さらに司は悪運が強く、特攻隊を守るためにこれまた生存率が格段に低い直掩機として何度も出撃するも、必ず生きて戻ってきた。
当初は自分だけ生き残るためだけに逃げてるのだと仲間たちに陰口を叩かれたが、機銃の残弾数や飛んでいた仲間たちの証言、機体につけられた無数の弾痕が、それは決して本当ではないことを示していた。
だがどうやら、その悪運も今日で尽きたらしい。
取り付けられた爆弾は切り外しが出来なくなっているし、ここまで来て戻るには、さすがに集中力と弾がもたない。
なによりも、先に逝った仲間たちに顔向け出来ない。
「っし。 行くか」
さらに速度を上げて目標の艦隊との距離を詰めていく。
どうやら司のことを目視したらしい。徐々に銃弾が飛んできた。
「お前らにこれができるか?」
司はニヤリと笑うと、海面スレスレに機体を飛ばし、微かな海面の反射で銃弾を避けていく。あまりにもギリギリに飛んでいるために、プロペラが海面を叩き、水がはねる。普通のパイロットなら海にそのままダイブするだろう。
まさに神業だった。
さすがにまずいと思ったのか、鉛の雨が降りだしてくる。パシュンピシュンと弾が掠めていく。それでも司は堕とせない。十分な距離に達した。
司はこの時を待っていた。
「ここだ!!」
一気にレバーを引っ張り、機体を垂直に、しかも最高速度にして飛び上がらせる。体に負荷がかかり、歯を食い縛ってそれに耐える。
無理のさせすぎで、とうとう発動機部分から火が吹き出る。
「頼む! あと少しだけ持ってくれ!!」
突然の行動に、敵は反応できずに射角から司を逃がしてしまう。
「ぐおおおおおおぉぉぉ!!」
機体をぐるりと反転させ、そして突っ込んだ。その負荷で両翼が吹き飛び、発動機の炎が猛々しく燃え上がる。
「これでいい。 これで」
あとは数秒の間だけ耐えれば、終わりだ。
「もっと、自由に生きたかったな」
叶わぬと知りながら、最期にポツリと呟く。
自嘲の笑みを浮かべながら、司は目を閉じた。
最期に声が聞こえた、気がした。
銃声が、爆発音が、味方が風船のように破裂する音が、断末魔の叫びが、それを形作っていた。
鉛の雨がバケツをひっくり返したように降り注ぎ、穴だらけになりながらも飛んでいた、仲間の翼を無慈悲にも奪っていく。
運悪く燃料タンクに引火したり、片方の翼が吹き飛んで制御不能になり、コックピットを穴だらけにされて、仲間たちが堕ちていく。
助ける余裕もなく、ただ堕ちていく仲間たちを見ることしか出来ない。桐野 司は何度目かの舌打ちをする。
「クソッ! あの能無しバカ上官どもめ! これを見てもまだ作戦を実行し続けるのか聞いてみてえな?!」
ここまで、敵艦隊が見えるまで、二重の壁をくぐり抜けてきた。
ただの壁じゃない。一機一機の性能が格段に上で、化け物のような形をした敵戦闘機の大群だ。
猛攻を必死になって、針を通すように切り抜けても、息をつく暇すらもらえずに、また第二陣の敵戦闘機が襲いかかってくる。
この壁は長年、空を飛んできたベテランでさえも至難を極めるというのに、まだ飛ぶことしか覚えていない、ひよっこパイロットたちにこれを越えろなんて無茶な話だ。
実際、ここに来るまでにたくさんの教え子や後輩、いっしょに空を飛んだ同期の仲間たちが、火を噴いて堕ちていった。泣きながら叫んでいるやつもいたし、悔しげに笑っているやつもいた。少なくとも、こんな戦争がなければ、これからの世界を作っていくであろう若者たちだ。
「すまねえな、みんな。 せめてお前らの分まで飛んでやるからな」
愛機の速度がグンっと上がる。カタカタと小刻みに揺れだしたレバーをしっかり握り、機体を安定させる。
近づけば近づくほど、この特攻という作戦がどれほど狂気に満ちているのかがわかる。
敵艦隊は戦闘機に守られてはいないとは言えど、有り余るほどの機銃やら特殊兵器などで武装されていて、絶えず鉛の雨が浴びせられる。
この鉛の雨を避け続ける事など不可能だ。搭乗員のことを少しも考えていないこの装甲では、数発喰らっただけで即死だ。
それでも、やるしかない。
「ろくな人生じゃなえな、ちくしょう」
司は凄腕のパイロットとして戦争の中期から空を飛んでいた。その頃から戦況は芳しくはなかったが、隊の中でも撃墜数でトップを争い、敵味方問わず恐れられていた。
後々、司はデビルなんて呼ばれるようになる。神出鬼没で獰猛な狼のごとく敵を狩り殺すその姿はまさに悪魔にふさわしいだろう。
さらに司は悪運が強く、特攻隊を守るためにこれまた生存率が格段に低い直掩機として何度も出撃するも、必ず生きて戻ってきた。
当初は自分だけ生き残るためだけに逃げてるのだと仲間たちに陰口を叩かれたが、機銃の残弾数や飛んでいた仲間たちの証言、機体につけられた無数の弾痕が、それは決して本当ではないことを示していた。
だがどうやら、その悪運も今日で尽きたらしい。
取り付けられた爆弾は切り外しが出来なくなっているし、ここまで来て戻るには、さすがに集中力と弾がもたない。
なによりも、先に逝った仲間たちに顔向け出来ない。
「っし。 行くか」
さらに速度を上げて目標の艦隊との距離を詰めていく。
どうやら司のことを目視したらしい。徐々に銃弾が飛んできた。
「お前らにこれができるか?」
司はニヤリと笑うと、海面スレスレに機体を飛ばし、微かな海面の反射で銃弾を避けていく。あまりにもギリギリに飛んでいるために、プロペラが海面を叩き、水がはねる。普通のパイロットなら海にそのままダイブするだろう。
まさに神業だった。
さすがにまずいと思ったのか、鉛の雨が降りだしてくる。パシュンピシュンと弾が掠めていく。それでも司は堕とせない。十分な距離に達した。
司はこの時を待っていた。
「ここだ!!」
一気にレバーを引っ張り、機体を垂直に、しかも最高速度にして飛び上がらせる。体に負荷がかかり、歯を食い縛ってそれに耐える。
無理のさせすぎで、とうとう発動機部分から火が吹き出る。
「頼む! あと少しだけ持ってくれ!!」
突然の行動に、敵は反応できずに射角から司を逃がしてしまう。
「ぐおおおおおおぉぉぉ!!」
機体をぐるりと反転させ、そして突っ込んだ。その負荷で両翼が吹き飛び、発動機の炎が猛々しく燃え上がる。
「これでいい。 これで」
あとは数秒の間だけ耐えれば、終わりだ。
「もっと、自由に生きたかったな」
叶わぬと知りながら、最期にポツリと呟く。
自嘲の笑みを浮かべながら、司は目を閉じた。
最期に声が聞こえた、気がした。
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