神殺しの骸骨

フェンリル

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冒険の始まり

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「別にあんたが謝らなくったっていいだろ。 むしろあんただって被害者だ。 好き勝手に暴れられて、居場所を失い、迫害されている。 立派な被害者だ」
 ウィザールはもう一度頭を下げると、苦々しげに言った。
「同じ神として奴の行動は見過ごせない。 じゃが、いかんせん止めるにしても力が弱まり過ぎた。 今、勇者に対抗できる者は少ないだろうな」
「どうんすんだよ。 せっかく自由に暮らしていけると思ったのに、これじゃあいつ殺されるか分かったもんじゃない」
「うむ、しかも奴の手先だった勇者たちは暴虐のかぎりを尽くし、この世界の人々にも危害が及び始めている。 勇者どもを倒すには転生者でなければ無理なのじゃ。 なぜならば、転生者は勇者ととても近い次元に存在し、力も届くからのう。 司殿にこんなことを言うのはいけないとは思っておるが...」
 司は、ウィザールが言わんとすることに気がついた。
「まさか、俺に勇者やバイラスを殺してほしいって頼むつもりなのか?」
「そうじゃ。 今この状況で奴らを殺せるのは司殿、ただ一人じゃ」
「...」
 司は少し悩んだ。二度目の世界で自由に生きてみたいのに、また争いに巻き込まれるのは御免だった。だが、このままではまた、そいつらのせいで苦しい思いをしなければならないかもしれない。それだけは許さない。
 体の奥底で声が響く。殺せ、殺せ、殺せと。怨嗟が蠢いている。その声一つ一つが聞いたことのある声だった。司はそれがなんなのか分かっていた。
「そうか..。 お前らもそう思うか」
 この世界に来て、決めたことだった。
 壁となるものは何であろうとぶち壊す。軍のアホみたいな指示で、失ってしまった命。 今もう一度手に入れることが出来たのだ。そう簡単に手放してやるものか。
 あいつらもそう言っているのなら、話は決まった。
 司の目がギラリと紅に染まる。
「分かった。 俺がそいつらをぶっ潰してやる」
 圧倒的なオーラが司を包み込む。それは亡者の、名も無き者たちの怨嗟。
「ありがとう。 本当にありがとう」
 万感の思いを言葉の端に滲ませながら、ウィザールは礼を述べた。
「それで、俺はどうすればいいんだ? ぶっちゃけ、何にも知らないでここに連れてこられたから、度しようも無いんだが」
「差し当たっては、まずは力の差じゃな。それを埋めなければ勇者は愚か、この世界で生きていくのも難しくなってしまうのじゃが、それはワシの命で埋めればいい話じゃな。 神の本質の力を持つ者には、やはり同じ本質の力が必要になってくるからのう」
「え? そんなのだめだろ!」
 慌てて司が止めようと言うが、ウィザールはにこやかに笑って言う。
「いいのじゃよ。 そのくらいはワシにさせておくれ。 しかも力の差を埋めなければ、奴らを殺すことはおろか、近づくことすらできぬじゃろうからな。 司殿はとても信頼に値する素晴らしい男じゃ。 それに...」
 そこで一回言葉を区切ると、さっき浮かべていた好々爺のような笑みとは別の、もっと禍々しい笑みを顔に貼り付ける。
「ワシも奴を殺すための一柱になりたいんじゃよ。ここまで苦しみ、傷つけられてきたこの恨み、それをぶつけてやりたいのじゃよ」
 ごくりと司は息を呑んだ。これが神なのかというオーラをぶつけられた。あまりの迫力に押しつぶされそうになる。
 ウィザールの一言で司は少しだけ理解した。この老人は昔、相当素晴らしい神だったのだろう。だからこそ、ここまで歪みに歪んでしまったのだろう。
 どれだけの悲しみと憎しみだったのだろうか。そこまでは図りきれない。だが、バイラスというやつは本当に危険で最低最悪の神だということは分かった。それだけは、確かだ。
「分かった。 頼む」
 ウィザールは司に力を与える前に色々な助言をくれた。しかも今持っている金もくれた。あまりにも至れり尽くせりなので、さすがにここは断ろうとしたが結局ウィザールに押し切られてしまった。
 いろいろとこの世界についての話を聞いたところで、ウィザールは魔法陣を展開する。幾何学的な文字がずらりと司を中心に円のように広がっていく。一つ一つの文字がきらきらと輝き、美しい。
「よし、これで準備はできたぞ」
「流石、神様だな。 見た感じ、かなり難しいようなものに見えるが?」
「ほぉ、慧眼じゃな。 この魔法陣は超がつくほど強力な魔術師が十人いてやっと作れるよなものじゃ。 それでもここまで綺麗には作れぬがな。 さて、お主も準備はできてるかの?」
「もちろんだ、やってくれ」
 ウィザールはうなずき、杖を司に向けて掲げる。杖に埋め込まれている美しい宝石から、まばゆいほどの光があふれだし、魔法陣へと吸収されていく。
 膨大な光は狭い小屋の中を太陽のように照らし出し、魔法陣が司の体へと入り込んでいく。
「す、すごい。 体が熱く、熱を発している気がする。 力が湧き上がってくるぞ!」
 体の奥深くで何かが蠢いている気がする。その何かは、熱を発してゆっくりと花開く。
 ボッと体が燃える。蒼い炎だ。見とれてしまうほどの美しい炎が、司の白骨化した体を猛々しく、柔らかく包み込んでいる。
 熱いが、熱くはない。不思議な感覚に司はくすぐったそうにする。
 小屋いっぱいに輝いていた光は次第に薄れていき、そして消えた。炎もゆっくりと収まっていく。
 周りがはっきりと見え出したとき、司はウィザールの姿を見て驚く。
 ウィザールの肌は白さを失い、茶けた土のような色に変わっている。体の至るところに亀裂が走り、ボロボロに崩れかけている。
「ウィザール!」
「構わぬ。 元から分かっていたことじゃったからのう。 神の本質と呼ばれる力を余すことなく注ぎ込んだのだからな。 この体は抜け殻も同然、崩れていくことは当たり前じゃ。しかし、その力の全てが花開くには時間がかかる。 経験を積むのじゃ。 戦い、そして学ぶことにより力は花開くだろう。 さて、あとは頼むぞ」
「当たり前だ、ここまでしてくれたんだ。 必ず、約束は守るさ」
 ウィザールは嬉しげに微笑んだ。
「うむ。 最期に、司殿。 奴を打ち滅ぼすだけでなく、この世界を謳歌するのじゃ。 一度目の世界で出来なかったことを、思う存分して、楽しんでくれ。 司殿の二度目の世界が、とても素晴らしいものになることを願っているぞ」
「ああ、ありがとうな」
「行け! 若人わこうどよ! 巣立ちの時じゃ!」
 祝福の言葉を述べながら、ウィザールは跡形も無く崩れ去った。
「行ってくるよ、俺に任せとけ。 見ててくれ、俺の道を」
 司はゆっくりと歩き出す。外に出た途端、先程までいた小屋は一気に倒壊して、雪の中へ溶けていった。
「さて、まずは近くの町まで行こう。 計画はそこから建てるしかない。 あとはこの体を覆って外から見えなくさせれるような、がっちりした鎧が欲しいなぁ...。 だって、このまんま行ったら、絶対退治されそうじゃん」
 頭に思い浮かぶのは、中世のヨーロッパの騎士が身につけていたような、あの頑丈な鎧だ。
「そうだなあ、こういうのが欲しいな。 さあ、行こうか。 そうだ、を作るべきだな。 いつか、またここに戻ってこれるように」
 猛吹雪の中を司は歩き出す。決意を秘めた白い光の瞳を宿して。



 凍結の森を進んだ先に、一つ、質素な墓が建っている。
 石碑にはこう書かれている。
「戦い抜いた戦神・ウィザール、及び共に空を駆け抜けた、銀翼の名も無き戦士たちがここに眠る」と。
 戦時中では弔うことも、遺骨も、形見すらも残せなかった、悲しき翼たちが、生きて、戦った、唯一の証である。
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