神殺しの骸骨

フェンリル

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幕開け

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 誰かに呼ばれている気がする。
 司はゆっくりと目を開けた。雪が降り注ぐ地に倒れていることに気づく。
 目の前には痩せ細った、長い髭を生やした老人がいた。
「おお、よかった。 目を覚ましてくれてなによりじゃよ」
 にこにこと優しい笑みを浮かべている。多分、死後の世界からの使者なのかも。
「ここは死後の世界ですか?」
「ぬ? ここはアデリア大陸の北の果て、凍結の森じゃよ。 死後の世界ではないぞ」
「え?」
 聞き慣れない単語が耳に入る。体を起こして周りをよく見ると、確かに森の中にいるのがわかる。
「ここは一体...?」
「混乱しておるようじゃの。 話はワシの家でしよう。 ここは寒くてかなわぬからな」
「寒い?」
 確かに雪が降り注いではいるが、まったく寒さを感じない。老人はなにか気づいたような顔をした。
「ああ。 確かに寒さは感じんな、その体では。 にしても珍しいかたちで現れたものじゃの」
 と言って、しげしげと司の体を見る老人に首をかしげる。
「何がですか?」
「いや、転生人の中で骸骨で現れるのは初めてだからのう、ほれ」
「ハッ?!」
 老人が取り出したのは鏡だ。そこに写っていたのは、いくつも戦場に転がっていたものだった。
「うええええぇぇぇ??!」
 司は断末魔の叫びを上げた。
 司は骸骨、いわばスケルトンになっていた。


「少しは落ちついたかのう..」
 両耳をおさえて遠慮がち聞いてくる老人に司は申し訳なさそうに小さくなっていた。
「すまねえ、大声を出してしまって」
「構わぬとも。 むしろ自分の体がスケルトンになって驚かぬ奴の方が変じゃからのう。 元気そうでよかったわい」
 うなずきながら笑う老人の姿は見たこともないボロそうな服に包まれていて、手には杖を持っていた。
「とりあえず、色々と聞きたいことがあるんだが...」
「うむ、では場所を移すかのう」
 そう言って老人は軽く杖を振った。とたんに周りの景色が一変する。
 雪が降り積もった森から、ボロい木の壁へと変わる。
「ボロいじゃろ? あいにく建て替えが難しくてな。 色々とあったせいでこのまんまなのじゃ。 勘弁してくれ」 
 なにか裏がありそうな言い方に司は眉をひそめたが、特に気にすることがなく、すぐに元に戻す。
「さっきは助けてくれたありがとうございました。 俺は桐野 司。 色々聞かせてもらうけどいいか?」
「もちろんじゃとも。 ワシはウィザール。 死に損ないの老人じゃ」
 互いに握手を交わしたところで、司は早速いくつか質問をする。
「ここは前まで俺がいた世界とは別なのか?」
「その通り。 そなたが生きていた世界とはまったく違う世界じゃ。 しかもここは命あるものを拒絶する地として有名な場所なのじゃよ。 猛吹雪が吹き荒れ、氷の大地が広がる死の世界。 すごいじゃろ?」
「とんでもねえ場所だってことはよーくわかったよ。 それでさっきから聞いていたが、転生人ってなんだ?」
「転生人とは、何らかの力によって別世界から連れてこられた武士ことじゃ。 転生人にはそれぞれ不思議な力が備わっておるのじゃ。 もっとも、司殿は少々特殊な姿じゃがな」
「特殊どころか、化け物じゃんか。 どうなってるんだ?」
 司は自分の左手を文字通り付けたり外したりしている。なんだか不思議な感じだ。
「ワシにはよくわからんのう。 転生人でも出現には色々な話があるからな。 だが一つだけはっきりしているのは、意味もなく別世界から連れてこられた転生人は一人もおらんということじゃ。 どういう役目を担うのかはわからんが、もしかしたら司殿に備わっている力が鍵なのかもしれんな」
「はぁ...。 その力ってなんですか?」
「ふむ。 ワシの目は特別でな。 この目で見ればその能力を見通す事ができるのじゃ」
 先程まで金色だった左目が紫色に輝きだす。幾何学的な模様が刻まれている。
「ふむふむ。 蒼滅の炎と書いてあるのう。 これは確かに...」
「なんて書いてあるんだ?」
「書いてあることには、悪しきものを焼き尽くす聖なる蒼き炎とある。 たしかにこの世界に必要なものじゃな」
 ウィザールの言葉に司は首を傾げた。
「どういうことだ?」
 ウィザールは少し悲しげに目を伏せた。やはり何かがある。
「教えてくれないか? この世界で一体何が起きている?
 司はじっとウィザールを見つめた。根負けしたウィザールは息を吐く。
「実は、この世界は穢れた神と勇者によって不安定になっておるのじゃ。 ワシにも関係がある」
 そう前置きしてウィザールは語りだした。
「ワシは昔、戦神いくさがみだったのじゃ。 嘘ではないぞう? 人々に祀られておったからのう。 ワシら、神々が住んでいる天界という世界には、ある争いが起きていてな。 くだらん権力闘争だったのじゃが、ある時それが一変した。 小競り合い程度だったはずが、天地を巻き込むほどの争乱へと発展し、次々に神が死んでいった。 実は司殿のいた世界にも影響を出してしまったのじゃ」
「なに?」
「司殿が死ぬ原因となったその戦争も、ワシら神々のせいで起きたものじゃ」
「なっ‼」
 司はその時、戦争が起きたときのことを思い出していた。たしか、天変地異かと思われる程の災害が起きた。多くの死者がでて、支援が難しいほどの災害だった。そのため恐慌が起きた。そこから国々が小競り合いを始め、一気に戦争となった。
「じゃ、じゃあまさか、その災害の原因って」
「その通り。 その災害は神々のぶつかり合いで起きてしまったのじゃ。 結局今もまだ燻っておるが、実はこの争いには裏があったのじゃ。 誰かが裏でその争いを操っていたのじゃ。 ワシはすべてに気付き、立ち上がろうとしたがその時にはもう遅かった」
「操った奴って誰なんだ?」
 ウィザールはこの世の憎悪を吐き出すように言った。
「バイラス。 永遠神バイラスじゃ。 奴は全てを手中に治めるためにを、邪魔であった神々を仲違いさせ、操り、悉く殺した。 そしてワシを含む神たちを根絶やしにするために、転生人を呼び込み勇者としてしたのじゃ」
「まじかよ...。 しかも教育、だと?」
「うむ。 奴はその類の能力が特化していてな。 いくら転生人といえど、奴の手にかかれば無力。 いわば洗脳じゃな。 勇者は奴のせいで穢れた者となった。 今はどのくらいまともな者がおるだろうか..」
「でも神様だろ? その勇者ってやつでも、神には対抗できねえじゃないのか?」
 司の言葉にウィザールは悲しげに首を振った。
「バイラスは勇者たちに神の力を分け与えた。 神の本質とも言うべきその力は、神をも殺す。 その力は、神が自分の力を削らないと渡せぬものなのじゃ。 つまりがその力を渡すのには限度があるというわけじゃ。 しかし勇者は一人ではない。 何人もおる」
「まさか...!」
 削らなければ渡すことができない力。しかし、勇者は一人ではない。なればそれなりに神がいないと渡せない。ということは。
「そのとおりじゃ。 奴は殺しまくった神の亡骸がたくさんあるからのう、渡す力には困らんのじゃ。 もしかするとそれも奴の考えの内だったのかもしれぬ。 おかげで勇者は各地で暴れ回り、神々は散り散りになった。 しかも奴は人々をワシらから引き離すために、ワシらに邪神という汚名まで着せた。 もはや、今は何人生き残っておるか...」
「とんでもねえ野郎だな、バイラスって奴は」
 どうやら司たち人間たちのことはただの駒としか思っていないのだろう。どれだけ戦争で悲惨な思いをしたことか、バイラスという奴には気にも留めていないのだろう。
 司の目である白い光が仄暗い紅へと変わる。どろりとしたどす黒い感情が反応したのだろう。その様子にウィザールは息を呑む。
 強烈でむせ返るような死の気配がたちこめた。
「す、すまない。ワシがもっと早く気づければこんなことにならなかった。 本当にすまない」
 ぐっと頭を下げるウィザールを見て、司はゆっくりと気持ちを落ち着けた。
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